秋山教授、遊園地へ行く
メリーゴーランド
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朝の光が差し込む研究室。
白衣の袖をまくりながら、秋山教授は机の上の招待券を見つめていた。
助手の渚が満面の笑みで立っている。
「教授! 今日は研究禁止です! 遊園地、行きますよ!」
「遊園地……。私は遊ぶより観察するほうが性に合っているのだが」
「ダメです。教授、最近ずっと実験室にこもりっぱなしです。たまには人間らしい一日を!」
しぶしぶながらも教授は承諾した。
白衣を脱ぎ、代わりにベージュのジャケットを羽織る。
そして二人は、休日の賑わいに包まれた遊園地へと足を踏み入れた。
――入口の甘いポップコーンの香り、子どもたちの笑い声。
香りの探偵である教授にとって、全てが観察対象だ。
「ふむ、砂糖の焦げ具合が絶妙だな。これは180度でちょうど6分半の加熱だろう」
「教授、いきなり解析しないでください!」
「職業病だよ、渚くん」
メリーゴーランドを眺め、ジェットコースターの軌道を物理的に計算し、
観覧車の回転速度を見て「この角度では風向きが変わる」と真顔でつぶやく教授。
渚は呆れながらも笑っていた。
「教授、せっかくですから、あれに乗りましょうよ」
「どれだね」
「ティーカップです!」
回転するティーカップに乗り込んだ二人。
渚が勢いよく回すと、教授の眼鏡が少しずれる。
「うわっ……! 渚くん、遠心力を侮ってはいけない!」
「教授、顔が真っ青です!」
「研究のために……体験しているのだ……っ」
回転が止まると、教授はふらふらになりながらも小さく笑った。
「なるほど……回転運動における重心移動の感覚は、なかなか得難い体験だ」
「教授、それを研究に結びつけるのやめましょう」
昼下がり、二人はベンチでアイスクリームを食べていた。
教授は遠くで遊ぶ家族連れを静かに眺めている。
「渚くん。香りというのは、人の記憶と強く結びついている」
「はい」
「こうして甘いアイスの香りを嗅ぐと、幼い頃の記憶が蘇るだろう?」
「……教授にも、そういう思い出が?」
「昔、母が作ってくれた手作りのシャーベットの香りを、今でも覚えている」
教授の瞳が少しだけ柔らかくなった。
渚は微笑み、カップを掲げる。
「じゃあ今日は、その記憶を更新する日ですね」
「ふむ、新しい香りの記録か。悪くない」
夕暮れ時、観覧車の頂上。
静かに染まる空の下で、教授は呟いた。
「香りも、風も、光も――どれも調合できない。だが、感じることはできる」
「それで十分ですよ、教授」
「渚くん」
「はい?」
「やはり遊園地は……研究対象としても悪くないな」
渚の笑い声が響き、観覧車がゆっくりと降りていく。
一日の終わり、風がふと、ポップコーンと夕焼けの匂いを運んできた。
秋山教授は眼鏡を直し、静かに微笑んだ。
「香りの調査、完了だ」
観覧車




