エキュリソーの復讐
幕間、若しくはプロローグ
ノイアルル、ノイアルル、ノイアルル!!
殺してやる!
生皮剥ぎ取って爪を突き立てて殺してやる!!
奴の血を頭蓋に注いで人肉のつまみにしてやる!!!
殺してやるぞ、ノイアルルゥ!!!
そうだ、私は、私は……!
悪魔なんだ!
あのクソ神もどきが地獄に封印しやがって、こんな肉体に生まれ変わっんだ!
思い出したぞ!!
確か逆張りの転生者がいて……、そうだそれで神が一番嫌がる奴を転生させたんだ!
クソ神がぁ!
いや、それよりノイアルルだ。
私が助けてやった恩を忘れやがって……!!
殺す、確実に殺す!!
悪魔としての力はまだ完全には戻っていないが、確実に殺して地獄へ叩き込んでやる!
「ん……? ここは……」
地獄じゃないな。
見覚えはないし。
テント……?
私はノイアルルに殺されて……、それでどうしたんだっけ。
「グー。パー。チョキ」
この肉体はエキュリソーの物ね。
まあ恐らく、精神が遠くへ飛んでいき、そこで肉体を再構築したのね。
「はぁ……、かなり力を消耗してるわね……」
ああッ!
あれもこれも全部ノイアルルの所為よ!
ぶっ殺さないと気が済まないわ。
「って言うかここはどこなのよ……」
私は布の上に寝ていた。
ってことは誰かが私を介抱してたのかしら。
周囲はテントのような様相。
少し布を捲ると草が見える為、野外だろう。
本当になんなの?
状況から鑑みるに、倒れていた私を誰かが拾ってくれたのだろうが、油断はできない。
女性を攫う山賊の類ではなさそうだが、しかしこうやって恩を売るタイプの詐欺師も居なくはない。
そこに、一人の女性が入って来た。
「あ! 起きたんですね!」
その女性、いや少女と言うべきだろうか。
成熟かけの女性、総称するのが正しいだろう。
美しい銀髪を一つに束ね、そのエメラルドグリーンに侵された瞳はやけに純粋そうだ。
彼女は私が起きているのを確認すると、風貌に違わず嬉しそうに飛び跳ねた。
この姿を見て、嘘くさいと思う私の心が腐っているのだろうか。
いや、ノイアルルの所為だな。
私は悪くない。
あいつが私の価値観を変えたに違いない。
「ええ、あなたが介抱してくれたの?」
「あ、えっと……」
私の質問に彼女は言い淀む。
うっわ、怪しい……。
違う違う。
そうだ。
こういうので普通は人を怪しまない。
そこに、男が一人と女が一人入って来た。
「申し訳ない。言えない訳があるんだ」
「女性が寝ている部屋にノックも無く入るのはどうなの?」
「えっあっ、ごめんなさい?」
「くくっ、確かにその娘の言う通りじゃのぉ」
「……ああ、こちらこそ、ごめんなさい。つい癖で。この間まで終わった性格の人間と一緒にいたから」
「……君はどこから来たんだい?」
「そっちが……、ああ駄目だ。こういうのを普通の人間は言わない」
そっちが情報を開示しないのにこちらが答えるのは不平等だ、なんて言えない……。
多分、普通の人間はそんなことを言わないし。
危ない、危ない。
「確かに、こちらが情報を開示せずに聞くのはあんまりじゃのぅ」
「す、すみません。配慮に欠けました……」
「こ、こんなことで謝るの……!?」
「君は……!! いや、聞くのは良くないな」
「す、すごい! 成長してる! こんなの本当に起こるんだ!」
「……」
「あ、あはは……」
「ふむ……」
何てこと!
まともだ!
すごい!
それよりこの女。
人間じゃない。
狐だ。
狐の耳と尾の生えたバケモノだ。
こわ~。
「……それで、お主はどうするのじゃ?」
「私は……、奴に復讐したい」
「復讐なんて……」
「あいつをぶっ殺してスッキリしたい」
「ああ、うん。そういう感じ」
「この人、怖いです」
「よーしよし。撫でてやろう」
狐の女が銀髪の少女を撫でる。
「そういえば名前は? 私はエキュリソー」
「僕はランヴェル。冒険者だ」
「私はスバルです。同じく冒険者をやっています」
「ワシには名が無いのでのぉ。仙孤、とでも呼んでおくれ。旅をしておる。旅人、というより旅狐というべきかのぉ」
「ランヴェルさん、スバルさん、仙孤さんですね。介抱? してくれたんですよね。ありがとうございます」
感謝を伝えた。
おお。
私、すごい。
「ちゃんでいいですよ! さんは少し遠いので……」
「ランヴェルちゃん?」
「そっちじゃないですー!」
「冗談よ、スバルちゃん」
あれ、そういえば何か違和感がある。
こういう時っていつも嫌な予感があったんだけど、嫌な予感ではなさそう。
「あ、そうか。言語……」
「お主も気が付いたか」
「「?」」
【龍玉】はノイアルルが手に入れた筈だ。
さらに、あの言語の力は国外にも広がっていた。
恐らく、言語の力は全世界に届くのだろう。
精神支配がどこまで続くかは分からないが。
「ワシはのぅ。二人に日本語を教えて貰ったのじゃ」
「え、それ言ってしまって……」
「構わん。こやつも気が付いておる」
「今、私達は日本語で話している」
「「!?」」
しくじったな。
気が付かなかった。
無意識で日本語を使っていた。
【龍玉】の効果が失われている。
一時的か?
「クソが……。ノイアルル……。いつまで経っても私の邪魔を……」
「何か、知っておるのか? 転生者よ」
「うーん……。まあ言ってしまってもいいかな。龍王って知ってる?」
「うむ。言語を司る【龍玉】の所有者である。かの国には他に二人の王がおる」
「この前、私とノイアルルっていうゴミカスクソ野郎で革命を起こしたのよ」
「は?」
「で、三人の王は全員暗殺したんだけど、その時ノイアルルに裏切られてしまったのよ」
「「「……」」」
「多分その所為ね。……三人とも?」
固まっている。
何かマズい事を言ったかしら。
あ、殺すとかって普通の人は言わない……?
ノイアルルめ……。
「え、えっと……。殺したんですか!?」
「そこはどうでもいいのじゃ!」
「どうでもいいの!?」
「三人の王を殺した……? 神器はどうなったのじゃ!」
「ゴミカスクソ野郎が全部持ってる。なんか神になりたいんだって。現人神? とか言ってたわ」
「なんてことじゃ……」
仙孤さんが天を仰ぐ。
他二人は既に置いてきぼりだ。
可哀そうに。
でも理解できない程ちっぽけな脳みそが悪いわ。
とかね、思っちゃいけないのよ。
「私はノイアルルを殺しに行くわよ。でも、あなたたちに何かお礼ができればいいんだけど……」
「い、いえいえ! お気になさらずに!」
「僕らは別に見返りを求めて助けた訳ではないですし……」
「お主ら、甘いのぉ。しかしエキュリソー。お主には着いてきて貰うぞ」
「甘いのかな。なんか怖がられるだけな気がするけど。で、あなたたちもノイアルルの所に行くの?」
「仙孤ちゃん、そんな危険人物とは会いたくないんですけど……」
「会わざるを得まい。三種の神器を全て手に入れた奴を放置すれば、間違いなくこの世界は支配されるぞ」
確かに。
彼女達には言っていないが、ノイアルルのあの【能力】。
龍王が言うには神もどき……、ジェネリック神とでも呼ぼうか。
ジェネリック神と近似した【能力】だと言う。
ノイアルルは間違いなく神に近付こうとしている。
「神が姿を隠してから幾千年。新たな神をそやつは倒すつもりじゃろう」
「恐らく、ジェネリック神なんてノイアルルは簡単に倒せるわよ」
「じぇね……? いや今はよい。そうなれば、世界がどうなるか分からぬ」
「阿鼻叫喚の地獄となるでしょうね。あいつは頭がおかしい」
倒すしかない!!
この世界の為に!!
「私の心は今!! 正義の心で埋め尽くされている!!」
「え、う、うむ……。そ、それはよい事じゃな……」
「う、うん……」
「そうだ、な……」
なんか、微妙な反応ね。




