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婚約破棄?っしゃあ!

ご都合主義です

「エイ! お前との婚約は破棄する!」


 美しいドレスを着た淑女たちが舞う中、そんな宣言に周囲は静まり返り、流れていた音楽が突然大きくなったように感じる。そんな宣言など露知らず、シャンデリアがキラキラと輝いている。定例の夜会の中、我が国の王子は何を思ったのかそんな宣言をした。そんな彼の腕の中には、小柄で肉欲的で派手な美貌の女性が一人、胸元を押し付けるようにして王子にしなだれかかっている。一方で、背が高くスラリとした儚げな美貌のエイと呼ばれた者は、名を呼ばれ恭しく頭を下げた。


「……婚約破棄、承知いたしました」


 エイの返答に、会場はざわめく。


「元々、王家にふさわしくないと思っておりましたわ」

「女性なのに、背が高すぎるし、あのような男のような服装がお好きでしょう?」

「流行を作ると言ったって……ねぇ?」


 若い女性たちがそうこそこそと囁く。


「女のくせに、外国語や政治の知識なんて不要だろう」

「可愛げがないよな」

「武術も馬術も得意だろう? 男に生まれたら、我が国のためになったのに」


 若い男性たちもそう囁く。


「あの家は権力が集まりすぎだったんだ。殿下も英断だな」

「王家から婚約の打診を受けたのに、一度断ったんですって。そんな不敬なことをするからよ」


 年配の夫妻たちがそう囁く。



「……理由すら聞かないのか?」


 王子が眉根を寄せて、エイに問いかけた。


「はい。では、早急に手続きを済ませましょうか」


 エイがそう言うと、王子付きの侍従が書類を持ってきた。王子がエイの様子をちらちらと伺いながら名前を記入した。侍従がそれを確認して書類を受け取ると、エイに差し出し、エイが流れるようにサインした。侍従が確認し、書類を提出する。

 元々、その儚げな美貌と突出した能力で王子に気に入られ、強引に婚約者にされたエイだ。その書類を法務大臣であるエイの父が確認し、即座に承認印を押した。国王はいないが、法務大臣であるエイの父が承認すれば、手続き上問題はない。それに、王族からの婚約の破棄だ。今後のエイの婚姻に支障はでるだろうが、単なる法務大臣たるエイの父では、拒絶などできようがない。


「父上。登録は済みましたか?」


 エイが法務大臣に確認すると、エイの父はもう一つの書類をすぐさま取り出して、サインと承認印を押す。そして、部下に手渡すと即座に声を張り上げた。


「法務大臣の名によって、王子オウガ様と我がエトウ家の()()、エイの婚約が破棄されたことをここに宣言する」


 ざわつく周囲を無視し、エイはいつの間にか横にいた王子の侍従から短剣を受け取り、自分の長い髪を片手で掴んで、反対の手に握った短剣で切り落とした。


「同時に、十二年前に我が子息エイの出生時に、エイの儚げな美しさから、出生の登録した担当者が男児の登録を記入ミスだと思い、女児に誤登録したミスが法務局で発生していたことをここに公表する。なお、当該担当者は発覚時に懲罰を与えており、私も法務大臣として責任を取って辞職する。そして、法務副大臣の我が弟を中継ぎとして我がエトウ家の家長に任じ、エイが成人時にはエイを家長とすることを宣言する!」


 エイの髪を切り落とした行動やエイの父、法務大臣の宣言に、夜会会場は流行りの百貨店(デパート)の開店時のような騒ぎになった。右に左に伝令は走り、エイが男性だったことにショックを受ける男性。そして、髪を短くして微笑むエイの美しさから叫喚する子女たち。


「ようやく、男として振る舞うことが許されて嬉しいですよ。父上」


「迷惑かけて済まなかったな、エイ」


 美しい親子の仲のいい語らいに、夫人たちもうっとりと目を細める。エイが振り返ると、目を丸くしたまま固まる王子と、その横でエイに見惚れる王子の恋人がいた。そんな様子にくすりと笑ったエイが、王子に近寄り、その顎をくいっと持ち上げて囁いた。


「殿下。せっかく気に入っていただいていたのに、申し訳ない。……男の私のことも気に入っていただけるだろうか?」


「あ、あぁ」


 その美しい顔に思わず顔を赤く染め、目線を逸らす王子に、そんな二人の光景に声を失う周囲。にこりと微笑んだエイが、王子の背中に手を置いて、王子の横に立つ。王子の恋人はいつの間にか離れていた。


()()()から婚約を結んでしまった私たちだが、婚約期間に築いた信頼は消えないと、私は信じている! 殿下と私の関係は不滅だ! でしょう? 殿下?」


 にっこりと微笑んで、背中に回した手に力を入れたエイに、顔を赤く染めたまま王子がエイを見上げて返答する。


「あ、あぁ。私たちの友情は、永遠だ。……エイを、我が側近とする」


 拍手で迎えられた二人が笑みを浮かべ、エイが王子の耳元で囁く。


「今後とも、よろしくお願いしますね、殿下」







 なぜか王子は独身を貫き、退位後は甥に爵位を譲ったという。

エイの誤登録に気づいた時、政敵との紛争の真っ只中で、自局の多大なミスなど公表できる状態じゃなく、そんな状態で打診された王家からの婚約打診を本当の理由で断ることなどできなかったとか。







拙作を最後までお読みいただきありがとうございます!


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