レスバ、それは精神の煌めき
私はリムジンに近付く。
ジェリーはそのルーフに乗っかり私を見下ろしている。
もう一人の男が剣を触る。
「邪魔しないで」
「……」
「あら、守って貰えばいいじゃない。安全地帯から暴言を吐くことしかできないあなたにピッタリよ」
「自分から危険地帯に入る間抜けに言われたくなーい。ママに教わらなかったの?」
「私に親はいないわよ。捨てられてしまったから」
「親に育てられなかったから精神が子供のままなんだー。かわいそー」
「あら、そう言うあなたは子供じゃないのね。背が小さいから分からなかったわ」
まずはジャブ。
お互いに悪口を言える弱点を探っている。
一瞬の膠着状態。
しかし次に口を開いたのはジェリーの方だ。
「えーっ。私を子供だと思って反論しに来たのー? 大人げなーい」
「……」
舌打ちが出そうになるが耐える。
まだ怒ってはいけない。
怒りにはエネルギーを使う。
怒っている間に勝てなければ敗色が濃厚となってしまう。
「ええ。親の教育が行き届いていない子に注意してあげようと思ったのよ」
「うわー。真面目ちゃんじゃん。先生が授業に遅れた時に呼びに行きそー」
やはり転生者か。
だが、弱点を晒したな。
「え? 呼びにいかないの? 流石、不真面目な人間は考えることが違うわね。同調圧力に負けただけなのにそれが偉いと思ってそう」
「えー? 偉いと思ってそうなのはそっちでしょ? 協調性が無いのがかっこいいと思ってるんじゃない?」
「でも、小さなコミュニティでしか威張れない奴よりマシじゃないかしら」
「小さなコミュニティ? 関係ない話しないでー」
「さっきの例え、転生者にしか理解できないわよ? この世界の文明がいくら進もうと、制度まで一気に変わる訳ではないの。あなたはたった百人しかいない小さなコミュニティでしか伝わらない身内ネタで楽しんでるだけよ」
「……」
「あーやだやだ。内輪ノリを外部まで持っていく人って。なんでこんなに視野が狭いんでしょうね。相手の気持ちをなにも考えていない」
どうだ?
かなりイラつくと思うけど……。
そろそろ怒りフェーズに移行したっていいわね。
だが、ジェリーはまだ冷静に返してくる。
「私もあなたみたいな人やだなー。嫌味っぽいし、しかも自分が可哀そうな感じを見せつけてるし。かまってちゃんなの?」
「さっきあなたが関係ない話をしないでって言ったのに、自分からするの? 話の流れを理解できない無能なようね」
「だってさっき言ってたでしょー? 捨て子だって。あ、人とまともに会話した事ないと分からないか。あれは可哀そうな感じを見せつけてるように思えるからやめた方がいいよー」
「あら、それは申し訳ないわ。あなたは親からの教育を受けている様に見えなかったから、同じ捨て子かと思ったのよ」
「私は愛されて育ってるからあなたとは違うよー。あなたみたいに他人から嫌われようともしてないし」
「あら、それにしてはブレインでかなり悪口を書かれているわよ? 嫌われようとしてるのかと思っていたわ。才能あるわよ」
「ネットの情報を鵜吞みにしてるのー? 転生者なのにネットリテラシーひくーい。お婆ちゃんが転生してきたのー? それなら申し訳ないねー。ベッドでゆっくりしててもいいよー」
「鵜呑みになんてしていないわよ。むしろあなたはそんな少ない情報で相手を決めつけるあたり、随分と思い込みが激しいのね」
「もしかして文章をそのまま受け取ってるのー? 言葉の裏が読めないんだー。もう一回転生して赤ちゃんからやり直したらー?」
「あなたはその必要が無くて羨ましいわ。だって既にあなたは赤ちゃんじゃない」
「それじゃあ、あなたは赤ちゃん以下ってことかー。受精卵さん、胎内は気持ちいですかー?」
「私を見て赤ちゃん以下だと思うなんて、情報の処理能力が随分低いわね」
「えぇっ、あなたも私を見て言ったでしょー。覚えてないの? あ、鶏だったか。ごめんね。理解できない言語を話して」
「赤ちゃん以下って言ったり鶏って言ったり、本当に何が見えているの? 統合失調症かもしれないわね。病院に行った方がいいわ」
「ごめんね。鶏の言葉は分からないからー」
「ああ、やっぱり思い込みが強いのね。可哀そうに」
「鶏じゃないの? 無駄に声が大きいから勘違いしちゃった。私の思い込みが強いんじゃなくて、そっちが鶏そっくりなのー」
「自分の無能を他人の所為にするとか心が狭いわね」
「小さい事をぐちぐち言う人も心が狭いと思うよー」
「え? 自己紹介?」
「明らかにあなたに向けて言ってるのに理解できないのー? 無能はどっちか証明されたねー」
「ごめんなさいね。私はあなたと違って自分の過失を認められるから」
「……」
またも一瞬の膠着。
既にお互いのボルテージは上がっている。
いつ、怒りが弾けるか分からない。
だが、間違いなく先に怒った方が負ける。
「背が小さいと脳も小さいのね」
「それ、容姿差別ー? そんな差別主義者がいるなんて……」
「差別じゃないわ。ただ事実を並べただけよ」
「そっちは体が大きくても脳は小さいんだー」
「私の体は大きくないわよ? ああ、あなたから見たら大きいわね」
「相手目線に立って考えろよ。共感能力の低いクズが」
「は? お前がチビなのが悪いだろ」
そして、両者同時に怒りを露わとする。
レスバとは、どちらかが負けを認めなくては決着がつかない。
負けを認め言い返せなくなるまで、私たちの争いは終わらない。
論理的に正しいだとか、そんなことはどうだっていい。
そもそも議題が存在しないのだ。
これはなんの意味もない敗北の押し付け合い。
それこそがこの精神の煌めきなのだ。
そうして、数時間が経過したのであった。




