3.おもちゃ epi.3:価値③
翌朝
柊様は早朝から学校に登校したと寧音さんから聞いた。
その次の日も、またその次の日も。
早朝から学校に行き、夜遅くに帰宅してくる。
あのお風呂場の時以来、顔を合わせることはなかった。
寧音さんや他のメイドたちも、もともと柊様は自由だったし構われるのが嫌いな性格なので
無理に合わせなくても良いと旦那様からも言われていると言う。
その間、わたしは屋敷仕事を淡々とこなしていた。
ここに来た日に寧音さんが言っていたメイドの空き部屋も綺麗に整えられて、想像していたよりずっとゆるい環境で力が抜けてしまった。
そんな中迎えた週末、学校から帰宅していつものように屋敷仕事を終え、
夕食の時間になっても帰ってこない自分の主人を待っていると、寧音さんが声をかけてくれた。
「いつも遅くまで待ってくれているけど、あまり無理はしないでくださいね。」
寧音さんはいつも気にかけてくれる優しい人だ。
メイドの空き部屋が出来て、わたしの部屋を移しましょうと提案してくれたけど、意外と屋根裏部屋が心地よくて断った。
「大丈夫です。柊様のお世話が仕事だと思ってますし、自習しながら待っているので効率的?です!」
この言い方が合っているのか分からず、へへへっと笑いながら言うと寧音さんは笑ってくれた。
きっとわたしの境遇を知っていて、いろいろ気にかけてくれている。
「それにしても、柊様って家にいることが少ないですよね。今日はもう日付が変わりそうですけど、こんな日もよくあるんですか?」
「いえ、いつもは日付が変わる前には帰宅してますので。帰りが遅くなる日は大体ご友人宅に泊まる連絡をいただきますが、たしかに遅いですね⋯。」
寧音さんは心配そうな顔で、友人のご自宅に確認してみると席を立った。
もう遅いのでわたしも部屋に戻って良いと言われ、部屋に戻って寝ることにした。
──⋯カタ
夜中、物音で目が覚めてしまった。
(柊様が帰ってきたのかな⋯)
出迎えに行くか迷った結果、仕事だしな⋯と部屋着姿ではあったが下に降りることにした。
玄関まで行くと、寧音さんが先に出迎えていたようで柊様がお風呂に入ると行ってしまった後だった。
「あ、瑠李さんちょうどよかった。柊様に替えの服とタオルを持って行ってもらえませんか?私は別の用事があるので。」
「しょ、承知しました。」
正直、あまりお風呂場には行きたくなかったが、仕事だと思い割り切って考えることにした。
脱衣所に柊様がいないことを確認してこっそり柊様の洋服とタオルを置いていると、
ケホケホと浴室から咳き込む声が聞こえてきた。
(この前もむせてたけど、体調悪いのかな?)
気になりながらも、またこんなところで会ってしまったら何されるかわからない、と
そそくさと脱衣所から出て行った。
部屋に戻ってからも、連日遅くまで外出してて体調が悪いのかもと気になってしまい
少し様子を見てこようと2階まで降りると、ちょうどお風呂後の柊様が階段を登ってきた。
顔を合わせるのはお風呂場のことがあった以来で、つい思い出して緊張したが
その顔色は特に体調が悪い感じはしない。ただ、自分のことを冷ややかな目で見ている。
「お、おかえりなさい⋯ませ」
「⋯はぁ⋯」
迎えの挨拶を無視してため息をついた後、自分の部屋に戻ろうとするので
「あの、いつも遅くまで出かけてて大丈夫ですか?寧音さんも心配してたのであまり⋯」
"あまり遅くならない方がいい"
そう言い終える前に腕を捕まれ、壁に追いやられた。
「俺に説教するつもり?」
「そんなつもりは⋯あんまり遅いと危ないですし、柊様になにかあったらみんな心配すると思って」
壁に追い込まれる圧で顔を上げられずにいると、彼はまた、わたしの顎を掴んで見下す。
「なんの権利があって指図してんの?あんた何様?」
「わたしは、一応世話係なので」
そう言うと、冷たく笑いながら彼は言う。
「世話係ね。そんなに世話したいなら部屋で世話してよ。」
「え⋯?ちょっ!」
再び腕を捕まれ、彼の部屋まで引っ張られてしまった⋯。




