餓鬼の断食
「あ、仙孤さんいたわよ」
仙孤さんはスマホ売り場から少し離れた路地に、スバルちゃんと一緒にいた。
その手にはスマホが握られていた。
「なんで持ってるの!?」
「くくく……、ワシは幻術を扱えるのじゃ……。それでちょちょいと列を操作してのぉ」
「お、じゃあもっと買ってきてくれない? 転売したいんだけど」
「ランヴェル、すみません。止めたんですけど……」
「……仕方がない。取り敢えず移動しよう」
私たちは近場の安宿を借りた。
そうして、スマホを使ってみることにした。
「電源は……? 入るわね」
「これ、シャットダウンの概念が無い気がするんですけど……」
「それどころか充電の概念も無いわよ」
スマホを開くと、使い方のチュートリアルが始まった。
私たちはもちろん知っているが、仙孤さんは知らないのでそれを楽しそうに読んでいた。
そんな彼女を二人はお婆ちゃんが初めてスマホを持った時のような表情で見守った。
私はこのスマホを解析する。
まず【龍玉】のエネルギーがこの板から発せられているのは間違いない。
だが、精神操作は行われていないように思える。
そもそも精神操作には射程距離があるはずだ。
これは言語を司る力によって生み出された産物だろう。
精神の波をずらす。
こうすることにより、【龍玉】の力を一時的に跳ね除けることができる。
やはり、これはただの板だ。
木の板。
それを綺麗に整形しただけに過ぎない。
だが、言語を司る力を通してみると、あっという間に現代風のスマホになる。
言語の解釈を広げたのね。
これは言語だ。
私たちは口を開き、喉を震わせ、舌を操り、音を作る。
それ自体には意味がない。
だが、作った側も含む全ての人間がその音に解釈を見出しているだけだ。
これも同様。
その板をなぞる行為、押す行為、それにはなんら意味がない。
だが、木の板がそれを解釈する。
【龍玉】は解釈を代替する神器。
それがよく分かる。
そしてノイアルルが【龍玉】を持ったままでは駄目だと言う事も。
「しかし、なぜノイアルルはこのような絡繰りを売り始めたのじゃろうか……」
「簡単よ。それは龍王が成し得なかったこと」
「龍王が……?」
「ええ。これはノイアルルから聞いた話なのだけど、龍王は脳内麻薬を作り出す施設を作っていたそうよ。つまり娼館ね。快楽によって生み出される脳内麻薬によって、仮に【龍玉】の支配から脱却しても逆らえないようにしていたのだと思うわ」
「脳内麻薬……! ドーパミンか!」
「そう。現代日本人がスマホなしで生きられないように、この世界の住人全てにスマホを普及させる気よ」
「でも、それは防げるのでしょうか……」
「無理よ。便利すぎるもの。ご丁寧に電話アプリ以外にもスマホゲームだとか、動画投稿サイト、SNSまで完備されている。しかも、恐らく自分でアプリを作って発信することもできる」
「これから、この世界はどうなるんだ……?」
「文明が異例の速度で発展するでしょうね。それこそ、地球の科学なんて子供のお遊びだと思える程に。でもそれは止められない。文明は加速する。これは絶対の決定事項となってしまったわ。なるようにしかならない」
何カ月で地球の文明を超えるでしょうね。
一月?
二月?
建築物だってすぐに変わっていくでしょう。
ロボットが仕事を奪うのはどれくらい?
宇宙旅行は?
あくまで【龍玉】は認識を変えるだけ。
だから重機械は作れない。
でも、あいつが持っているのはそれだけではない。
【魔導書】と【聖杖】。
少なくとも拳銃は【魔導書】によって作られたものだろう。
ノイアルルが統治する新国家を起点として、世界は近代化の一途を辿る。
技術の限界は来るのだろうか。
だが間違いなく言える事は、ノイアルルの天下統一も夢想だとかではなくなった、という事だけだ。
SFチックになってきた




