郁は必殺パンチの威力を上げたい、温は美人先輩と訓練
前回の戦闘は何とか勝てたけど、温が来なかったら郁は倒れていた。強くならないとヒーロー失格だと郁は覚悟を新たにする。温は、何だかハッピーに気持ちになるようです。
郁は昨日の戦闘のことを考えていた。負けそうになった自分がふがいない。いや、でもヒーローになったのは自分の意思ではなくて無理矢理だったし、そもそも戦闘向きの人間ではないし、たとえ変身しても地の自分が出るからなあ。それと比べると、あのとき現れた美少女戦士は強かった。ちょっと新人感があったけど堂々としてたし、登場時の「待ちなさいっ!」が決まっていたな。うん、完全に負けている。何だか俺、ちょっとかっこ悪いかも。もっと強くならないと。
無理矢理ヒーローにされたけれど、なったからにはしっかり勤めないとな。まずあの必殺技、名前がないから「なんたらパンチ」なんて言ってるからサマにならない。やるからには照れてないで本気でやらないと。美少女戦士のように名乗りを上げようか。でも子どものころに見てた仮面ライダーって名乗っていなかったよな。スーパー戦隊は名乗っていたっけ?忘れた。まあ名乗りはやめよう。だけど必殺技には名前を付けよう。ヒーローパンチ、いや、ベタすぎてダサい。マジンガーパンチ、いや、巨大ロボットじゃない。これで終わりにするということで、そうフィニッシングパンチ、これ叫びやすそうだ。フィニッシングパ~ンチ!でも威力が乏しいとフィニッシュできないな。俺、高校時代の自転車山登りで足腰は鍛えられているけど、腕力がないからなあ。パンチ力を鍛えるにはどうすれば良いんだろう?どれどれ、検索検索っと。お、トレーニング動画を見つけた。これを見ながら、体幹、腹筋、拳と手首か。そしてこれらの基礎トレーニングをこなしてからシャドーボクシング。うん、基礎トレーニングは家の中でできるけど、シャドーボクシングは外に出ないとだな。うわ、恥ずかしい。そうだ、多摩川の堤防ならあまり目立たない。
「あ、中野さん!」
「あ、日野さん...恥ずかしい姿を見られてしまった。」
「中野さん、ボクシングするんですか?」
「いや、ただ健康のためにランニングしているんだけど、手持ち無沙汰だからついでにシャドーボクシングしようかなと。」
「おお、一挙両得ですね。」
「一挙両得って言うんですか、こういうの?」
「じゃあ一石二鳥。」
郁は読書好きなのでこういう話題になると饒舌になる。それが大学で少し浮き気味になる原因でもある。
「一挙両得と一石二鳥は似ているようで少し違うんですよ。前者は計画的に効率を達成、後者は偶然の幸運で二つの利益を得る。」
「おお、さすがセントラル大学、博学ですね。」
「あ、ついいつもの悪い癖が出てしまった。これやって大学で浮き気味になる。」
「ええっ、そうなんですか?知識は分け合ったほうが絶対に良いですよ。私、いま分けていただいてすごく得をしました。無手一得です。私が今作った四文字熟語、意味は、何もしないのにひとつ得しちゃった、です。」
「はっはっは、日野さんは面白いな。」
「じゃあ、トレーニング頑張ってくださいね。」
「うん、またね。」
走り出した郁は、さっきの会話を思い出してニヤニヤした。日野さんと話すとほのぼのとした気持ちになる。日野さんのような人々を守るためにも、もっと強くなって怪人に負けないヒーローにならないと。
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温は嬉しくて笑顔がこぼれた。ラッキーすぎる。ただ当てもなく散歩していたら中野さんと出会って会話もしちゃった。散歩をして健康増進、そして中野さんと会って会話、きゃあ、これこそ一挙両得じゃなくて一石二鳥だわ。どうしよう、ドキドキしてきちゃった。好きになっちゃったのかな?そんなの許される?美少女戦士って恋愛禁止じゃないの?そうだ、訊いてみよう。温は通信機を出してスタッフに質問した。
「Hier IPWF, mit wem spreche ich?」
「あの、質問良いですか?」
「何でしょう、ビブリア。」
「美少女戦士って恋愛禁止ですか?」
「はあっ?何言ってるの?恋愛禁止という言葉、初めて聞きましたが。」
「アイドルとか恋愛禁止ってことが多いので。」
「アイドルと美少女戦士は何の関係もありません。感情生活を縛るルールはありません。そもそも恋愛って禁止できるものなのでしょうか?自然に発生して自然に消滅する、子孫を残して種を存続させるために自然に組み込まれたシステムです。」
「あ、はい、もう大丈夫です。それでは失礼しました。」
ふう、外国の文化だからいろいろ違うのね。恋愛は自由、はい、オッケーをいただきました。あとは自分に芽生えたこの感情、静かに育てよう。そう思ったとき、通信機が受信を伝えた。
「はい、ビブリアです。」
「一方的に切られたから伝えそこないましたが、伝達事項があります。これからヴァイオレットと会ってください。場所は、そうね、変身できる場所が良いわ。敵が出なくても変身できるようにセイフティーデバイスをオフにします。場所は、そうね、人に見られないとなると、河川敷の橋の下です。ビブリアの家から近いはずです。」
「わかりました。橋の下で待ってます。」
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「こんにちは、温ちゃん。」
「えっと...どちら様ですか?」
「あ、そうか、変身前の私、まだ見たことがなかったのね。ヴァイオレットよ。」
「わあ、そうだったんですね。そういえば面影が...えーと、すみません。一部わずかに変身が解けていない部分がありますが...」
「ええっ!」
「おでこのティアラ。」
「わ、やってしまった。これで駅から歩いてきちゃった。」
「自動でシュルシュルって戻るんじゃないんですか。」
「そうなんだけど、たまにこういうこともあるのよ。あなたも気をつけなさい。変身が解けたら各部チェック。」
「はい、了解です、先輩。」
「あなた、昨日は初戦で華々しく活躍したそうじゃないの。」
「いや、それほどでもないのです。クリスタルシュトラールで魔物は倒れたのですが、消滅しなくて。それでロッドでボコボコ殴っていたら、改造人間っぽいヒーローがとどめを刺してくれました。」
「改造人間っぽいヒーローですって?」
「はい、正体不明で、敵を倒すとトウッってジャンプして消えてしまいます。」
「ふーん、まあ敵を倒してくれるなら謎の味方だと思って良いわね。さて、私が今日ここに来たのは、美少女戦士の“基礎訓練”のためです。あなた、訓練も何もなしで魔物をやっつけたけれど、自分の能力をしっかり把握しておかないとピンチになったときに困ります。まず変身後の性能について話すわね。すでに戦闘で経験済みだろうけど、身体能力が変身前の10倍に跳ね上がるの。100mを15秒で走れるなら1.5秒になるということ。そして、短い距離なら飛行も可能です。時間は10秒。10秒というと短いように感じられるけど、高いビルから落下しても飛行で安全に着地できます。この多摩川の向こう岸なんてあっという間よ。まあジャンプでも向こう岸に届くけどね。あなた、走り幅跳びの記録は?そう4m、なら40mになるから行けるわね。それでは実地訓練に入るので変身してください。今日はセイフティーデバイスがオフになっているので敵がいなくても変身できます。」
「じゃあロッドの使い方ね。あなたはまだクリスタルシュトラールしか使ったことがないけれど、高幡不動であなたがかました上級ボケ、そうクリスタルシュトロームというのが実はあるのよ。シュトロームというのはドイツ語で流れ、ふつうは電流の意味で使われるわ。見てて。クリスタルシュトローム!」
ヴァイオレットのロッドから放射状に電流が走った。
「これはね、敵が素早すぎてシュトラールが当てにくいときに使うの。感電させて動きを止めるのよ。やってみて。」
「クリスタルシュトローム!」
温のロッドから電流が川に放たれた。幸い、感電死した魚が浮いてくることはなかった。
「じゃあ次、同じ電気系だけど、収束して敵を攻撃します。見てて。クリスタルブリッツ!」
ヴァイオレットのロッドから稲妻が放たれた。電熱で川から蒸気が上がる。
「クリスタルブリッツ!」
「はい、なかなか良いわね。これ、発音が悪いとロッドが反応しないのよ。ドイツ語、習ったことがないんでしょ?上手ね。」
「ふっふっふ、実は変身のVerwandle mich の練習ついでに、Youtubeの動画でドイツ語の発音練習してたんです。」
「まあ、素直で努力家、さすが適合者だわ。今日は電気系を2つ覚えたし、身体能力の基礎も学んだので、ここまでにしましょう。まだ日が暮れていないのでカフェでお茶してから解散ね。」
「はい、先輩。」
「あ、変身前の名前を知らなかったわね。私の名前は紫藤美咲、大学2年生よ、よろしくね。」
「よろしくお願いします、紫藤さん。」
「下の名前で呼んで。」
「わかりました、美咲さん。」
紫藤美咲、紫藤って普通に変換したからびっくりです。実際にいるんですね、紫藤さん。紫の藤の花、さぞかしきれいな....いや女性ばかりではないからね。先輩後輩美少女戦士って何だか熱い展開ですね。




