クラウドを喰らうど
熱により蒸気が生まれる。
料理人は完全に蒸し焼き状態だ。
白い蒸気が彼を覆いつくした。
「ふっ、私たちの勝利だ」
「……どうやら、まだのようだよ」
「え?」
霧が晴れる。
いや、晴れた訳じゃない。
霧が消えた。
そして霧があった所に、手羽先があった。
霧が手羽先になったのだ。
いや、料理したのか。
霧やその周囲の熱ごと料理したのだ。
「チート野郎が……」
なんだこいつ。
料理という概念そのものじゃないか。
熱を料理ってなんだよ!
「だが、弱ったな」
ランヴェルさんが【断罪】の剣を向ける。
料理人はすぐさま空気をきしめんに料理し、剣を巻き取る。
だが、彼の持つ剣は一つだけではなかった。
車に潜行させた【断罪】の剣が足元から料理人を貫く。
足を失った料理人は車の前に落ちた。
その時、銃声が響く。
「くっ、運転手か!」
その銃弾はランヴェルさんに二発、私に一発、そして料理人に三発放たれた。
料理人はその弾丸を味噌カツに料理し、足場とした。
私は弾丸に波を放ち、止めた。
ランヴェルさんは【断罪】の剣を弾丸に潜行させ回避した。
「運転手を殺せ!」
「いや、このまま料理人を殺しきる!」
ランヴェルさんが【断罪】を発動する。
しかし、料理人が足場としているのは彼が作った料理。
剣の罪は吸われてしまう。
「おおおお!!!!」
「正面からとは、愚かな!!」
料理人は目の前の空気を味噌煮込みうどんに料理する。
だが、ランヴェルさんは口角をあげた。
しかし、料理人にはそれが見えない。
視界を料理で覆ってしまったからだ。
料理人は飛んでくる銃弾も見えなかった。
【断罪】を潜行させた弾丸は、その追尾能力を継承する。
その弾丸が、料理人の後ろから彼を攻撃したのだ。
「心臓に直撃した。もう生きてはいないだろう」
「よーし……。じゃあ余計なことをしてくれた運転手を殺しましょう」
銃を奪って殺す。
この運転手は転生者ではなかったようだ。
私の波で動きを止めて銃を奪い、脳天を撃った。
「南無三!」
ノイアルルに味方した自分を恨むんだな。
自分らの車に戻る。
もうすぐ首都に辿り着く。
首都、チェルベッロ。
奴の根城だ。
「ランヴェルさん、辛そうね」
「まあ……、この人はただ天王の恩恵に預かっていただけで、悪人じゃない」
「……これは私の持論だけど、悪ってのは負けた人間に与えられる称号なのよ」
ランヴェルさんが私を見る。
彼の目に勇気を宿さなければ。
つまり元気づけなければ。
「でも、勝った方が正義じゃない」
「……」
「勝った方は醜く、負けた方は悪となる。今の私たちは勝利しただけの醜陋な存在」
「……」
「だから、とても惨めな思いになる。正道を歩くことは、勝利することじゃない」
ランヴェルさんがもう一度私を見る。
縋るような目だ。
私の言葉に救いを望んでいる。
「正道を歩くことは、ただ己の信念に従う事! 真に己の信念に従う者が、正道を歩く者! あなたは、スバルちゃんを救いたいんでしょ? その気持ちに偽りはあるの?」
「……いや、ない。僕はスバルを救いたい。それは確かな僕の信念だ」
彼は、見かけ上なにか変わったようには見えない。
だが、精神の波が統一された。
悩みが消え、信念に付き従う装置になった。
お似合いのカップルだ。
よかった。
ランヴェルさんが好きそうな言葉を並べたお陰ね。
【断罪】なんて【能力】を望んでいるあたり、自分を否定されないことを最も好むだろうと思っていた。
さて、スバルちゃんを助けに行こう。




