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ジャムで目覚めの一杯 ― 秋山亮一教授推理探偵物語 ー  作者: マーたん


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34/91

教授のライバル

ジャムはお好き…?る?????



午後の光が白いカーテンを透かして研究室を包んでいた

薬品棚の瓶が光を反射し ほのかな柑橘の香りが漂う

秋山くんは資料の山に囲まれながらペンを止め

ふと背後の気配に気づいた


「久しぶりね 秋山くん」

その声にペン先が震えた

振り向けばドアのところに立っていたのは

黒のスーツを纏った女 羽形くんだった


「羽形くんか 珍しいね こんな時間に来るなんて」

「あなたの研究の匂いを嗅ぎつけたのよ」

「また挑戦かい 昔のように」

「昔から勝ち逃げが多いのはあなたのほうでしょ」


淡く笑うその顔に

かつての競争の日々がよみがえる

大学院時代 同じ講義室で論文を競い

時に夜を徹して議論を交わした

それがいつしか 互いの傷になった


「香りの研究を続けていたのか」

秋山くんが尋ねると

羽形くんは静かにうなずいた

「ええ 私は香りを“感情の再現装置”として扱っているの 記憶を再構築できるのよ」

「記憶を……再構築?」

「人は忘れたいものを香りに閉じ込められる そしてまた取り出せる」


彼女の手の中には小さなガラス瓶

琥珀色の液体が光を受けて揺れている

「嗅いでみて」

「危険だな」

「怖いの?」

「自分の過去が匂い立つのがな」


栓を開けた瞬間 研究室に広がる香り

ベルガモットと沈丁花 そして鉄のような苦味

秋山くんの脳裏に

遠い記憶が蘇る

研究室の窓際 論文に夢中な羽形くんの横顔

夕焼けと同じ匂いの時間


「あなたはあの時言ったわね “感情を香りで操るなど危険だ”って」

「今もそう思ってる」

「私は人の痛みを消したいだけ あなたは痛みを研究対象にしているだけ」


声が静かにぶつかる

どちらも譲らない

香りの中で言葉が漂う


「秋山くん」

「なんだ」

「もしこの研究が完成したら 私はあなたを超える」

「超えるために来たのか」

「いいえ 確かめに来たのよ まだ私を見てくれているかどうか」


沈黙が落ちる

羽形くんの瞳に映るのは

変わらない白衣の青年の姿

だけどもう昔には戻れない


「君の理論が正しいなら 人は香りで幸福になれるかもしれない」

「そう でもそれは同時に 真実を忘れることでもある」

「忘却と救済は紙一重だ」

「だから私はその境界を歩くのよ」


秋山くんは微笑み

机の上の瓶を手に取る

「ならせめて 君の歩む道が香り高いものであることを祈ろう」

羽形くんは小さく息をのんだ

「あなたらしい皮肉ね」


二人の間に流れる空気は

かつてよりも穏やかで そして痛いほど懐かしかった

香りの粒が宙を舞い

午後の光に溶けていく


研究室の時計が時を刻む

秒針の音が静かに二人を引き離していく


「また会いましょう 秋山くん」

「次はどんな香りで来る?」

「秘密よ」


扉が閉じる音だけが残り

秋山くんはしばらくその空間の残り香に身を委ねていた

ベルガモットと沈丁花

そして遠い日の約束の匂いが

まだ消えずに漂っていた

???るるるるるるな??や!?やん

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