表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

3ヶ月

1日を振り返りながら1人静かに街を歩いていた、宿までの道のりをゲイルさんに言われたことを思い出しながら考えていた。


「世界を平和へと導かん、かぁ」


そんなことをぼそっと呟きながらも1人で歩いている、その言葉を素直に受け取ることもできずに村で起きた出来事を思い出すと涙が溢れそうになるのを必死に堪える、あの時自分が強ければ、なんで僕たちの村が狙われたんだ、そんなことを思うと腹の奥が熱くなる、やっぱり僕は強くなたい、今はもう会っていないけどアクトやニーナやアシリア、そしてこの街で出会ったみんなを守れるくらい強くなりたい、もうあんな惨劇を繰り返さなくて済むように。

エアルは冒険者ギルドから宿に着くまでに過去を振り返りもう一度気を引き締め直す、そしてその次の日から修行とギルドの依頼をこなす日々を繰り返していた、レベル2の冒険者では受けれる依頼も少なくほとんどが雑用のようなものばかりだったがエアルは、早くレベルを上げより高難易度のものを受けたいが為に物を選ばずに受けれる依頼を受けて行った、落とし物探しや側溝の掃除などや収穫の時期になると畑仕事の依頼なども出されるので全てこなしてしまう勢いで働いていると、周りの冒険者からは次第に名前や顔を覚えてもらうようになり少しずつ知り合いも増えて行った、皆んなからは、

「雑用コレクター」などと呼ばれているらしい、好きで雑用をやっているわけでは無いので少し不服ではあるが案外気に入ってたりもする、そもそも雑用系のクエストを誰もやりたがらずレベルの低い他の冒険者がモンスター討伐のクエストを先に持っていくので僕が残った雑用系ばかりをしているのだ。

そんな日々を過ごして3ヶ月が過ぎた頃、僕は冒険者ギルドのギルド長室に呼び出されていた。


「おはようございます、なんで呼び出されたのか分かってないのですが」


僕は部屋に入り指示されるままに座り疑問を投げかける、すると、ヴィルヘルさんは毎度のことながら紅茶を飲みいつもよりも真剣な顔で僕に言う。


「エアルくん、そろそろレベルアップしてみない?」


「れべるあっぷ?」



カップを手に持ったまま言うヴィルヘルさんの聞き覚えのない言葉に疑問を返すとカップを置き説明してくれる。


「あはは、ごめんごめん、レベルアップって言うのは冒険者レベルの数字をあげることだよ、この3ヶ月君、頑張ってたしさそろそろ良いかなと」


その言葉を遮るように食い気味に言う。


「でも僕、雑用クエストしかして無いですよ?まだ魔物討伐の依頼も受けたこと無いですけど大丈夫ですか?」


そんな僕を見て落ち着いたまま手を顔の前でひらひらさせながら続ける。


「大丈夫大丈夫、君レインちゃんに勝ってるし、それにレベル2にしたのも一応の保険でだから、あ、でもちゃんと昇格の試験は受けてもらうよ、はいこれ」


そう言って手渡された紙を受け取り内容を読む、そこには手書きの魔物の討伐依頼が書かれていた。


「これが、昇格試験ですか?」


「うん、そうだよ、グレイトジャガーの討伐依頼だよ、試験日は明日の昼からギルドに来てくれたら良いから、昇格試験は試験官を同行させるからそのつもりでいてね」


簡単な説明を終えてそのまま部屋を追い出されてしまった、ヴィルヘルさんとこの3ヶ月でたまに話すけど全くどう言う人なのかわからない全く掴みどころの無い嵐のような人だ、取り敢えず今日はいつもの日課だけこなして宿に戻り休む事にした。


次の日、昼前にギルドに着き中に入ると酒場スペースでご飯を食べている見覚えのある影が目に入った、目が合うと彼女はこっちにこいと言わんばかりに手招きをしていたので近づく事にした、そこにいたのは前に酒場の件でお世話になったエイさんだった、対面に座ると机の上には凄い量の食べ物が並べられておりとても1人で食べる量じゃ無いだろと少し引いているとエイさんが口をモゴモゴさせながら話しかけてくる。


「おはようエアル、これ食べて良いよ」


口をモゴモゴさせているのに声だけははっきり聞こえたので僕は驚きが隠せなかった。


「え?それどうやってるんですか!?」


「企業秘密よ」


「えぇー」


例の如く技を教えてくれないエイさんに落胆して食べ物を食べようとパンを取り食べ始める、僕がパンを一つ食べ終わるたびにものすごい速度で食べ進めるエイさんに再度驚かされる。


「エ、エイさん、食べるの早く無いですか?」


僕の声を聞いてエイさんは頬を膨らませたまま不思議そうに答える。


「そうかしら、これでもゆっくり食べてるのだけど」


そんなやりとりをしているとさっきまで机の上に並べられていた約10人前の食べ物が全て食されていた、エイさん恐るべし。

少し食べたりなさそうなエイさんに驚きながらも、そう言えばと思い昇格試験についてをエイさんに聞いてみる事にした。


「エイさんは僕の昇格試験について何か聞いて無いですか?場所と時間の指定しかなくて」


僕の言葉を聞いて表情ひとつ変えずにエイさんはため息をつく。


「やっぱりヴィルさんは伝えてなかったのね、私が試験官よ、クエストについては聞いているから大丈夫よ」


「え、そうなんですか?試験官がエイさんで安心しました、それじゃあ今日はよろしくお願いします」


軽く挨拶を済ませて僕たちは昇格試験の討伐対象のグレイルジャガーのいる森へと向かう事にした。


森の中に入ってから数時間が過ぎた頃、移動中はそんなに会話は無かったが討伐対象に対する質問には答えてくれた、今回の討伐対象グレイルジャガーは人や他の魔物を好んで狙い捕食する魔物らしい、姿は四足歩行で大きな牙が上顎から下に向かって2本生えているらしく素早く獰猛でエイさん曰く到底レベル2の冒険者に枯れるような魔物では無いらしい。

ヴィルヘルさんは本当に何を考えているのだろう、僕のことを買い被り過ぎていないか心配になるのだけど、本当に危なくなったらエイさんが助けてくれるらしいんだけどそもそも噛みつかれたら終わりなんじゃ無いか?そんな不安でお腹が痛くなるが我慢してついて行くとグレイルジャガーの巣の近くに到着する。

エイさんは深く被ったフードの中から鋭い目つきを覗かせる、何か威嚇しているような警戒しているような視線を送る先には、力無く倒れている魔物を捕食している討伐対象らしき姿がそこにはあった。

体は思っていたよりも小さく大体1.5mくらいだったが遠目からでもわかるほど筋肉が発達しており獲物を食すその姿はかなり力強く映った、僕今からあれと戦うのかな?もう帰りたい。

そんな僕のことをよそにヨミさんは試験の説明を始める。


「エアル、あれが今回の討伐対象のグレイルジャガーよ、食事を邪魔されるのが何より嫌っているから気をつけてね、危なくなったら助けるわ、じゃあ頑張ってね」


「そうですか、じゃあ少し時間をおいて、」 


説明を聞き、一度下がろうと提案しようとすると、隣でエイさんが石を投げているのが見えた、その石は素早い速度でグレイルジャガー目掛けて飛び、グレイルジャガーに命中して少しのけぞるほどの威力だった。


「何やってんです…か?」


グレイルジャガーから隣に視線を戻すとエイさんの姿はなく、こちらに気づいたグレイルジャガーが怒りで我を忘れたように走ってくるのが見えた。

本当に何やってるんだあの人は!

こっちに向かってくるグレイルジャガーを見て戦闘体制に入ろうとするが思っていたより素早く突進してくるのを横に避けて体制を立て直す。


「危ない、ほんと覚えててくださいね!」


何処にいるのかわからないエイさんに怒りを叫びグレイルジャガーに向き直る、今の攻撃が交わされると思っていなかったのかこちらの出方を伺うようにゆっくりと距離を詰めてくる。

グレイルジャガーは発達した牙と爪を見せつけるように威嚇している、そこにさえ注意すれば行けるかもしれない、てか、当たったら重症間違えなしだろう。

エアルは左手に持った剣を前に突き出し横に倒しながら右手で狙いを合わせる、魔力を集中させて静かに口を開く。


「雷よ鳴れ、駆け回れ!」


魔力を溜めた右手で地面を強く叩くと雷に変化した魔力が地面を伝いグレイルジャガーを襲う、グレイルジャガーは雷を避ける為に高く飛びそのままエアルに武器である爪を使い襲い掛かる。


「空中じゃ避けれないよっ!」


エアルは左手に持って構えていた剣を両手で持ちグレイルジャガーの爪を体を逸らして避け、そのまま腹部目掛けて剣を振り上げ斬りかかる。 

当たった!そう思ったのも束の間、グレイルジャガーの腹部は非常に硬く、その鍛え上げられた肉体に全く剣は通らず鈍い音と共に弾かれてしまった。


「かったいな」


体を逸らし振り上げた剣を弾かれて体勢が崩れたその次の瞬間に、グレイルジャガーは尻尾を振りエアルに反撃をする、それを避けれることもなく腕でガードするも、その攻撃は重くエアルは後ろに軽く飛ばされ転がってしまう。

尻尾でこんなに重いのか?もし爪や牙が当たればただじゃ済まないだろうと思うと少し震えるが剣を握り直し震えを抑える、深く息を吐き呼吸を整え思考を凝らす。

何処を狙えば重傷を与えられるのか?魔法を直撃させれば効くのか?どれほどの速度、威力が出るのか?グレイルジャガーを観察し剣の角度方向を思考する、そんな僕を待ってくれるわけもなくグレイルジャガーは右手の爪で切り裂くように飛びかかってくる。


「はぁっ!」


その攻撃を大きく横に交わして、首筋目掛けて大きく剣を振りかぶるとグレイルジャガーは危険を察知して空中で身を翻し後ろ足での蹴りが僕の肩を目掛けてヒットする。


「がっ!」


思わず声が漏れ僕は地面を転がり地に伏せていた、肩の痛みで思考がまとまらず息が荒くなる、骨は大丈夫だろうが爪で少し肩を抉られていた、血が流れているのがわかる、肩が熱く痛い、地に伏して立ち上がれないでいるとグレイルジャガーは嬉々として近づいてくるのがわかる。

立ち上がらないとこのまま食べられてしまうのだろうか?このまま死んでしまうのだろうか?僕はなんて無力なんだ。

そんな事が頭を巡り弱気になってしまった、そもそもここまでの実力差があるクエストを受けさせられてもクリアできなくて当たり前なのかもしれない、危険になったらエイさんが助けてくれると言っていたのでそろそろ現れてくれるだろう。

そう考えて地面に伏していると、すぐ目の前の距離から荒い息遣いをした少し興奮気味のグレイルジャガーが来たのがわかった、獲物を前にして平常心ではいられないのだろう。

エイさん?そろそろ来てくれないと本当に死ぬかもしれないですよ?体痛くて起き上がれないです、本当に死にますよ!?

心の中で叫び顔を上げると今にも僕に噛みついてきそうなグレイルジャガーの顔が見えた。


「雷よ鳴れっ!」


咄嗟に魔法を撃ちグレイルジャガーの顔に命中した、その内に体を引きずるように立ち上がり少し距離を取り回復魔法をかける、回復魔法をかけている間はかなり無防備なのだが、さっきの魔法の顔への着弾がいい時間稼ぎになっていた。


「これ本当に死なないか?」


魔法をかけ終わり痛みが引いてきた辺りで1人呟く、周囲を見渡してもエイさんの影はなく辺りには僕とグレイルジャガーしかいないように感じる。

グレイルジャガーを見ると体制を立て直しまだ顔が痺れているのか少し引き攣ったような顔をしているのが見てとれた。

魔法をまだ威力の弱い魔法だとは言え顔面直撃で耐えているのを見て、全く勝てる気がしなかった。

弱点を探しても見つからず、反応速度はかなり常軌を逸しており、あの体制からの蹴りを喰らって肩から血が流れるほどの傷を負ってしまう、今の僕には到底倒せる魔物じゃないと思う、もしかしたら危険度5くらいありそうじゃないか?そんなことを考えながらも現状を打破すべく剣を強く握り構え直す。

流石のエイさんも死ぬ前には助けてくれるだろう、ここからは今僕が出せる全てを後先考えずに全力で出し切ろう!それで負けても悔いはないと言い切れるまで! 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ