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魔族

村が燃える少し前


エアルは布団の上で目を覚まし眠たい目を擦りながらも窓を見るとまだ外は暗くそれ程寝ていないのだと気づく、布団から起き居間の方へ歩いて行くと部屋には誰もおらずただ、父さんの書き置きだけがあった。


「エアルへ、ここに晩御飯を置いておく起きたら食べてくれ父は先に寝る」


小さな声で手紙を読み見るとそこにはサラダとパンが置いてあったので僕は音を立てない様に静かに食べる。

うちは昔僕を産んだ時に母は亡くなり男で一つで僕のことを父さんが育ててくれた、僕は父さんにあまり無理はかけたく無いので出来ることは全て分担しながらしているのだが今日は早めに寝てしまったので父さんがご飯を用意してくれていたのだろう、感謝しながら食べ終わると僕は水浴びしようと外に出る、今の季節正直夜中に水浴びは寒すぎるのだけど流石に汗もかいたので仕方ないと思い、冷たい水をかぶると声が出そうになるが必死で我慢して水浴びを済ませた。


「あぁ、やっぱり水浴びだけは済ませとけば良かった」


そんな事を呟きながら家の中に戻ろうとした時ドオォォォォォンと鈍く大きな音が聞こえて僕は驚きながらも素早く首を向ける、周りは真っ暗闇だがその音の方だけ明るく光を放っていた。


「なんだろう?」


言葉が出たと同時に熱風が体を強く押してすぎる、そこで僕は初めて気づいた、今のは魔法による爆発なのだと。

音で起きたであろう父が慌てた様子で家の扉を開け放つ。


「なんだ今の音は!?おぉ、エアル起きてたのか、ってそれよりお前怪我はないか?」


困惑しているのか色んな感情が入り乱れて色んな事を同時に聞いてきた、僕はそんな父を見て僕は反対に冷静になって答える。


「おはよう父さん、怪我はないよ、それよりも今の爆音何だろう、こんな夜中に誰か魔法の練習でもしてるのかな?」


僕が冷静すぎて少し父が引いているのを感じるがそんなことよりと僕たち親子はお互い一応装備を整えて爆音のした方へ向かう事にした。

僕たちの家は村の外側にあるのだが爆発音がした方とは反対側だったので家の近くでは何が起こっているのか分からなかったが村の中心あたりに来てようやくその音の正体がわかる、僕はそれを見て無意識に体が震える。


「なんだよ、これ」


僕たちの目の前には村の4分の1が火の海になっており村の中心で村人の50から60ほどの焼死体が地面に円を描くように並べられており血のような赤い物で魔法陣が地面に描かれていた、そこには知り合いしかいないのだがもう誰も識別出来ないほどに焼かれていた。


「酷いな…エアル今すぐ家の方へ走りそのまま村を捨てて逃げろ!」


父はそんな光景に一言言うと、何かを感じ取ったのか武器を構え僕だけを逃がそうとしてくる。


「え、何言ってるの?父さんも一緒に逃げようよ!ここに居たらみんなと同じようにされるかもしれないよ!」


僕は父さんの服の裾の部分を掴み必死に引っ張ろうとするが父さんは一切動こうとしなかった、そんな僕に父さんは一瞬悲しそうな顔を見せて、僕の肩をガッチリと掴む。


「エアル、聞いてくれ、俺はお前を愛している、母さんが居なくなる前に約束したんだ、何に変えてもお前を守り抜くと今2人で逃げてもしこの惨状を起こしたやつに追いつかれでもしたら俺はお前を守り抜く事が出来ると約束出来る自信がない、俺が時間を稼ぐからその間にお前だけでも逃げて欲しいんだ、それに、俺1人なら何とかなるかもしれないしな、だから父さんを信じてまずは自分の命を大事にしてくれ、不安なのは分かるが頼むよ、エアル」


「父さん」


父の真剣な顔を見て僕は涙を流しながらも1人で逃げる事を決意する、父を信じ僕は走り出した、全力で走りあんなに大きかった父の背中が小さくなり見えなくなるまで走り続けた、すると街の中心から爆炎が上がるのが目に入る、それでも僕は父さんを信じ続けて、涙を流し顔がぐちゃぐちゃになりながらそれでも走り続けた。

家に着くと数人の見慣れた人影があるのに気がつく、僕は目を腫らしながらも涙は拭き近づくとそこにはアシリアとニーナとアクトと親達がいたみんなが無事で僕は少しほっとするがそれでも父さんのことを考えると心が痛くなる。


「おーい、エアルくん、大丈夫だったかい?」


アクトとニーナの父親が僕を見つけて声を掛けてくる、僕は震えた声で答える。


「はい、僕は大丈夫ですけど、父さんが」


「そうかい、それはお気の毒に」


気を遣って言ってくれたが僕はその言葉にムキになって言い返す。


「父は生きています!必ず追いついてくると、僕に、行っていました、から」


徐々に言葉が弱くなっていく、涙が出そうなのを必死に堪える僕を見てアクト達の父親はやってしまったと言わんばかりにフォローを入れてくる。


「ご、ごめんねぇ、君のお父さんは優秀な冒険者だったもんね、きっと大丈夫だよ」


「はい」


僕は涙がこぼれそうになるのを堪えながら必死で、村の外を目指して歩き出した。

みんな僕の後ろをついてくるが僕の後ろ姿を見て誰も僕に話しかけてこようとはしなかった。

ただひたすら時間だけがすぎて僕は気持ちの整理もつかないまま歩いていると村の方から身の凍るような魔力の流れを感じ僕たちは足を止める。


「なにかしら、こんな魔力今まで感じたことないわ」


ニーナの母親がそういうと村の方をみんなで見る、すると村からはどす黒くも赤色に光った柱が天高くまで上がっているのが見えた。


「何かな、あの赤い光の柱」


アシリアがポツリと呟くとその途端に僕達はみんな背筋が凍るような悪寒を感じ、急いで村から離れようと走り出した。

どれほど走ったのか分からないが息が切れて足が痛くなってきた、どこに向かえばいいのだろうか何が起きているのか何も分からなかったがただ1つ、あの魔力を放っている何者かに捕まると死ぬということだけが直感で理解できた、ただ村から離れることそれだけを考えて僕達は走り続けた。




少し前、村の中心


エアルを逃して父親は1人この地獄のような惨状の前に立たされていた、周りには何もなくただただ気持ちの悪い魔力が漂っている、そんな空間であたりを見渡していた。


「さて、これは何をしようとしているのかな?」


地面を触りその血のような赤い液体に触れ匂いを嗅ぐ、血生臭くやはり血液だということを再確認する、ここで一体何をしているのか、果たしてこの死体達はどうされるのか、疑問だけが増え続ける。


「あぁ、エアル、まだ剣術を見てやりたかったなぁ」


そんなことをポツリと呟くと後ろからビュンと高速で何かが近づいてくる、間一髪で躱すとその正体を目で見て確認するとエアルの父の頬に汗がたらりと流れる。


「こりゃあ、随分と凄いやつが出てきたな」


そこには背中に大きな翼、頭には鉤爪の様な大きな角を持った人型の生物がいた、そうこれが、魔族である。

魔族とはこの世とは別の世界”魔界”に住む住人の事で、この世界マナテリアを魔族のものにせんとする為に侵攻を開始して世界の3分の2程の領土の占領し世界を絶望へと陥れた種族でもある、その力は圧倒的で並の人間では太刀打ちできずそれなりの実力を持ってしても簡単には倒せないだろうしもしかしたら命を落とすかもしれないそんな極めて危険な存在である、そんな存在が今目の前に立っていた。


「ごめんな、エアル追いつけそうには無いかも知れない」


1人ごとをつぶやいていると魔族がエアルの父親を見る、そして頬まで裂けた大きな口で話始める。


「お前、今の身のこなし、もしかして冒険者なのか?」


圧のある低い声で魔族は語る、剣を強く握り答える。


「あぁ、昔はな、今はもうブランクがすごいんでなあまり動けないけどな、それよりもお前の目的は何だ?どうして死体を並べている」


エアルの父親が聞くと魔族はほっぺをカリカリとかきながら少しバカにする様に答える。


「何を言ってるんだ?これを見て分からないのか?魔界に繋がるゲートを開こうとしてるんだよ!今65人並べ終わったとこだ、お前でちょうど66人だ後は俺の魔力を使い魔法を完成させれば扉は開きこの地をまた地獄へと叩き落とすだろう」


魔族の話を聞いてエアルの父親は全身の身の毛がよだつ、逃げないと俺もあの死体と同じ様に魔族に利用されてしまう。

だが、あの魔族の早さを見てしまった以上逃げるのは無理だと悟り、命をかけてこの魔族を討伐するしか無いと自分を奮い立たせる。


「やる気か?」


魔族がエアルの父を見て不敵に笑う、お互い臨戦態勢に入る、エアルの父が雄叫びを上げ一本踏み出し剣を強く握り締めて駆け寄ろうとした時、魔族はその行動を無意味だと言わんばかりの物量の火炎をエアルの父に浴びせる、生命を否定するようなその炎が治る頃にはエアルの父は見るも無惨な焼死体へと姿を変えていた。


「あぁ、これでやっと完成だ、ついにお会いできます魔界王様!」


魔族は焼死体を魔法陣の外側の前に66体並べ終えて、魔法陣の真ん中に立つ、自分の右手をちぎり取り血を魔法陣に流し込みながらしゃがみ込み左手で魔法陣に魔力を注ぎ魔法陣を発動させる、魔法陣はその魔力に答えどす黒くも赤く光出し空へと伸びて雲を貫通してどこまでも赤い光が伸びる、すると魔族は地面に伏して消滅してしまった。

光柱消滅すると地面から大きな口の様なものが開き地下へと通じる階段が誕生する、階段からはこの世のものでは無い異質の魔力をこの世に放ちながら堂々と存在していた、この世の全てを飲み込まんとする口の様に、後にこの階段を世界はこう呼んだ”死への階段”と。

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