行け! 悪魔!
小屋の中でくつろぐ。
心地がいい。
野営なのを忘れるほど心地が良すぎる。
「身体は休まっても心が休まらない……」
まあいつものことだ。
どうせ夜にはある気疲れのおかげで眠っている。
することがほとんどない。
料理は自動調理器があり、皿洗いも自動、掃除も自動、スマホを触る必要すらなくなった。
今は念じるだけでなんでもできる。
悍ましい。
魔導具や機械がただ悍ましい。
「スバル、戻ったよ」
「ああランヴェルさん。二人は薬草取りに行ったわよ」
「……本当だ。メールが来てたね。見落としてたよ」
「仕方ないわよ。ランヴェルさんは狩りの時、通知を切っているじゃない。スバルちゃんに急ぎの用?」
「いや、急ぎという程でもないよ。……どちらかというとエキュリソーさん、君に用事かな」
「私?」
なにか特別話すことでもあったかな?
そう言えば何カ月か前に肉体から炎を噴き出した件。
なあなあに済ませた気がする。
いや、【断罪】の件か?
あの【能力】を見てしまったし、口封じでもされるのだろうか。
「スバルの件だ」
「予想外の切り口ね……」
「え?」
「いや、こっちの話。……それでスバルちゃんがどうしたの?」
「僕は実はスバルの事が好きなんだ」
「あ、うん」
「驚かないね」
「もしかして隠してるつもりだった? バレてるわよ」
「え……」
ランヴェルさんは少し照れくさそうに顔を反らした。
ん?
もしやこれは……、恋バナというやつでは?
恋バナ相手が男というのは癪だが、この際どうでもいい。
すごくまともな女子っぽいことができる!
「で? いつ告白するの? 今日? 明日?」
「い、いや、そんなすぐには……」
「こんなの早いほうがいいわよ。ノイアルルも思い立って数時間で革命を成功させたし」
「それは参考にならないと思う……」
おお。
これが恋バナか……!
ちょっと楽しい!
「ただいまー」
「この声は……、スバルちゃんね!」
「ちょっ!」
私は玄関に走っていき、帰ってきたばかりのスバルちゃんに向き合った。
精神の波は戸惑いと期待に揺れている。
「あのね! 実は……、ムガッ」
「はーい。エキュリソーさーん。余計な口は閉じようねー」
「……なにやってるんですか?」
「忘れて! 一旦全てを忘れて!」
「ムガムガッ……」
クソ。
この男、力が強いな。
エキュリソーの肉体じゃ太刀打ちできない……。
よし、悪魔の体を顕現させるか。
エキュリソーの体内は地獄に繋がっている。
悪魔としての精神を肉体に留めるために、地獄がこちらに近付いたのだ。
手の甲を引っ掻き、傷つける。
炎が湧き出る。
それは地獄の炎だ。
現世は真空状態の箱みたいなものであり、地獄にあるものは吸い込まれるようにこちらへ来る。
そこに、悪魔の体を混ぜる。
悪魔の体は穴を塞ぎ、炎が遮断される。
代わりに、悪魔の体が現れる。
右手は、変質した。
黒く、棘が生え、そして禍々しいオーラを纏う。
昆虫が持つ外骨格のようなそれが、右腕を覆い尽くした。
ランヴェルさんはすでに私を離していた。
「ちょっと!? エキュリソーさん! 本気!?」
「私はどんなことでも本気を出す人間なのよ!」
「い、イカれてる……!」
「なんとでも言うがいいわ!」
けど、かなり体力を消耗するわね……。
地獄が体力を奪ってる?
まあ仕方がない。
地獄はそういうものだし。
「ちょ、ちょっと待って……? これ、体力を使いすぎる……。もう、維持できない……!」
え〜……。
数秒?
十秒も維持できなかったんだけど。
使えね〜。




