温と郁、それぞれ練習が必要なアイテムを手に入れた
ホワイトな組織の援助によって悪と戦うための力を着々と蓄える正義の戦士たちなのです。
郁に基地から招集がかかった。指定された相模湖駅前に出向き、迎えの車に乗り込む。もう目隠しはされなくなった。車は林道に入り、しばらく走るとトンネルがあった。トンネルは封鎖されていたが、運転手がリモコンを操作するとゲートは開いた。しばらくトンネルを走って車は停まった。運転手が再びリモコンを操作するとトンネルの壁が開き、基地に向かう道が現れた。郁は運転手に尋ねた。
「このトンネルを先まで進むとどこへ出るんですか?」
「林道です。林道から一般道へ出られます。もちろんトンネルも林道も一般車両に対しては封鎖されていますが。」
基地に到着するとイリーナ・イオネスコが出迎えた。鞭を持たせると似合いそうな女だ。
「久しぶり、郁。元気にしてた?」
「はい、トランポリンの練習に精を出していました。これ、領収書です。」
「あら、そういうのは次からは経理部に出してちょうだい。あとで紹介するわ。さて、今日呼び出したのはあなたに自動二輪の免許を取ってもらうためです。あなた、普通免許は持ってる?」
「はい、帰省したとき実家の近くの合宿免許で取りました。取ったあと、実家の車を何回か運転しただけですけどね。」
「そう、なら簡単だわ。ここで4日間の講習と訓練を受けてから紹介状をもって指定された試験会場に行ってちょうだい。組織の息がかかっているから問題ないわ。」
「バイクですか?」
「そう、ふだんは日常の足として使ってもらってかまわないわ。変身時にはバイクも変身します。戦闘モードになり武器も使えます。超法規的措置で許可を得ているから問題ありません。」
「それって、俺もライダーの仲間入りってことですか?」
「通常の意味で全くその通りね。」
「うわ、なんか胸アツですね。」
「ふだんは安全運転を心がけて。あと駐車禁止など違反切符を切られないように。」
「了解しました。」
「支給される二輪車は400cc。高速道路も走れるし、二人乗りもできます。」
「あの...ガソリン代は?」
「あなただんだん抜け目なくなってきたわね。経費として領収書で精算しましょう。」
「税金とかは?」
「車両は組織の所有物で、あなたへは貸与なので組織が処理します。」
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温は貯まったバイト代でギターを買うことにした。百合華が言っていたのを思い出したからだ。彼女のクラスメイトで英語が抜群に良くできて、帰国子女じゃないのに発音もネイティブのように聞こえる子がいる。百合華が直接訊いたわけではないが、どうやら彼女は洋楽マニアで、好きが高じて自分でもギターを弾いて歌うようになったらしい。好きな曲のコピーをしているうちに自然に英語ができるようになったとか。温はそれを聞いて、最初はふーんと思っただけだったが、全力で英語をパワーアップする必要が出たいま、この方法にかけてみようと決心した。道が開けそうならためらわず進む温らしい決断だった。
だが、どこでどんなギターを買うべきか?アドバイスを得られそうな伝手はいない。そもそも英語で歌って英語力アップという作戦なので、ギターで躓くわけにはいかない。弾きやすくて挫折しない楽器が必要だ。誰かギターに詳しい人はいないかな?そうだ、餅は餅屋だ。紺屋の白袴...は違う。逆の意味だ。蛇の道は蛇だ。う、なんかこれは聴く相手に失礼な気がする。ともかく学校の軽音部に訊きに行こう。
「こんにちは。」
「あら、温ちゃんじゃないの。どうしたの?入部希望かしら?」
「いえ、そうではないんだけど、ちょっと趣味でギターを始めようと思って、どんなギターを買えば良いのか相談に...」
「あ、それならうちの部きってのギターおたくの吉岡くんに訊くと良いわ。ちょっと待ってて、あっちで練習してるから呼んでくる。」
「ギターのことを訊きたいんだって?」
「うん、完全初心者で始めるんだけど、挫折しないような弾きやすいギターってどんなのかな?」
「うーん、まずギターを弾く目的を教えてもらおうか。話はそこからだ。」
「えーと、恥ずかしいんだけど、英語力アップのために洋楽を弾き語りしたい。」
「なるほど、ステージで演奏したいとかではないんだな。自宅で弾き語りできれば良いと。うん、それなら2つの選択肢がある。ひとつは小さめのアコギを買うこと。もうひとつはスマートギターだ。」
「それぞれのメリットとデメリットは?」
「小型でもアコギはアコギなので、弦を抑える指にはそれなりの反発力が加わる。練習をすればまめもできるし、最初はかなり痛い。痛いから手に取るのがいやになるかも知れない。だが、アコギならではの自然な音色が楽しめる。スマートギターは痛くない。アコギよりもエレキギターに近いので弦の反発力が少ない。弾きやすさが最適化されている。女性の小さな手でも扱いやすい。ただし、デジタルの電子音なので、ピアノと電子ピアノやエレ子トーンが違うように、アコースティックの音は期待できない。」
「お値段は?」
「入門モデルなら、アコギは2万円、スマートギターは3万円といったところか。」
「ありがとう。痛いのはいやなのでスマートギターに決めます。」
「うん、ぼくもそれが良いと思うよ。あと、買うのは新宿か下北沢の専門店が良いと思う。スタッフが経験豊富でいろいろ教えてくれるからね。」
「本当にありがとう。相談しに来て良かった。」
「なーに、お安いご用さ。ギターを始めて何か質問があったらいつでも来てくれ。」
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基地の野外訓練場でバイク相手に苦闘している郁をイリーナが視察に来た。
「どう?そこそこ乗れるようになったかしら?」
「転ばない程度には、です。スピードは怖くて40㎞までしか出せません。」
「そう。まあまあの出来ね。試験は2日後なので励みなさい。あ、そうだ、変身後の操縦も試してみないと。バイクも変身するし。」
「え、それって怖くないですか?」
「怖いはずないじゃないの、ヒーローなんだから。今はまだ走行中の変身は無理だから、停めた状態でまたがって変身してみなさい。」
「わかりました。変身!」
まばゆい光とともに郁の身体とバイクが変身した。変身したバイクは郁の身体と同じ超合金製に変わり、見た目も凶暴になった。
「はいOK。変身するとそのマシンは時速200kmを超えるわ。いや自動的に超えるのではなくて、あなたの操縦で速く走らせることができるのだけど、しばらく無理そうね.あ、大丈夫よ、変身中はちびりません。」
「うわ、ちょっとアクセル回しただけで50kmになった。」
「武器の使い方はしばらくしてからね。いいわ、変身を解いて通常の走行訓練に戻りなさい。試験は2日後なんだから。良いこと?試験場には組織の息がかかってるので、無様な結果は許されないわよ。」
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「ふっふっふ、さっそく開封の儀!」
温は下北沢で買ったスマートギターをケースから取りだした。店員はとても親切で、使い方やメンテナンスの仕方を教えてくれた。スマホのアプリも入れてくれて、使い方も教わった。タブレットを使えば楽譜や歌詞、TAB譜も見ながら練習できる。
「おお、我が愛器よ!音楽の情熱が身体に溢れるのを感じる。いざ、弾かん!」
電源は入れたがボリュームを回していなかったので無音だった。
「ふふ、誰も見ていないからセーフ。ボリュームね。あとエフェクトだけど、まずはクリアトーンで初弾きが王道でしょう。何から鳴らす?ドレミ?まさかね。AmとE7を交互に鳴らして情動を高める。指の形はほぼ一緒で横にずらすだけ。これだけで私は弾き語りの女王への一歩を踏み出すのであります。」
「練習する曲は何にしよう?こういうときのためのAIよね。チャッピーくん、初心者が英語上達のために練習する弾き語りの曲を教えて、プリーズ!」
バイクは乗ったことがないけれど、ギターは3本持っています。アコギとエレキとセミアコ。わりといけてると自負しています。はい、自負だけですけれどね。




