地下駐車場の死闘、初めての共闘
試験休みに入ったのでバイトのシフトを多めに入れた温ちゃん。憧れの郁くんと一緒になれるのでしょうか?
翌日、温と郁はバイト先で一緒になった。
「おはよう、日野さん。」
「おはようございます、中野さん。今日も爽やかですね。」
「日野さんこそはつらつとしてるよ。」
店長が通りかかって2人を見て、「ふっふっふ、青春してるね~!良き哉、良き哉!」と言って去って行った。
「あの、何なんでしょうね、青春してるって?」
「さあ?自分が過ぎ去った年代をぼくたちが生きてるってことかな。」
「なるほど、先輩、さすが大学生だけあって語彙が豊か!」
「ふふ、そうでもないさ。レポートの課題も語彙の貧弱さを指摘されて返ってくるし。」
「そうなんですか?大学って厳しいですね。さすが最高学府。そういえば中野さんってドイツ語は履修しているんですか?」
「うん、第2外国語はドイツ語だよ。」
「これ、何ていう意味ですか?」
温は変身デバイスが表示した文字を書き写したメモを見せた。
「“Verwandle mich!“ ええっと、わかんないや、ごめんね。スマホで調べる...わかった、変身させろ、という命令文だね。こんなの使うシチュエーションあるのかな?」
「なるほど、ありがとうございます。ついでに発音も教えてください。」
「えー?下手くそだよ、俺。初心者だし。ちょっと待って、スマホの自動音声化アプリに入力して喋らせるから....はい、どうぞ。」
「フェアヴァンドレ・ミッヒ?」
「そう、ミッヒというのは英語のミーだよ。」
「なるほどです。ためになりました。私も大学へ入ったらドイツ語を履修します。」
「最近は履修者が少ないので教室がガラガラで風通しが良いよ。」
「それ、最高じゃないですか。私、電車も教室もガラガラが好きです。」
「だよね、ガヤガヤしてなくて静かだし。」
「ホントそれです。ガヤガヤは嫌いでガラガラが好き。」
「日野さん、作詞の才能あるんじゃない。」
「そうでしょうか。あ、いらっしゃいませ。」
それから次々と客が訪れ、温はレジで対応した。いっぽう郁は売れた本を補充したり、平積みの調整をして回っていた。
「中野くん、ちょっと良いかな。」
「はい、何でしょう、店長。」
「地下の搬入用駐車場にそろそろ入荷のトラックが来る時間なんだ。待たせるわけにはいかないから台車を用意して待っていてくれないか?」
「了解しました。」
「きょうはラノベの出版社から大量入荷だ。運ぶの大変だけど頑張ってね。」
「任せてください。坂の上の高校に3年間自転車で通いましたから足腰は頑丈なんです。」
「それは頼もしいね。任せたよ。」
郁が台車を押して地下駐車場に来ると、無人の搬入用駐車場に作業服を着た男が現れた。そして、白い煙とともに魔物に変身した。ん?魔物?変身ヒーローの敵だから海人がふさわしい。郁は海人に見つからないように人気のない場所へ行き、気付かれないように小さく「変身」と唱えた。だが、声は小さくても変身エフェクトがあるので、怪人はその光に気付いて郁に近づいて来た。パルテノン多摩で戦った魔物より大きくて強そうだ。果たして勝てるのか?郁は少し後ずさりをした。怪人は郁のおびえを読み取り、勝利を確信して間を詰めてきた。
「トウッ!」
郁はともかく距離を確保したくてジャンプで怪人の背後に跳んだ。
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「店長、中野さんは搬入ですか?」
「そうだよ。きょうはラノベの大量入荷だ。」
「大量ってどのくらいですか?」
「段ボールが5個かな。」
「それって台車一つに載るんですか?」
「あっ、考えてなかった。無理だな。3個が限界だ。」
「もう、ダメじゃないですか。私がもう一台押して持って行きます。レジお願いします。」
「OK、助かるよ。」
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いくらジャンプして間合いを取っても怪人の足は速く、郁はそれほど広くない搬入用駐車場ですぐに追い詰められてしまう。そして、怪人は右手を触手にして郁を捕らえた。触手を巻き付けられて締め付けられる。郁の複眼が危険を示す黄色に変わった。
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「ふっふっふ、地下駐車場で二人っきりですか?ふっふっふ、これは何かのイベント発生するやつですね。」
台車を押して地下駐車場のエレベーターから出た温は、魔物――美少女戦士から見れば敵は魔物である――が甲虫ヒーローを痛めつけている現場に直面した。いけない、あっちで隠れて変身しなくっちゃ。
「Verwandle mich!」
何度も音源を練習していたので一発で変身成功、ロッドも出現した。よおし、やってやるぞ!
「待ちなさいっ!」
温の凜とした声に驚いて怪人=魔物が振り向いた。その隙に改造ヒーローは触手の拘束を逃れ、ジャンプして距離を確保した。
「グルルル...ナンダ、オマエハ?」
「美少女戦士ビブリア、ただいま参上!」
怪人=魔物は温に向かって触手を繰り出した。だが温は身体を回転させながら横に跳び、これを避けた。
「すごい!変身すると身体能力が超人になるわ。めっちゃかっこいい。スカートの下はパンツじゃないから激しいアクションでも安心安全。」
「グルル...!」
並外れた身体能力に驚いて怪人=魔物は戸惑った。
「(えーと、ヴァイオレット先輩のマネをしなくちゃ)神聖な地下駐車場で改造ヒーローさんを襲うだなんて許せない。覚悟しなさい!クリスタルシュトラール!」
温のロッドから七色の光線が発射され怪人=魔物を包む。火花が散り、怪人=魔物はその場に倒れた。だが消滅はしていない。このまま再生されると困る。温はロッドで怪人=魔物を殴りつけた。
「えいっ、えいっ!早く消滅しなさいよ!」
「待ちたまえ、君!そこを離れて!あとはぼくがやる!」
改造ヒーローは必殺ナンタラパンチの態勢に入った。
「おねがいします、ヒーローさん!」
温が離れたところを見計らって郁の必殺ナンタラパンチが怪人に炸裂し、怪人は消滅した。
「危ないところをありがとう。えーと、美少女戦士ビブリアさん。」
「いいえ、お互いさ...いえ、何でもありません。それじゃ、私はバイトがあるのでこれで失礼します。」
温は飛び去った。どうやら変身すると飛行も可能のようだ。すごい、この能力はまさにチート。さっきはロッドで殴ってしまったけど、ひょっとしたら肉弾戦も行けるかな?急いで通用階段に入り変身を解くと、温は台車の場所に戻った。そこには何事もなかったかのように郁がいた。何事もなかったかのような郁に美少女戦士のことは話せない。IRWFのルールだ。
「先輩、そろそろトラックが来るらしいんですけど、段ボール箱が5個だというので応援に駆けつけました。」
「おう、日野さん、ありがとう。来てくれて助かったよ。台車に5つは積めないし、ここに放置するわけにもいかないからね。」
「店長はときどきドジなのでしっかりチェックを入れないとですね。」
「ははは、まったくだよ。」
いやあ、バトルでしたね。初変身なのに郁の危機を救って超かっこいい。「待ちなさいっ!」これが言いたかったんですね、温ちゃんは。それにしても、美少女戦士に変身しても顔はそのままなのにバレないんですかね?アニメでもバレない設定になっていますが、どういうこと?




