新しい力
温は美咲の指導の下で戦闘力強化に余念がありません。一方郁は...
温はきょうも河川敷で美咲のレクチャーを受けていた。
「言ってなかったけれど、このロッドの技、有限よ。魔力を消費するので連射は無理。シュトロームとシュトラール、これでだいたい打ち止めね。」
「そうだったんですか。」
「そう、だから多数の雑魚敵相手に使うわけにはいかないの。雑魚相手には白兵戦よ。」
「白兵戦って、その、殴ったり蹴ったり。」
「そうよ。変身後は身体能力が10倍になるから何とかなるわ。ただ...元の能力の10倍なので、個体差があるわね。ビブリアは運動とは無縁の文系少女みたいだから、腕力や脚力は一般男性の半分くらい?もう少し上かな。10倍になっても一般男性の5倍。そんなに圧倒的とは言えないわ。敵の雑魚戦闘員は一般男性の2倍だから、ビブリアのアドヴァンテージは2.5倍。そんなに楽勝というわけではありません。私は美少女戦士になってからジムに通ってキックボクシングを習っているので、一般男性に負けない腕力と脚力を持っています。変身してブーストすれば白兵戦でたいていの魔物にもひけは取りません。」
「すごい、美咲さん、パンチとキックで敵を倒しちゃうんですね。」
「で、ここが今日の大事なポイントなんだけど、大量の雑魚敵を前にしたらロッドが邪魔になります。なので収納を覚えなければなりません。」
「この服にロッドを収納できるポケットがあるんですか?スカートの中?」
「まさか。そんなところに入れたら自由に身体を曲げられなくなるでしょ。異空間収納です。私たちの変身も異空間から変身キットが現れて自動で装着されるの。それと同じで、ロッドだけ異空間に戻したり、また取り出したりできるのよ。」
「おお、それは便利ですね。」
「やってみるわね。Aufbewahren!」
創立者のこだわりでまたドイツ語だ。このオーダーでロッドは光の粒になって消えた。
「Herausnehmen!」
そしてロッドはまた現れてヴァイオレットの手に握られた。
「どう、できそう?」
「すみません、ちょっとスペルを書いてもらって良いですか。私、ドイツ語の発音を配信動画で少し勉強したので、スペルを見れば何とか発音できそうな気がします。」
「わかったわ、こうよ。」
「アウフベヴァーレン!」
温のロッドは無事に収納された。
「ヘラウスネーメン!」
温のロッドは再び温の手に握られた。
「これでいつでも白兵戦に移れるわね。」
「変身前の戦闘力を底上げしないと不安が残ります。」
「そうね、できる範囲で良いから腕力と脚力を上げる努力をして。」
「わかりました。戦闘少女日野温、ここに爆誕です。」
「あ、夕方の多摩川から水棲魔獣が複数浮上してきたわ。良い機会だから白兵戦を体験してみなさい。弱いわよ、あいつら。私はここで見ているから。」
「ラジャー!アウフベヴァーレン!」
温はジャンプして5メートルの高さから1体にスタンピングキックを食らわし、その反動で斜めに飛んで着地し、鋭い踏み込みで敵の顔面にジャブを叩き込み、そのままその頭部をヘッドロックしたまま飛行した。そして30メートルほどの高さから敵を落とし、そのまま落下して膝蹴りを食らわせた。これで2体が消滅し、残るのはあと3体だ。その様子をヴァイオレットは感心した様子で観察していた。
「がんばって、ビブリア!あと3体よ。」
魔物がビブリアに組み付こうと迫ってきたが、スピードが遅い。ビブリアは悠々と横に跳んで攻撃を避け、身体を回転させながらキックを連続で叩き込んだ。怯む相手に今度は連続チョップ。魔物の首が吹き飛ぶとともに消滅した。あと2体。ビブリアは再び魔物を抱き抱えて飛行し、そのまま下にいる別の魔物に叩き付けた。地上で衝突した2体の魔物は消滅した。」
「ブラボー!ビブリア、あなた良いセンスをしているわ。初戦闘で飛行能力を組み込むなんてただ者じゃないわ。」
「小さいころから見ていたアニメや特撮で重力を無視した戦いをしているに憧れていたので、つい自分でもやってしまいました。」
「危なくなったら飛び出そうと思っていたけど、本当に安定してたわ。」
「ありがとうございます。またひとつ自信が付きました。これから腕力と脚力を底上げしてもっと強くなります。」
「期待してるわね。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
郁は毎日のトレーニングを欠かさなかったので、裸になって鏡を見るとあきらかに筋肉が付いてきた。ネットで仕入れた情報に従って、トレーニングのあとでプロテインを摂取しているのも効果があったようだ。これなら変身後の戦闘力もかなり上昇しているだろう。
あとはメンタルだ。怪物を前にするとどうしても怯えを抑えられない。逃げ出したくなる。あの美少女戦士のようにたじろがずに立ち向かえる勇気が欲しい。勇気を付けるにはどうすれば良いか?哲学者に問うか?いや、遠回り過ぎる。だがハウツー本は嫌いだ。胡散臭い。要するに恐怖を克服できれば良い。恐怖体験ができるところに行ってそれを耐えた成功体験、それが勇気の元になるのではないだろうか。恐怖体験...お化け屋敷。安易だな。そして苦手だ。お化けは昔から大の苦手だ。お化け屋敷で泣いて逃げ出したら、トラウマになって勇気の元が縮んでしまう。肝試し。これはお化けが仕込まれていないから、暗闇と孤独に耐えれば良いだけ。よし、ひとり肝試しに行ってこよう。近場の心霊スポット、どこかないかな?検索してたどり着いたのは、今は使われていない旧国道のトンネルだった。電車を乗り継いで相模湖の向こう側だ。よし、思い立ったが吉日だ。さっそく出かけよう。中野郁、男になって返ってくる。俺はヒーローだ。魔物や怪物の類いが出たらフィニッシングパンチをお見舞いしてやるぜ。
郁は電車を乗り継いで、東京都の西の果て、もう山梨県が見えるあたりまで出かけて件の心霊スポット、旧国道のトンネルにたどり着いた。
「良し、入るぞ。ヒーローは怖がらない!」
入って100メートルぐらいすると、たくさんのコウモリが襲ってきた。魔物ではないので変身はしない。郁は顔の前で腕をクロスしてコウモリの攻撃を防いだ。コウモリはテリトリーに入り込んだ異物にとりあえずぶつかってみたが、それ以上の争いは何も得ることはないと本能的に察知してトンネルの奥に去って行った。
「ふう、びっくりした。ホラー映画の冒頭みたいだな。」
しばらく進むと、風の流れが変わった。出口が近いのかも知れない。トンネルの出口までたどり着いたら、出口側で電車の駅を探すか、それともトンネルをまた戻って行くか。出口側に駅がある保証はないのでトンネルをまた戻るのが良いだろう。危険は何もなかった。そう思って安心していたら、背後に何やら気配がする。それも複数。
出た!複数のコウモリ怪人だ。5体いる。怪人の出現で変身アイテムが輝き始めた。郁は変身した。
「トウッ!」
郁のパンチをコウモリ怪人は空中に飛んで避けた。郁はジャンプでそれを追ったが、背後から別の個体の攻撃を食らってしまった。飛行にジャンプで対応するのは分が悪い。こちらは直線的にしか動けないが、相手は縦横無尽だ。敵の防衛力は弱く、攻撃が当たれば一発で沈むが、その一発を当てる間に郁は数発の攻撃を背後に食らってしまう。装甲が剥がれると、敵の攻撃の痛みが生身の身体を容赦なく襲った。最後の1体を倒したとき、郁もまた倒れた。薄れ行く意識の中で郁は死を覚悟した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
郁は秘密基地で目を覚ました。傍らにあの怪しい女が立っていた。
「気付いたわね、中野郁くん。」
「あの、俺は...」
「トンネルの戦闘で深手を負って倒れていました。私たちはあなたのヴァイタルを常時監視しているので、すぐさま救助に向かってあなたを回収したのです。危ないところでしたね。」
「俺はいつも監視されているのですか?」
「安心して。ヴァイタルだけよ。そこに異常が見られたらGPSをたよりに救助班が出動して回収します。ヴァイタルはあなたの身体に埋め込まれた変身コアから送られてくる信号で確認できるの。」
「俺はやばい状態だったのですか?」
「防衛力がボロボロになったところに敵の攻撃が加えられました。危なかったわね。敵が複数だとこのような状況に陥りやういわ。ダメージを受けない立ち振る舞いが必要なのだけど、なかなかそうもいかないわね。」
「攻撃している間に後ろから何度も攻撃を受けました。」
「ここに運び込んでから現在の状況をスキャンして調べたけれど、ふだんのトレーニングで腕力と脚力が底上げされたようなので、変身後の攻撃力はずいぶん高まったようです。だけど防御力が低い。防御力を人間の状態でのトレーニングで上げるのは難しいのです。そこで変身コアを取り替えることにしました。防御力が3倍に増えています。見た目もずいぶん変わります。メタリックな感じですね。これが変身デバイスです。変身してみてください。細部をチェックします。」
「わかりました。・・・・・変身!」
「ではこのショックガンをその装甲で受け止めてください。行きますよ、シュート!」
女が放った銃弾を新しいボディの装甲は難なくはね返した。
「痛くありません。」
「そう、良かったわ。これで大丈夫ね。スピードも上がっているはずなので、戦闘で思い切り暴れてちょうだい。それじゃあ家に送って行くわね。」
郁は新しいメタリックのボディーを手に入れました。銃弾をもはね返す無敵のボディー。これで温の前に立って彼女を守ることができそうです。




