3.おもちゃ epi.2:価値②
「どんだけ邪魔すれば気が済むの?」
少し怒ったような、呆れた顔でわたしを見下ろす。
彼が上半身裸の状態にすぐに気づき、目線をそらした。
「す、すみません、すぐ退きます」
見慣れない男性の素肌に戸惑いながら浴室から出ようとすると、肩を捕まれ浴室の中に押し戻される。
「ほんと目障り。また痛い目にあいたいの?」
顎を掴まれ、彼の親指が口の中に入る。
舌を撫で、また顔が近づく。
「っ⋯」
直視が出来ず、思わず目を瞑る。
つい朝のキスを思い出してしまい胸が高鳴った。
「ふっ、キスしてほしそうな顔してんね」
彼はそう言って、わたしの服に手をかける。
エプロンをほどき、服の上から体を触ってきた。
「え、や、やめて⋯!」
拒否したその瞬間、顎を掴んでいた手でわたしの口を強く塞ぎ、勢いで頭が壁に押し付けられた。
「雇われてきたくせに、主人に歯向かうとか生意気。」
痛みを感じるほど、わたしの体に触れていた彼の手がより力強くなった。
体に回していた手が胸へと移る。
「!?」
「屋敷にはあんたの決定権も拒否権もないし、ここで働き続ける限り一生俺には逆えない。」
彼は手を動かしながら続ける。
「逆らったら、お前も逃げ出したくなるくらい追い詰めてやる。」
口を塞いでた手を退け、また唇が重なる
「⋯っ!んん!」
──くちゅ
浴室のもわっとした酸素の薄い空間で、また舌を噛まれるかも知れない⋯と少し涙目になる。
そんなわたしの怯えた顔を見て、彼は少し片方の口角を上げた。
舌を甘噛されたあと唇を離し、体に回していた手を緩めた。
「忘れちゃだめだよ。あんたは俺のおもちゃだから」
そう言ってわたしを浴室の外に追い出した。
シャワーを出す音が聞こえ、またやられたと放心していると
浴室の中からゲホゲホとむせる声が聞こえてきて、我に返った。
最初はざまあみろと思っていたが、柊様はしばらくむせていて
少し心配になったところで天音さんが大量のタオルを抱えて戻ってきた。
髪の毛が乱れたわたしを見て少し焦っていたが、柊様が入ってきてしまって慌てて出ようとしたら滑ってしまったと誤魔化したら笑ってくれた。
22時頃──
一通りの仕事が終わり、夕飯あとのお風呂に入る。
湯船に浸かりながら、今日起きたことを思い出す。
『ここにはあんたの決定権も拒否権もない』
『ここで働き続ける限り一生俺には逆らえない』
まるで、屋敷ではわたしに価値がないと言われているようだった。
まぁ、そうなのかも知れない。
雇われている身だし、お金も、帰る場所もないし⋯
自分の置かれている状況に笑えてくる。
(ベロ⋯痛い⋯)
別にキスが初めてだったという訳ではない。
高校に入学してすぐに彼氏ができて、放課後遊んだり、休日デートだってしていた。
3ヶ月しないうちに別れてしまったけど。
別れた直後はすごく辛かったけど、今の状態になる前に彼氏彼女を経験できて良かったな、とも思う。
膝を抱えながらふぅっと一息吐き出すと、仕事の疲労と眠気が襲ってきた。
(明日も柊様、起こしに行かないとかな⋯)
メイドを始めてまだ1日、早速挫けそうになりながら
自分の部屋に戻り、眠りについた。




