ヤバい奴
くっ……。
強い……。
異常なほどの粘り強さ……。
まさか【能力】?
アプローチを変えないと負けそうね。
「つ、疲れてきたわ……」
「私もー。あなたがやめたいって言うならやめてもいいよー」
「……。分かったわ。あなたの負けでいいわよ」
「よし! それで決まり!」
そう言うとジェリーは倒れた。
精神の波が消えている。
死んだか。
「……ジェリーが敗れたか」
もう一人の男が私に近付いてくる。
こいつはかなり厄介そうね。
「ジェリーの【能力】は自分で負けを認めない限り決して負けない。そしてジェリーと勝負して負けた方は必ず死ぬ」
「自滅したってことね」
「……いや、粘り勝ちと言うべきだ。ジェリーも焦っていた。対戦相手も負けを認めない場合、どちらかが餓死するまで続けることとなる。焦った、焦らされたからあんな罠に引っかかった」
この男、油断ならない。
恐らくは転生者だろう。
だが、纏っている雰囲気が尋常のそれではない。
「随分と喋るのね。寡黙な人かと思ったわ」
「それが【能力】の発動条件だからだ」
「!?」
攻撃されたのは私、ではなかった。
「スバルッ!」
攻撃されたのはスバルちゃん。
男はその場からまったく動いていない。
なのに、スバルちゃんは攻撃された。
「が……、が……、が……、が……」
「なんでスバルちゃんを攻撃したの?」
「お前は攻撃しようとする動作がまったく見えなかった。が、そこの女は駆け寄ろうとしてきた」
スバルちゃんの足が攻撃された。
一瞬の内に切断されたのだ。
スバルちゃんは地面にうずくまっている。
「すごい痛そう。女の子にこんなことをしていいと思ってるの?」
「なんの関係があるんだ?」
「ランヴェルさん! パス!」
「【断罪】」
私は下がる。
代わりにランヴェルさんが前へと出た。
力仕事は男に任せよう。
「待ってね、スバルちゃん。すぐに応急処置を……」
あれ、おかしい。
切れていない。
血がこんなに出ているのに、まったく切れていない。
「仙孤さん……?」
「スバルの【能力】じゃ……。お主は危険じゃから隠しておったが、スバルは傷を癒す【能力】を持っておる」
「いや、傷を癒すなんてレベルじゃ……」
「スバルがどのような代償を払ってこのような【能力】を手に入れたのかは分からぬ。本人も言おうとはせぬし、きっとワシらに気を使わせんようにしておるのじゃ」
「にしたってこの治癒力……。あのヤバい奴が遠距離で足を斬ったのにも驚いたけど、これはそれ以上よ」
あれ、そう言えばやけに静かだ。
戦闘してるんじゃ……。
「ランヴェルさん?」
道路の上に、肉の塊が落ちていた。
所々から毛が生えていたり、布切れが挟まっていたりする。
「おっとぉ!? 逃げよう! 仙孤さん!」
「す、スバルを置いては行けぬ!」
「大丈夫! 見殺しにしても、彼らは許してくれる! きっと地獄……、天国で見守っていてくれるわよ! ここで私たちが死んだら、それこそ悲しむに違いないわ!」
「し、しかし……」
「二人は優しい! 彼らは復讐なんて望まないはずよ! 復讐は! なにも生まない! それに彼らが生きていれば逃げてって言うでしょうよ!」
仙孤さんが動く気配がない。
そうなると私も動けない。
このヤバい奴は先に逃げた方から斬るつもりだろう。
精神の波が動きを探知している。
(仙孤さんを囮にして逃げる! これしかない!)
「ふ、二人とも……、逃げて……」
「スバルッ!」
「あとから、私たちも追いつくから……」
「くっ……。すまないっ……!」
ヤバい奴は私の予想に反して攻撃をしてこなかった。
私たちは逃げ切ることができた。




