プロローグ2 日野温
はい、今回はヒロイン温の紹介です。JKと呼ぶにはあまりにも清々しい女子高校生、自然体で前向きでまぶしいほどに陰がありません。
私の名前は日野温、17歳の高校2年生。それほど優秀じゃないので中高一貫の進学校ではなくて地元の公立高校に通ってる。卒業したら、家から近いセントラル大学に入りたいな。芸術や芸能のような大それた夢は持っていない。本が好きだから出版社とかには入れれば良いんだけど、最近は本が売れないからなあ。まあ、まだ大学にも入っていないのでそういうことは考えないで楽しく暮らそう。楽しいと言えば、最近始めたバイトが書店なの。本に囲まれて働けるって超ハッピー。
私が住んでるのは日野市、高幡不動駅からモノレールで一駅だけど、歩けない距離でもないので私は歩いている。学校は家から徒歩7分。なんか家から徒歩7分って高校生の通う距離じゃないよね。小中学生みたい。だけど超便利で私は気に入ってる。等身大の自然体、それが私の生きる道なのだ。平凡の量産型で良いのです。あ、このままだと大学を出て就職しても実家暮らししそう。さすがにそれはやばいわよね。子供部屋おばさんになっちゃいそう。はい、仕事に就いたら自立しますよ。今日は土曜日なので放課後は書店でバイト。うれしいな。なんかバイト先の大学生にちょっとタイプの人がいるんだ。彼は今日シフト入ってるのかな?あ、いかんいかん、職場に邪な感情を持ち込んじゃダメ。私は清楚でキュートな美少女...てへ、自分で美少女って...大丈夫、今のは心の中でつぶやいただけだから。
バイトが終わるのが9時だから、もうおなかペコペコ。バイトに入る前に何かおなかに入れとけばよかった。これじゃ家まで持ちそうにないわ。食べて帰るってママにライン入れておこう。それにしても多摩センターって便利ね。丸善が入っているショッピングモールのココリアにはフードコートがあるからいろんなものが食べられるわ。がっつりとんこつ醤油と行きたいところだけど、健康美を維持するために野菜多めのチャンポンにしようかな...と思ってスマホでチェックしたら、閉店時間が8時ですって?なんで飲食店が書店より先に店を閉めて帰っちゃうのよ。労働者の胃袋のことも考えて!仕方ないなあ。多摩センター駅内にいろいろあるから、そこで食べようっと。
女子高生が一人で夜道を歩くのは危ないと思うけど、モノレールで自宅の最寄り駅までは安全。モノレール駅から自宅までは住宅地だけど、歩いて5分だし大丈夫でしょ。そんなことより何を食べるかだわ。お蕎麦かカレー、いやここは両方行っておこう。蕎麦屋のカレー、これは格別ね。カレー蕎麦じゃないの。カレーと蕎麦を別々に注文して両方食べる。ああ、私ってなんて罪深い女なの。二股同時進行じゃないの。
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ああ、美味しかった。空腹は最高の調味料である...誰の言葉だっけ?忘れた。あ、忘れたじゃないわよ。私、来週から試験じゃないの。やばい、自信がない。定期考査で上位をキープしてセントラル大学の推薦を勝ち取る作戦なのに。良し、困ったときは...そう、困ったときは神頼みなのであります。高幡不動でクイックお祈りしてから家に帰ろう。
二礼二拍手一礼、お賽銭は奮発して300円だ。良し、女子高生が夜道も恐れずに参拝してこれだけの誠意を尽くしたんだ、神様も応援してくれるに違いない。試験、頑張るぞ!
お参りを済ませて振り返った温の前に黒い影が現れた。人間ではない。犬でもない。日野に出没すると言われている鹿でもない。明らかに魔物だ。これが暴漢だったら温も大声を出して助けを呼んだだろう。しかし見たことがない魔物を目にして温の思考力は停止した。恐怖で身体が凍り付くというのがただの比喩ではないことを温は今ここで知った。後々のことを考えると、ここで失禁しなかったことだけが幸いだった。高幡不動駅でトイレを済ませておいて本当に良かった。トイレはこまめに、それが私の...いや、それは後日の感想だ。今はただ恐怖で身体が動かず思考力が停止している。
「待ちなさい!」
凜とした声が響いた。前を見ると温を守るように魔物の前に立ちはだかった人物がいた。アニメで見たことがあるようなコスチュームを着ている。
「妖気に気付いてここに来て正解だったわ。神聖な神社で若い女性を襲うだなんて許せない。覚悟しなさい!クリスタルシュトラール!」
美少女戦士の持つロッドから七色の光線が発射されて魔物は跡形もなく消滅した。美少女戦士は魔物の消滅を確認すると、通信機のようなものを出して「討伐終了」と報告した。そして震えて固まった温に手を差し伸べた。
「怖かったわね。もう大丈夫よ。」
「あなたは?」
「自分でこの肩書きを名乗るのは照れくさいのだけど公式名なので仕方がないわ。私は美少女戦士。各地に現れるあやかしの魔物を討伐するのが役目なの。」
「危ないところを本当にありがとうございました。」
「大丈夫?立てる?」
「はい、大丈夫です。」
「あら?あなた...ちょっと待ってね。」
美少女戦士は何やらマジックアイテムのようなものを取りだして温をスキャンした。
「まあ、ラッキーだわ。魔物を討伐できただけじゃなくて、こんなところで適合者を見つけてしまった。」
「え?何でしょう、適合者って?」
「いい?良く聞いて。あなたは美少女戦士の適合者であることが判明しました。なのでこの場で美少女戦士に就任してもらいます。これには拒否権がありません。私たち国際美少女戦士協会――Interntional Pretty Warrier Foundation、略してIPWF――は国内法の上位に位置づけられる審級です。あなたはこれから美少女戦士として世界の平和のために働いてもらいます。これが変身アイテムよ。スマートウォッチにしか見えないし、時計と万歩計は使えるわ。でもスマホの代わりにはならないので注意して。変身すれば同時に武器のロッドも出現します。当面はクリスタルシュトラールだけで十分ね。」
「クリスタルシュトロームですか?」
「あなた、上級のボケをかますわね。そういう技もあるけど、今はシュトラール、光線という意味ね。」
「ビームじゃないんですね。」
「協会の設立者がドイツ語話者だったのであちこちにドイツ語が使われているの。やっかいね。」
「あのう、拒否はできないとおっしゃいましたけど、任期はいつまでですか?」
「美少女戦士だから、少女と呼ぶのが苦しくなったらお終い。私もあとわずかかな。」
「わかりました。私、素直が取り柄なのでやらせていただきます。」
「良かった。普通はここで揉めるところなんだ。素直な子で良かった。名前を付けなくっちゃね。これは登録順に埋まって行くのでかぶらない名前にしないと。」
「私、本が好きなので美少女戦士ブック!」
「ちょっと、あなた、小学生なの?そうね、美少女戦士ビブリアにしなさい。ラテン語で本だからあなたにピッタリだし、響きもかっこいいでしょ?」
「わあ、かっこいい。美少女戦士ビブリア、ただいま参上!」
「ノリノリね。こんな子、初めて見たわ。」
「前向きに明るくが信条なのです。そしてこまめにトイレに行く。」
「は?」
「良くないんですよ、無意識に溜め込むの。とくに女性は。」
「あ、そう...肝に命じるわ。」
「あ、最後に言っておくけど、変身アイテムは敵が近くにいて脅威になるときだけ発動するから、遊びで変身できないわよ。それから、IPWFの規約で美少女戦士であることを人に言ってはダメです。」
「了解しました、先輩。」
「ふう、じゃあ私は帰るわね。私の名前は美少女戦士ヴァイオレット、そのうちまた会えるわ。」
郁のときと違って温は最初から前向きですね。そこが彼女の良いところ。




