#37 星の一会 IV
『だいちよ、うねりくるえ。みずよ、はしりくるえ』
"熱波"によって沸騰する"水流"が、"竜巻"によって"岩礫"と共に巻き上がり、巨大な人型を形成した。
ワームと比すればさすがに小さいけれども、遥かに見上げる四属魔術のゴーレムは言いようのない浪漫が秘められていた。
「おぉおおおおーーーー!? すっげぇぇえぇえええッ!!」
「それほどでもないわぁ。この星の潤沢な魔力あってこその大きさでもあるしぃ」
アデリンの使う"双成魔術"──本来は双子の姉妹でまったく同じ想像を持つことで、相乗効果で威力と効率を最大限に高めるもの。
しかし戦争によって半身を失ってからは、"二重詠唱"という特異な発声によって、たった一人で異なる魔術を二つ同時に行使できるようになったのだとか。
赤熱して炎上する岩塊の各部に、沸騰した水流が血液のように脈動し、嵐のまま形を変える破壊の化身がその姿を変えていく。
「これでもワームには歯が立たなかったからねぇ。ユリウスが来るまではひたすらに逃げるだけだったわぁ」
四属ゴーレムは巨大な蛇へとなって、遠くの大地に突っ込んで爆散した。
かつては大陸にある【王国】において、12席しかない"円卓の魔術士"に座っていた上澄みの強度。
本人は謙遜しているものの、その実力は推して知るところである。
ただ単純に、比較相手があまりにも悪すぎるだけなのだ。
「ユリウスさん……本当に半端ないんすね」
「そうよぉ、大陸でも五指に数えられた頂点の一人。わたしもそれまで何度か戦場で見たことはあったけど……まさか片割れ星で出逢い、結ばれるなんて思いもしなかったわぁ」
アデリンはしみじみと、懐かしむようにそう言った。
「それで、アルムは魔術は使えるのかしらぁ?」
「魔導師なんで、今のところ普通の魔術は使えないっす。でも代わりに──」
俺は地面へと指で魔力を込めながら、サラサラと紋様を書いていく。
「これ、は──まさか"魔術方陣"……? 失伝したはずのものを、あなたはどこで習ったのかしらぁ?」
「魔導の先生から教わりました。魔導師は魔術を使いにくいけど、魔術方陣なら別だって」
「先生……?」
アデリンは目を細め、何かを考えているようだった。
「師匠がいっぱいいるのが自慢です。今やアデリンさんもその一人ですし、ユリウスさんからも何度か手解きしてもらってますんで」
もっともユリウスは完全な我流な上に、その戦型も本人の圧倒的な強度まかせの無茶苦茶なものだった。
参考になる部分は皆無と言っていいレベルだが、ただ闘うだけで自分の中に様々な発見が浮かんでくる有意義さがあった。
「よし、これでいいかな」
描き終えた魔術方陣から、小さな炎が四つ──団子のように縦に連結して灯る。
「正確性だけじゃなくって、絵心も結構いるんで練習中っす」
「その先生って、今も生きてるのかしらぁ? 名前はわかるぅ?」
「エルフなんで生きてますよ。名前はイドラ──イドラ・ハージェントって言います」
先生からは口止めされているものの、"片割れ星"にいる以上はそれが影響を及ぼすことはないだろうと、俺はその名を口にした。
「なるほど、聞いたことあるわぁ。王国には"降魔の塔"って専門の研究機関があるのだけれどぉ……そこで後々に繋がる実績を残して、忽然と姿を消したのが、そんな名前だったかしらねぇ」
「あーーー長生きだから、いろんな国でイロイロとやってきたって聞いてます。そこらへんはあまり詳しく語ってくれないんですけど」
単純に忘れているとも言っていた。
印象的なこと以外は、思い出せなくなっていくと。
長命種はそうやって刺激もなくなっていき、"長寿病"にかかって枯れていくのだと。
「よければ後で魔術方陣について教えてくれるかしらぁ、きっと何か役に立てることもあるかも知れないしねぇ」
「押忍」
「それじゃ先に、わたしが現役だった頃の最新の魔術とその種類および派生、理論構築について教えるわぁ」
そうして俺は一流の魔術士から、大陸魔術の講義と指導を受けるのだった。
◇
お世話になりつつも……大半はお世話する側に回っていた──様々なことに手を出した三週間。
しかして教えることで実践とはまた違った、新たな発見や学びがあったのも事実であった。
(いつだったか、先生もそんなこと言ってた気がするなぁ……)
知識を教えようと、噛み砕いて組み立てて考えることで、はじめて己の中で身内のような存在になると。
(それに先生の循環空間のような……魔力が充足した片割れ星……封牢と違って積んだ修練の成果を、ド派手に試せたのもありがたい)
室内ではできないこと、魔力が溢れる屋外だからこそ可能な修行や実験ができた。
さらに余った時間は──見える範囲から見える範囲へとあっちこっち──転移しながら、片割れ星の自然を堪能する充実した生活。
俺は対面に座るエンテとの間にある手作りの将棋盤に、同じく手作りの駒をパチンッと指した。
「これで詰みかな」
「ん、あ~やられちゃった」
「エンテは覚えも早いし、筋も悪くない。いい感じだ」
「ありがとぉ」
娯楽があまりにも少ない為に、こうして色々と伝える側に回るのも面白い。
「次は演奏か、歌か、踊りか、自分で楽器を作ってみるのもいいかもな」
本格的な楽器は造れないものの、簡単な打・弦・管楽器くらいなら、ワーム素材なんかも使いつつ色々と試しに製作をしてみた。
「えっと……う~~んと──」
降って湧いたように増えすぎた娯楽に、エンテは戸惑いながらも一つ一つに全力で打ち込んでくれる素直さがあってやり甲斐もある。
「彫刻でもいいし、服飾縫製なんかはエンテが覚えたほうがいいかもな。正直ユリウスさんもアデリンさんも不器用だし……」
エンテが普段から着ていたものも、元々はユリウスとアデリンが着ていた上等な服の一部と、鞣しが足りない毛皮を雑に組み合わせたもの。
その出来はお察しであった。
「それじゃ俺の一番好きな歌でも……」
手作りの琵琶もどきを俺は手に取りながら、調律も甘くまだ拙いながらも弾いていく。
『誰かわたしに──愛せる人を──見つけてくれ──』
俺とエンテの声が同調するように重なり合い、奏でられる旋律が文化のない片割れ星に響き渡っていく。
それからさらに一週間──あっという間に時間は過ぎ去って行くのだった。
◇
帰還、旅立ちの日──
「それじゃ、俺はそろそろ行きます」
お土産を両腕で抱えた俺は……ユリウス、アデリン、そして……昨晩泣き腫らしたエンテを前に別れを告げる。
「大丈夫そうか?」
「えぇ、ここで得難い経験と修練が積めましたので」
"空間変成の魔導"──"歪空跳躍"。
意識的に超長距離の空間転移をするのは初めてだが……"片割れ星"での積算と、充足な魔力環境があれば、一方通行の成功確信は頭の中で得られている
「ユリウスさん、アデリンさん……この"片割れ星"でお二人から数多くのことを学ばせてもらいました」
「それはこちらもよぉ。アルムのおかげでここがどれだけ快適になってしまってぇ、もう以前の生活には戻れないくらい」
「我らも本当に世話になった、本当にありがとう。それにエンテも──」
ユリウスに背を押されるよりも先に、エンテは前に出て俺と握手を交わす。
「さよなら、アルム」
「あぁまたな、エンテ──いつか俺がもっと強くなって、魔導を完璧に使えるようになったら必ず迎えに来てやっからよ」
「うん……待ってる」
コクリと大きくうなずいたエンテに、俺は魔導のイメージを確立させていく。
「それかエンテ。お前がこっちに来い、ってかあっちに行く──が正しいか。俺みたいに空間の魔導でもいいし、なんかこう……どうにかして来ればいいさ」
「がんばる」
互いの手を離してから、改めて俺は頭を深く下げて一礼した。
「限界を超えて楽しめ、それでも世界は果てしない──ではいずれ、また会いましょう!」




