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ジャムで目覚めの一杯 ― 秋山亮一教授推理探偵物語 ー  作者: マーたん


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Scene 7:心を縛る音



Scene 7:心を縛る音


大学地下棟の調査から三日。

秋山教授の研究室には、まだ夜が座り込んでいるように重たい沈黙があった。


助手・梨田は、机に置かれたヘッドフォンを見つめていた。

黒い、無機質な、どこにも売っていない形状。

旧施設で回収した、Black Sign が残した“装置”。


「……これ、つけますか?」


秋山教授は紅茶をかき混ぜる手を止めずに答える。


「音は刃物だ。扱いを誤れば、心の皮膚を裂く」


「つまり……危険、ですよね」


「だからこそ、知る必要がある」


教授はヘッドフォンを指で軽く弾いた。

その瞬間、空気が震える。

聴覚ではなく、意識の奥を撫でるような微かな振動。


梨田の肩が跳ねた。


「っ……何か、来ました。直接、脳に……」


「これが“支配の起点”だ。」


教授は静かに装着した。


ノイズが流れる。

砂嵐のようで、しかしどこか人の吐息に似ている。

次いで囁きが沈むように現れた。


──なぜ抗う

──選ばれたいのだろう?

──弱さは、渡せば救われる


梨田は息を詰めた。

教授の眼が揺れる。

あの不屈の瞳が、一瞬だけ曇った。


「……自由を、差し出せと……?」


囁きは甘く、もつれ、優しさと残酷さを同時に孕む。


──考えるのは、疲れるだろう

──痛みを、預けろ


教授の眉が僅かに動く。

梨田は耐えきれず叫んだ。


「外してください!」


その声で、教授はふっと目を開く。

そしてヘッドフォンを外し、机に置いた。


長い呼吸が、夜の中をゆっくり切り裂く。


「……危険だ。

 だが、ただの洗脳ではない。

 “自ら選ばせる”ための音だ」


梨田は震える手でノートを握る。


「自由を、望ませなくする……?」


「恐怖で縛るのとは違う。

 “思考する意思そのもの”に干渉する」


教授はほのかに笑った。

眼光は戻り、むしろ以前より鋭い。


「Black Signは、人間に思考の放棄を甘美だと教えるつもりだ。

 だがそれは、私が最も嫌う“静かな支配”だ。」


窓の外に夜風が流れる。

ビルの灯りは遠く、世界の端のように静か。


秋山教授は紅茶をすすり、呟いた。


「音で心を縛るなら……

 音で心を解き放つ方法もあるはずだ」


梨田はその言葉に、ほっと肩を落とした。

だが同時に、背筋に寒気が走る。


教授の研究は、今や

世界を救う刃にも、壊す刃にもなり得る。


そして誰よりも危うい場所に立っているのは――

音を聞き、音を操るこの男だ。

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