第26節 わしと結婚してくれ!
困惑する原を前に、イブは満面の笑顔でソファの真ん中に座り直した。
「蝶々も言ってたじゃないですか。大事なのは機能であってハコではない、って。
いいですか、わたしが言う図書館って、ライブラリのことです」
首を左に曲げる原。
「わからん。どこが違うんじゃ?」
そう言って身を乗り出す。
「ライブラリは、『来ぶらり』と書きます。
ぶらりと来てね、という意味です」
「上手いなぁ」
鼻眼鏡をずり上げる原。
さらに続けるイブ。
「ネーミングも大事ですが、問題は中身です。
昔のデータは全て紙でしたから、1か所に図書資料を集めて公開したわけで、そこを図書館と名付けたわけです。
ところが、今はデータのほとんどが電子的に入手できます。特に、大学の研究資料なんか、多くはそうです。オンラインで、世界中から手に入ります」
「なるほど。
で?」
原がソファに背を預ける。
前のめりになるイブ。
「例えば、中学校の図書室の隣りの空き教室を『来ぶらり』にします。
ネットに繋がったコンピューターを何台か置いて文献資料の探索と印刷ができるようにすれば、ほぼデータ探索の機能は果たせます。
その上で、実際に本を手に取りたいという方のニーズに応えるため、町民とネットから本の寄付を募りましょう。
町外からの寄付のお返しには、メロンやダイコン、キャベツなど深井の名産品を送ればいいんです。しらす干しでもトコブシの煮つけでも、冷凍の鰺のさんが焼きでもいいです。
そうすれば、かなりの数の本が届くと思います。
大学の先生なんか本棚10本分以上本を持ってますから、退職予定の先生方に直接寄贈をお願いすると早いかもしれません。古本屋に売ったって安く叩かれるのは、皆ご存知です。
わたしも知り合いの先生に話してみます」
うなずく原。
「もちろん『来ぶらり』の運営は、町民のボランティアです。
開館時間も、図書館は普通午後5時までですが、『来ぶらり』は9時までにしましょう。社会人が仕事から帰ってきてからも使えるようにするんです。
軽食を食べれる喫茶コーナーもあるといいですね」
「上手いな。イメージ、湧いてきた。
参加型だな?」
声が明るい。
拳を握るイブ。
「こちらの基本戦略は、住民参加です。他力本願ではありません。
町の団体自治を下支えするのも、豊かな住民自治のはずです。
『自分たちの未来は自分たちで作る。自分の人生を他人任せにしない』、これです」
身を乗り出してくる町長。
「ますますイメージが湧いてきたぞ」
ところが、急に原の顔が暗くなる。
「しかし、さすがに、消防署は無理じゃろ?」
破顔一笑のイブ。
「そう言うと思ってました。
消防署は『少防所』と書きます」
「またか!」
右手でおでこを叩く原。
背筋を伸ばして話すイブ。
「いいですか、大事なのは機能です。
平時は、少年少女、子供たちの集まる青少年の家として、子供を守る安心安全の機能を持たせます。
子供を指導し事故を防ぐ指導員のほか、AEDを置いて、退職した看護師さんか救急救命士の資格を持っていた元消防士の方がボランティアで常駐できれば、ベストです。
場所は、小学校の空き教室でしょうね。子供も来やすいです。
あと、新宿の原医院の協力が得られれば、完璧です。あそこは、大先生と若先生の2人がいて、2人とも内科と外科の両方を診れます。非常時の急な呼び出しでも、2人のうちどちらかは必ず来れるでしょうから、両先生の理解が得られれば、何の不安もありません」
「さすが解決イブ!」
原の両目が大きく輝く。
「蝶々、町民に対して、大声で『来ぶらりを作ります、少防所を作ります』と叫んで下さい。
そうすれば、図書館と消防署の誘致公約に傾いている中間派の町民を、合併派からかなり引きはがせると思います」
原の顔が近づき、イブの両手を握りしめた。
「わしと結婚してくれ!」
のけぞるイブ。
「奥様がいらっしゃるじゃありませんか」
「あれはいい、離婚する」
「ブ、ブー。わたしにも、一応、、、いる、かな?」
イブが、自分の手から原の指を1本1本はがす。
「ダメか、、、」
下を向いた原の口がヘの字に曲がった。
「どうどうどう、、、。蝶々、今は選挙に集中して下さい。負けたら、全て終わりですから」
イブに諭されて、背中を伸ばす原。
「わかった、言う通りにしよう」
こうして、牛目陣営と原陣営は、がっぷり四つに組んだ選挙戦を戦うことになった。




