紅茶と灰色の真実
私の罪
紅茶と灰色の真実
――午後四時。大学構内のカフェ「クロノス」では、秋山亮一教授が静かに紅茶を淹れていた。
その所作は、まるで儀式のようにゆるやかで、正確だった。
対面に座るのは、かつての助手・名越瑞月。
彼女は今、民間の調査会社で働きながら、時折教授の“推理ショウ”に協力している。
「教授。今日も“予告状”が届きました」
「……ほう。今回はどんな形で?」
「大学のポットの中に。“あなたの紅茶に罪が沈んでいる”って」
秋山は紅茶をひとくち啜り、カップの中の揺らめきを見つめた。
「ふむ……罪ね。紅茶の底に沈むのは砂糖でもジャムでもなく、秘密か」
名越は紙片をテーブルに置く。
活版印刷のような古い書体で、一枚の紅い便箋に印字されていた。
差出人不明。だが、文体にはかすかな癖がある。
秋山の指が、その文面を追いながら微かに震えた。
「この“罪”という語の選び方……まるで、彼だ」
名越の表情が固まる。
「まさか……元相棒の、北園慎吾?」
秋山はゆっくりと頷いた。
「十年前の“紅茶毒殺事件”を最後に姿を消した男だ。
彼の残した手帳には、“紅茶は記憶の泉”と書かれていた」
「記憶……つまり教授の過去も関係している?」
「その通り。――だが、私が今なお紅茶を淹れる理由も、そこにある」
ふと、窓の外から鳥の鳴く声が聞こえた。
夕暮れの光がカフェを黄金色に染め、教授の横顔を照らす。
名越はためらいながら尋ねる。
「教授。あなた、本当に北園さんを……許せないんですか?」
秋山の手が止まり、紅茶の表面に波紋が広がった。
「許す……そうだな。
だが“許し”とは、真実を解いた後に訪れる“静寂”のようなものだ。
まだ、紅茶は冷めていない」
そのとき、カフェの扉が音を立てて開いた。
古びたトレンチコートの男が、無言で教授の前に一冊の封筒を置く。
封筒の中には――写真が一枚。
白いカップに沈む指輪。
かつて、教授が婚約者に贈ったものと、同じ形だった。
「教授。これは……!」
「……ついに、彼が動いたな。名越君。準備をしよう」
「どこへ?」
秋山は立ち上がり、眼鏡の奥の瞳に微かな決意を宿した。
「――紅茶の底へ。私の“罪”が眠る場所へ」
紅茶のどん底




