雷魔法
全力を出し切ろう、これで負けても後悔しないで済むように!
覚悟を決めて剣を強く握り構える、肩の傷は治りはしたが、まだ痛みは残っており違和感がする、まだ万全でないのがわかる、それでも肩を強く叩き言う事を聞かせる。
「はああぁぁぁぁぁ!!!」
素早い動きでグレイルジャガーとの距離を詰め剣を右から左、左から右と剣先でばつ印を描くように振るう、グレイルジャガーは綺麗に避けると同時に尻尾で反撃をする。
エアルはその尻尾に合わせて剣を置くと尻尾を上手く切断することに成功した。
痛みで悶えるでもなくただ目の前の脅威を排除するべくグレイルジャガーは、爪でエアルを切り裂こうと突進してくる、間一髪避けるも左腕に少し攻撃をもらい出血する。
エアルは体勢を立て直し、雷の魔法を放ちグレイルジャガーは躱すために距離を取る、その隙を見て自分に回復魔法をかけようとするも、魔法の使い過ぎによる″魔力酔い″少し頭が眩み片膝を地面につく、その隙を突くようにグレイルジャガーはエアルに飛びかかる、動きに気付き剣を下から上に大きく振り上げてグレイルジャガーを弾くように後ろに吹き飛ばすも、爪が胸の辺りを少し抉っており、暑くなるのを感じる。
「ぐっ」
痛みで漏れる声を押し殺し、グレイルジャガーを睨む、向こうもさっきの攻撃が聞いているのか腕に出血を確認できた。
どうやら硬いのは胴体部分だけらしい、少し安心して体勢を立て直そうとするもの地面に刺さったように左膝が動かなかった。
どうやらそろそろガタが来たみたいだ、向こうもそれなりだろうがこっちもあのパワーを何発も剣で受けているので身体のダメージは相当なものでとっくに限界を迎えていたのかもしれない、そんな状況なのだが何故か頭は冷静そのものだった、自分の荒い呼吸や鼓動の音、グレイルジャガーの荒々しい呼吸音や草木を踏みしめる音まで鮮明に聞こえる、周りの音がうるさいくらいにはっきり聞こえる。
「なんだこれ?自分の心臓の音?うるさいな」
そう感じ胸を触ると鼓動をより感じより音が増したように感じる、なんだろう、この感じ。
そんなことに気を取られているとグレイルジャガーが地面を蹴り前に進む音が聞こえる、土が舞い上がり落ちる音、力強い踏み込みと蹴り上げの動きその全てが音となって聞こえてくる。
「全てが聞こえる」
走ってくるグレイルジャガーの方に右手を力強く前に突き出し魔力を集める、周囲の空気が変化するのを肌や音で感じる、エアルを中心にバチバチと雷の属性に変わった魔力が漂い始めその異様な空気を察して魔法を唱える。
「雷霆よ鳴れっ!」
轟音と共に右手から放たれた魔法は、グレイルジャガーの反応速度を大幅に超え、地に伏せさせる事に成功した。
目の前を雷が覆い尽くし消えると木々が薙ぎ倒され地面も少し抉れているのが目に入る、試験の時に使った魔法となんら変わりのないものだったはずなのに、あの時とはかけ離れた威力をしていた、自分で気づいていないだけで魔力量をミスってしまったのかもしれない。
ただ目の前に広がる光景を見つめ呆然としていると、自分の胸部と腹部の間あたりから痛みを感じる。
「ぐっ、あがっ」
自然と声が出るほどの痛みを感じて地面に伏してしまう、呼吸も荒くなり痛みで身体が震え初めて次第に体の自由が効かなくなって全身から汗が吹き出していた。
なんだ?これ、僕死ぬのかな?
そんな考えが頭をよぎった後、次第に意識が朦朧としてくる。
歪んだ視界で誰かが目の前に来て、話しかけてきているふうに感じたが、僕には何を言っているのか分からなかった、そのままだんだんと薄くなる意識の中で僕の頭には過去の様々な光景が映し出された、それを最後にプツンと意識は途絶えた。
少し前、ヴィルヘルとヨミはエアルを見守るべくまだ木の上からの監視を続けていた。
「ヴィルさん、そろそろ外してください、助けいいかないと!」
エアルが地面に片膝をつき肩で呼吸しているのがわかる、もう限界なのだろう、それでもまだ動こうとしないヴィルさんに私は少し声を荒げて言う。
「いや、ダメだ、ここからがいいとこじゃないか、エアルくん君はどう切り抜ける?」
少しニヤリとしてただエアルの方を見つめるヴィルさんに少し恐怖を覚えるも、縄を解こうと体を動かしていたが全く解けるどころかさらにキツくなってった。
この魔法具作った人誰なの?絶対に許さない。
「ははっ!やっぱそう来ないとだよね!?」
焦りながらももがいているとヴィルさんの嬉々とした声が聞こえて、エアルの方を見ると先程までとは違い、周囲の空気の変化に違和感を感じる。
(あれが、エアルの魔力?)
音にならない声が出る、あまりにも異質なその魔力に、まるで自然にある魔力を利用している様なそんな光景に、私は額に汗を流し目を離せないでいた。
次の瞬間、エアルの詠唱と共に放たれた魔法は、とてもレベル2の冒険者が、まだ12歳の少年が放てる様な、いや、放っていい様な威力ではなかった、木々を薙ぎ倒し、魔物を撃ち倒すその力はまるで、自然災害と言わざるおえない、そんな光景を目の当たりにして自然と恐怖を覚えていた。
「やっぱりエアルくんは、世界の脅威に立ち向かうそんな英雄になる逸材なんだ!」
こんなにも興奮しているヴィルさんを初めて見て少し、引いているとドサッとエアルが地面に倒れるのを見て直ぐにヴィルさんが駆けつけていった、何かエアルに話しているが離れていて聞こえない、エアルが痛みに悶えているふうにも見えたがヴィルさんがエアルの胸部の少し下あたりを少し触れた途端に何事もなかった様に静かに眠っていた。
安全を確認できて安心しているのか、そのままエアルを抱き抱えて街の方に走って行ってしまった、エアルに何かあったのだろうか、無事なのだろうか?など考えていたがふと、今自分の置かれている状況を思い出した。
あれ?ヴィルさん戻ってきてくれるのよね?私はこのままなのかしら?
そんな事に気づいた時にはもう周りには誰もいなかった。
(ちょっと、さっきから結構、漏れそうなのだけれど早く帰ってきなさいよ、ヴィルさん!)
足をバタバタさせて叫ぼうとするも声が出ず木がガサガサと揺れているだけだった。
森の中洗濯物の様に木の枝にぶら下がりただ木だけを揺らしているそんな時間がこの後46時間ほど続いたらしいと言うのとヨミは心の中で必ず復讐を果たすと誓ったのはまだ誰も知らない話。