初めてのタンデムで距離が近づいた2人
順調に結果を出している温ちゃん。弾き語りは効果があるようです。良いなあ、スマートギター。ぼくも欲しい。
模試の結果が出た。温はおみくじを開けるような気持ちで予備校からの封書を開封した。C判定に上がっていた。前はE判定だったので2段階アップだ。まだ世界史には本格的に取り組んでいないので、その伸びしろに期待すると、かなり展望は明るくなった。前は30点だった英語が素点で55点。大きな手応えを感じる。
「そうだ、バイト帰りに高幡不動に寄ろう。お礼参りだ。点数が上がったのは自分が頑張ったからだけど、自分が頑張る気持ちになったのは神様のおかげかも知れないし。」
温は、戦闘時の脚力作りのため、そして交通費を節約するために、今月から通学もバイト先への通勤も自転車に切り替えていた。筋力アップのためなので、電動補助なしのガチのマウンテンバイクだ。
「風が気持ちいい。」
初夏の風を受けながら温はスピードを上げた。高幡不動尊は美咲とはじめて会って美少女戦士になった思い出の場所だ。神社に怪物が出るなんて、と当時は驚いたが、神社の周辺はたいていうっそうとした樹木に覆われている。怪物が出現する条件は整っていると今ではわかる。
「きょう出たら、ふっふっふ、飛んで火に入る....あ、今のは何だかヴィランの台詞だわ。」
と言ってるそばから出た。人気のない裏手の暗がりから怪物が出現した。
「Verwandle mich! Blaulicht herausnehmen!」
温は変身してブラウリヒトを構えた。怪物は変身して明らかに格上の存在となった温に驚いて、翼を広げて空中に逃亡を図った。
「甘い!飛べないと思った?」
温は跳躍から飛行に移行して怪物を追い、背中に迫って背後から袈裟懸けに切り裂いた。怪物は一瞬燐光を放って塵となり四散した。温は地上に降り立ち、変身を解いて武器を収納した。
「ふ、またつまらぬものを斬ってしまった。さて、さっさとお参りして帰ろっと。」
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郁はバイク屋に来ていた。バイク本体にはブラックボックスが仕込まれているので一般のバイク屋にいじらせるわけにはいかない。彼がきょう来店したのは、ナビゲーションのためスマホを固定するホルダーを買うためである。
「いらっしゃい。どんなご用でしょう?」
「スマホをツーリングのナビゲーションに使いたいので、バイクに固定するホルダーが欲しい。」
「ああ、最近は必須アイテムですね。いろいろ取りそろえています。」
「購入に当たっての注意点は?」
「バイクから給電できること。これがないと電池切れになります。それから、振動吸収バンパー。バイクは高周波振動を出しますから、それを吸収してやらないとスマホが故障します。そして大事なのが、段差などで大きな衝動を受けたときにスマホが脱落しないようにしっかりとホールドできるものが良いでしょう。そのバイクにUSBポートはありますか?」
郁はあまり細かい部分まで注意していなかったので気付かなかったが、探してみるとどうもそのようなポートは見えない。
「ありませんね。」
「だとすると外付けになります。バッテリーに直接つなぐとエンジン停止時にバッテリー切れになるので、アクセサリーからの分岐になりますね。簡単な手順で付けられますよ。」
アクセサリーとは言え、変身バイクにどのような機構が仕込まれているかわからないので、迂闊に触れるべきではないだろう。郁は出直すことにした。
「わかりました。もう少し自分でも調べて何が最適解なのかを決めてからまた来ます。」
「それが良いですね。バイクはデリケートな乗り物ですから、パソコン関係でいうユーザー・インターフェースは大事です。乗る人とどうつながるか、ですね。」
「バイク屋は危ないな。今日の店は客との距離をわきまえていたけれど、勝手に触られると困る。ナビゲーションの問題は基地に行って相談しよう。」
郁はバイクを停めて通信機を開いた。
「あら、郁くん。バイクの調子はどう?」
「最高です。で、バイクの装備について相談があるので、これから基地へ向かおうと思うのですが、よろしいですか?」
「もちろんよ。お伺いを立てないでも、いつでも歓迎するわ。」
「わかりました。1時間程度で着くと思います。」
「いらっしゃい。バイクの装備って、武器の強化とか?」
「いえ、そうではありません。ナビゲーションを付けたいのですが、USBポートがないと外付けになってしまいます。アクセサリーの電気回路から分岐することになりますが、バイク屋にマシンを触られるとまずいかなと思いまして。」
「賢明な判断だわ。この変身バイクにはたくさんのブラックボックスが仕込まれているから、迂闊に触ると危ないの。ナビゲーションについては簡単に解決できます。スマホに頼る必要はありません。あなたの身体と同様、このマシンもGPSで基地とつながっています。マシンのOSが全体を管理しているので、ナビゲーションシステムも実はすでに実装済みなのです。それをどう使うかですが、設備部へ行ってください。渡すものがあります。」
「あら、来たわね。あなたに渡すのはこれよ。新しいヘルメット。これにはヘッドアップディスプレイが内蔵されているので、ナビゲーションからの情報にヘルメット内でアクセスできるわ。慣れないと少し戸惑うと思うけれど、慣れればすごく便利よ。これに慣れたら、また基地へ来て。今度は変身後にもHUDが使えるように身体を改造してあげる。そうすれば戦闘中も情報を共有できるし、こちらから指示も出せるようになるわ。」
「ナビゲーションへの指示は音声で行けますか?」
「もちろんよ。見えないガイドが同乗している感覚で運転してちょうだい。」
「わかりました。」
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基地でHUD内蔵ヘルメットをもらったので、ヘルメットがひとつ余った。これをかぶせて誰かを背中に乗せることができる。郁はしばし考えた。初のタンデムの相手...温なら喜ぶかも知れない。よし、今度ツーリングに誘ってみよう。いや、いきなりツーリングはハードルが高いな。俺自身まだろくにツーリングをしたことがない。もっと近場、そして誘いやすい条件が整っているところ。そうだ、美咲さんが今度トランポリンの大会に出るって言ってた。一緒に応援に行こう。これなら誘うハードルもかなり低い。
「あら、郁さんからラインだわ。え?トランポリン大会に一緒に応援に行こうって!うわ、うれしすぎる。迎えに行くから最寄り駅の入り口にいてくれですって?迎えに行くって何だろう?」
「やあ、温ちゃん。早かったね。」
「え、そのバイク。」
「免許を取って乗り始めたんだ。きょうは温ちゃんを初タンデムの相手に乗せていこうかと思って。」
「わあ、バイクに乗せてもらったことがないからわくわくします。」
「心配しないで、超安全運転で行くから。しっかり捉まっててね。」
「風が気持ちいい!」
「晴れた日はね。雨の日は地獄だよ。」
「わかる。私も最近は電車をやめて自転車になったから。」
「美咲さん、緊張してないかな。」
「美少女戦士でもっと高い空を飛び回っているから大丈夫。」
初タンデムです。男性の背中に身を預ける感覚って、男なので実感できませんが、たぶん特別なのでしょう。




