変身後が入れ替わった2人、でも日常は続く
はい、入れ替わった2人。くよくよしてもしかたがない。でもやっぱり困る。これからどうしましょう?
「温ちゃん。」
「郁さん....。」
「君も同じだったのか?」
「ええ、交換しちゃいました。変身したら改造人間だった。」
「俺も....美少女戦士になった。」
「基地では何て?」
「しばらくそのまま活動しろって。」
「うちもそう。原因の解明に努めるから、しばらくは改造人間をやりなさいって。」
「戦闘シミュレーションした?」
「した。慣れないけど装甲が頑丈だったので楽勝だった。」
「こっちも。かなり不安だったけど、スピードが速くて回避が簡単だった。それから、身体がすごく軽かった。まるで重力の影響を受けていないみたい。バーニアの飛行と違って、揚力が脚部に集中していないので、バランスを取る苦労がない。すごく快適だった。」
「そのまま美少女戦士をやりたいの?」
「まさか。快適な反面、不安もあるんだよ。一撃で撃墜される恐怖。」
「意識しているとオーラが攻撃を弾くけれど、意識が届かないところには攻撃が通ってしまうの。」
「こないだの戦闘で腕をやられたのはそういうことか。」
「全身に意識を集中していないとそういうことになるの。」
「基地ではそちらの組織と相談して対策を進めるって言ってた。」
「なんとかなるわ、きっと。」
「前向きだな。」
「それが私のポリシーなのです。不撓不屈、たわまずくじけない。」
「こっちは、変身中だけだからまだ耐えているけど、アイデンティティーが崩壊しそうだよ。」
「美少女戦士は明らかに女性だからね。その点、改造人間にはあまり性差を感じない。」
「なるほど、そうかも知れない。」
「基本的な戦闘訓練だけでは能力のすべてを引き出せないから、そのうち基地で合同訓練が行われるかもしれないよ。」
「君の前で美少女戦士に変身するのは抵抗があるな。」
「大丈夫、気にしてないから。」
「俺が恥ずかしい。」
「ね...もう一回キスして。元に戻るかも知れないから。」
「そうかな?いいけど。」
「む.....、ドキドキはしたけど変化があったとは思えないわね。変身アイテムも何の反応もしていないし。」
「俺は...(少しモヤモヤしたけど)....別に何もない。アイテムも無反応だ。」
「初めてのときとドキドキが違うからかな?」
「そもそもキスがトリガーになったのかどうかもわからないからな。」
「キスのこと....基地の人に言った?」
「言ってない。」
「私も。自分からキスしてって頼んだし、なんだか罪悪感のようなものを感じて。」
「どちらからのアプローチなんて関係ない。ああいうのは...相互の衝動だ。そんなことより、現実的な問題は、入れ替わったことによって戦力がダウンしたということだ。それぞれに能力を使いこなせていない。」
「確かに。私、バイク乗れないし。」
「俺も剣を使えない。」
「剣もロッドもherausnehmenすれば出てくると思うけど。」
「出てきても使いこなせる自信がない。」
「修行が必要ね。」
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「初めまして、イリーナさん。国際美少女戦士協会――International Pretty Warrior Foundation ――のヒルデガルトです。」
「通信では話したけれど、こうして会うのは初めてね。よろしく、ヒルデガルトさん。」
「私たちの基地がこんなに近くにあったなんて驚きました。」
「東京の山間部で広い土地となると限られますからね。」
「それにしても厄介な事態になりましたね。」
「とりあえずどちらも国連の管轄が違う下部組織ということで、敵対組織でなくて本当に良かった。」
「それは本当に。」
「これからそれぞれの基地で2人の適性訓練を行いましょう。能力を引き出してもらわないと。」
「そうですね。まずは温さんに世界邪悪根絶委員会―World Evil Eradication Committee、略してWEEC―に来て訓練を受けていただきましょう。自動二輪の免許を取得してもらわなければなりません。」
「郁さんが乗っているマシンを温さんに託すのですか?」
「郁くんは平常時のバイクを通学に使っているので取り上げるわけには行きません。」
「でも温さんは高校2年生ですよ。急にどこからか400ccのバイクを託されたということになるとご家族への説明に困るのではないですか。」
「たしかに。それは困ります。」
「温さんは自転車通学しています。彼女のマウンテンバイクを変身時に特攻マシンになるように改造できませんか?」
「技術スタッフにとってはかなりのチャレンジになるでしょうが、相談してみましょう。」
「あと....たぶんなんですけど、あの2人、親密な関係になっているような気がします。」
「それは私も感じました。わかりやすい青少年ですね、あの2人。」
「変身アイテムがこのような異常を呈するようになったのは、それも関係あるのかも知れません。」
「脳波の検査も必要になるでしょう。」
「眩しくてうらやましいですね、若さ。」
「ホントそれ。」
大人の女性2人はすべて察したような笑顔で同意し合った。
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郁は不動産サイトを見ていた。バイク通学になった以上、現在の駅近アパートに住み続ける理由がなくなった。駅と無関係に大学への直線距離だけを考えると、家賃相場がもっと安い物件がいっぱいあるはずだ。室内で筋トレもしたいので、もう少し広い床面積も欲しい。現在の家賃は6万円だ。仕送りは10万円だ。バイトで6万稼いでる。交通費がタダになったので、生活は少し楽になった。
「あ、これ良さそう。」
郁は長沼公園に近いアパートを見つけた。家賃5万円で部屋が広い。さっそく不動産屋に電話した。
「すみません。サイトで見つけたアパートなんですけど、まだ空いていますか?」
「あ、その物件はまだ空いていますよ。駅から遠いとどうしても敬遠されちゃって。近所に買い物する店もないし。」
「バイクなんですけど、停められますか?」
「はい、駐輪所がありますからね。月に2000円です。」
「じゃあさっそく内覧に行きたいのですが。」
「はい、お待ちしています。」
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「ふっふっふ、改造人間か。郁さんにはああ言ったけど、しばらくメタリックボディーを堪能させてもらおうかな。そういえば武器がないなあ。テレビの改造人間ヒーローはみんな何かしら武器を使っていたんだけど。あっちの基地に行ったら訊いてみよう。今度変身したらバーニアも使ってみたいな。何か新しい技を開発しようかな。よし、チャッピーくん!」
「はい、ご用命は何でしょうか?」
「私、改造人間としてバトルすることになったんだけど、気分が盛り上がる曲ないかな?英単語を覚えながら士気を上げたいんだ。」
「ならばオアシスの”Whatever”が最適です。楽譜と歌詞を出します。」
「あ、なんか弾けそう。何にでもなれるってのが今の気分にピッタリ。こだわらずに今の自分を受け入れて立派な改造人間ヒーローになってやる、そんな気分にさせてくれる。Whatever I like, if it’s wrong or right! 」
思いのほか、温は前向きですね。そりゃそうか。別に何も失ったわけじゃないし。なんとなくロックになってきたよ。




