久しぶりの模擬戦
ここは、世界の最北端に位置する巨大な山
”宵の霊峰”その山頂にあるとされているこの世と魔界を繋ぐ”調和の扉”その扉は魔界からこの地”マナテリア”を守るため古の賢者”エル・ト・アール”が弟子24名と自分の命をかけ創造し魔界とこの地の繋がりを無くし世界に調和をもたらしたとされていてその扉が開く時、世界は再び魔界の侵攻を受ける事になり世界は混沌と化すことになるだろうと言い伝えられている。
マナテリアの民はその扉を守り宵の霊峰に人が出入りできないよう厳重に結界を張り信頼のできる数名しか、入山を許可しないようにした、そのようにして世界は平和を維持していた。
「おい、エアル。私の授業はそんなに楽しくないか?」
「いたっ」
机の上ですやすやと寝ていたら突然頭に痛みが走り、身体を起こすと目の前には先生が怖い顔をして立っていた、かなり怒っている様に見えて僕は座り直して言い訳を始める。
「いやぁ、実は昨日夜遅くまで訓練していまして、先生の授業が心地良すぎてついうっかり」
僕の言い訳を聞いて先生は僕を黙らせる様に優しくチョップをしてくる。
先生はいつものことかと優しく忠告してくれる
「まぁ、いい、君たちには歴史の話は楽しくないのかもしれないな、それに実は私も正直なところあまり興味がないんだ、あの怖い校長にやれと言われているからやっているが正直何が面白いのか分からない」
先生は、深く暗いそれでも目を惹かれるような綺麗な青の長髪を自分の指でくるくると巻きながら愚痴っていたが授業を再開する事にした。
エアルも座り直し授業に集中しようと先生を見る、まぁ、当の本人はそんなにやる気無さそうなんだけど。
ここは大陸南部にある小さな”トネール”と言う村である、人口も100人程度で村のみんなで助け合いながら農業や狩りなどをして生活している、村自体もどうやら30年ほど前に出来たばかりで、まだ他の街に行くにも道はなく森の中にポツンと村があるので僕たちは他の村や街を見たことも行ったこともなかった。
そんな村でも先生は2年ほど前にこの村に来て村長に頼まれて今は僕たち4人の先生をしてくれている、村に来る前は凄腕の冒険者だったらしいのだが色々あったらしく剣術や魔術や座学まで全てを教えてくれている、いつもはローブに付いているフードを深く被り日を避けるようにしてだらけているがしっかり教えることは教えてくれるかなり頼りになる先生だ。
現在、授業が終わり僕たちは椅子に座ったまま4人で話していた。
「ねぇねぇ、今日先生の誕生日って知ってた?」
4人の中で最長年である、”ニーナ”が話始める、僕たちは彼女の方を見る。
ニーナは歳は11歳で綺麗な茶髪を腰のあたりまで伸ばしておりそれを後頭部の高い位置で一つに括りポニーテールを作っていたか、彼女の瞳は明るく綺麗な黄色の目をしているニーナ曰く1番のチャームポイントらしい、4人の中で最長年ではあるのだが精神年齢は1番幼い、いつも明るく陽気な性格をしているのでいつもニコニコしている。
ニーナに返すように僕は答える。
「そういえばそうだったね、僕たちで何かしてあげたいね」
僕が返すとニーナはニッコリ笑ってうんうんと首を縦に振る、そんなやりとりを聞いてニーナの隣に座っていた赤髪の男の子が話に混ざる。
「それなら俺いい案があるぜ!最近村の近く北の川の近くにポブボアが出るらしいからそいつでも狩って先生に食べさせるってのはどうだ?」
赤髪の男の子が立ち上がり嬉々として言う。
彼は”アクト”僕たちの中では最年少の9歳だ、赤髪短髪で燃えるような赤色の目をしており、かなりヤンチャで問題児なのだが仲間のためなら本気で怒ってくれるようなそんないい奴でもある、かなりの馬鹿ではあるけど。
すると僕の隣に座っている金髪の女の子がアクトに頭をかかえながらため息をついて話す。
「はぁ、ダメに決まってるでしょ私たちだけで村の外に出るなんて危険すぎるし村の大人達が許してくれるわけないじゃない」
「うっ」
アクトは金髪の女の子に怒られて少し怯む。
彼女は”アシリア” 僕と同い年で10歳である、キラキラとした綺麗な金髪を背中の真ん中程まで伸ばしており側頭部で少し編んでいる、そんな彼女も綺麗で透き通るような赤色の目を持っており金髪赤眼と言う人族にしては珍しい組み合わせであるのだが彼女は少し嫌っているようだった、彼女はアクトの姉で弟のアクトは姉には強く出れないでいた。
すると横からニーナがアクトの味方をする。
「え〜いいじゃん!みんなで行こうよ!絶対楽しいし先生も喜んでくれると思うよ!」
「ダメ」
即答するアシリアにニーナとアクトが駄々をこねる、いつもの流れだと思い見ていると部屋のドアが開く。
「どうした?騒がしいと思って来てみたらまだ居たのか、帰らないのか?」
フードを深く被りポケットに手を突っ込んだままの先生が立っていた、僕たちは先生の誕生日の祝い品を決めていたとは言えずに大人しく帰る事にした、そんな僕たちの様子を見て何かあると思ったのか先生は少し怪しんでいたがニーナとアクトがボロを出す前に急いで一旦帰る事にした。
僕たちは先生の家で教えてもらっており、家を出た後、少し歩いてからみんなでまた話始める。
「う〜ヒヤヒヤしたね」
「僕も誰かさん達がボロ出さないか心配で焦ったよ」
「誰のこと?」「誰のことだ?」
そんな誰かさん達の声が重なるが僕が無視して歩いていると後ろからずっと同じ言葉で聞き続けてくる、自分でわかってそうなので何も言わないでおくか。
そのまま僕たちは各々家に帰り、先生の誕生日プレゼントを考えていると父親が部屋に入って来た。
「おい、エアル久しぶりにどうだ?」
父親は両手に木刀を持ってドアの前で立っていた、父親は昔、冒険者をしており”竜狩り”の称号まで手に入れたすごい冒険者だったらしい今の丸々太った父親からはまるで感じられないので僕はこの話自体が嘘だと思っている。
僕は父親に付き合うため外に出る、木刀を父親から受け取り構える。
「ちゃんと手加減はしてやるから、全力で来いよ?」
父は左手で木刀を構えて余裕そうにしていた、僕は木刀を両手で握り締め力を入れる。
「じゃあ行くよ!」
僕は父親との距離を詰めて木刀を縦に振るが簡単に受け止められ弾かれる、その勢いを利用して一回転周り父親の体の右側に剣がないのを確認して切り込む。
「やあっ!」
カツンッ
と綺麗な音が鳴り僕の剣はまたもや弾かれる。
父親はまだ余裕そうな顔をしており僕に向かって挑発してくる。
「どうした?先生に鍛えてもらってるんじゃないのか?前よりも弱くなってないか?俺が教えた方がいいかもな?」
クッソこのオヤジ大人気なさすぎないか?
と、頭の中で父親の悪口を言いながらも構え直す、先生を馬鹿にされて少しイラッとする。
「そこまで言うなら怒るからね」
僕は体を低くして剣を構える様に木刀を腰に当てる、そのまま体勢を低くしたまま父親の足を目掛けて切り掛かる。
「ハアッ!」
父親は木刀を縦にしてガードして木刀同士が当たるがカツンッと音は鳴らずに木刀を上にスライドさせて父親の胴体目掛けて切り上げる。
「もらっ、たぁっ!」
僕の木刀が当たる寸前に父親がそれに反応して腕を振り上げて木刀を僕の体に打ち付けて少し吹き飛ばされた。
僕が地面にドサっと落ちると我に帰った父親が駆け寄ってくる。
「わりぃ、エアルやりすぎた今のは大人気なさすぎたな、すまん」
少しお腹が痛むが父親の顔を見て僕は必死に嘘をつく。
「いや、大丈夫だよ父さん、今のはほとんど木刀に当たったから体はそんなに痛くないよ」
僕が強がっていることなどお見通しだろうが自分に気遣う息子を見て少し嬉しい様な心配した様なそんな表情をしていた。
正直今すぐにでも大声上げて痛がりたいレベルではあるけど必死に我慢しながら自分に回復魔法をかける。
「自然の癒しを」
暖かな光と共に痛みが引いていくのを感じる、父親は僕の回復魔法を見て感心していた。
「回復魔法か、すごいなエアル、確か生まれ持った才能を持った人にしか扱えなかったんだったかなんかだよな?」
父親はそんなあやふやなことを言いながら僕を褒めてくれた正直嬉しい。
この世の中には闘気、魔力、精霊術と3つの人族が扱える力がありその中でも生まれながらの才能に起因するのは魔力の中の回復魔法と精霊術の2つだけである。
僕には回復魔法の才能があるらしく先生に才能を見出されてからは練習しているのだが回復魔法は魔法の中では1番練習しづらい魔法であるのでまだ実戦では使えるほどでは無いが訓練後や村の人が怪我をした時なんかに使用している。
「そう言えば、父さん本当に竜狩りなんて称号を持ってたの?僕相手に本気出しちゃう様じゃまだまだ疑わしいけどね」
僕が父親に仕返しするかの様に突くと父親は気まずそうにそれでも自分の名誉のために話始める。
「あぁ、そうだぞ、それにさっきのは本気じゃ無い、手元が狂っただけだ、それにお前はお前が思ってるより強いぞ?」
「はいはい、わかったよありがとう」
僕が適当に流すと父親は不満そうにしていたが僕を吹き飛ばした手前あまり強く出てこなかった、父親は先に家に入り僕は泥を落として家に入ろうとしていた時、1つの影が走って来た。
「エアルー!」
呼ばれ声の方を見ると、アシリア髪を風に靡かせながら走って来ていた、何か焦った様子で走っていたアシリアを見て僕は心配になる。
「そんなに急いでどうしたの?」
「はぁはぁ、ちょっと待ってね、はぁ」
息を切らしているアシリアを見て僕は何事かと思い唾を飲む、息を整えアシリアは話始める。
「実はニーナとアクトが村のどこにもいないのよ!」
え?村のどこにもいない?ん?もしかして
嫌な予想が頭に浮かぶ、それしか無いだろうと思い僕はアシリアを見るとアシリアも同じ結論に至ったのだろうか僕を見ている。
「あの馬鹿どももしかして二人で街の外にポブボア捕まえに行ったんじゃ?」
「うん、多分そうだよね?どうしようエアル」
僕は少し悩み、家の前に置いていた剣を手に取るとアシリアの顔を見て言う。
「取り敢えず僕が2人を探しに行くからアシリアは先生にこのことを伝えて連れて来て」
僕がアシリアを落ち着かせる様に言って冷静に指示を出す。
「わかった、でもエアルは1人で森に入って大丈夫なの?」
「まぁ、魔物を見つけても気づかれない様に逃げたり隠れたりするから大丈夫、それにいざとなった時はこれがあるから」
僕は手に持っている剣を前に出して見せるとアシリアは不安そうだが頷いて僕たちは二手に分かれて行動する事にした。