3.おもちゃ epi.1:価値①
学校から帰ると、お屋敷の仕事が待っていた。
玄関周りの掃除、食台の準備、お風呂の準備⋯
すべてたった一人のお坊ちゃまのために。
葉室さんは長期の出張で外出していて、奥様は秘書の仕事を兼ねて付いていっているらしい。
「天音さん、柊様はもう帰ってきているんですか?」
今日の仕事は、天音さんに教わりながらやっていた。
「んと、多分まだかな?迎えの車がまだ戻ってないし、たまに車に乗らずに帰ってきたりするから、私達も知らない間にお屋敷にいたりするの。」
「本当、自由気ままな感じなんですね⋯」
天音さんには学校であったことは話していない。
どこまで話すべきかわからないし、自分の主人があんな最低なことをするなんて、信じてもらえないかも。
「食事の時間になったら降りてくるはずだから、時間になっても来なかったら一度お部屋まで呼びにいかないとね」
また、あのお部屋まで様子を見に行かなければいけないのかと思うと、気が重くなった。
学校で噛まれた舌も未だに痛い。
「そしたら、天音さんも一緒に来てもらえないですか?」
ダメ元で聞いてみる。
本当は顔合わせるのが怖いし、また無理矢理キスされたら、今度は逃げられそうにない。
「あ、いいよ!お料理が冷めないうちに召し上がっていただきたいし!」
(よかった⋯!)
天音さんが優しい人で良かった。
食台の準備が終わると、ちょうど柊様が気だるげに2階から降りてきた。
お部屋まで迎えに行かなくて済んだことに安心しながらも、食事を運ばなければいけない。
「お、お待たせいたしました」
料理を柊様の目の前に置こうとすると、スッと手を上げて塞がれてしまった。
「それ、捨てといて。あんたが持ってきたものは食いたくない。」
「は⋯?え、っと」
おたくのシェフが作ったのもですよ?と言いそうになる。
寧音さんがすかさず、新しいものをお持ちします、と助けてくれた。
寧音さんが替わりに持ってきた食事はモグモグ食べている。
(かっカンジ悪ーっ!)
ここはいいからと寧音さんに言われ、天音さんとお風呂の準備に向かった。
「柊様って、いつもあんな感じなんですか?」
人が3、4人は余裕で入りそうな広いお風呂場を掃除しながら、天音さんに聞いた。
「そんなことはないけど、人見知りなのかな?新しい人とか世話係の人にはそうなのかも。こっちから話しかけてもほとんど普通に会話してくれるよ?」
天音さんはこのお屋敷で働き始めてから数年だというが、
柊様の世話係をしたことはなく、外から見ているだけで特に嫌なことをされたことはないと話した。
特別世話係になりたいとか、希望はないらしい。
「あっ、ストックのタオル持ってくるの忘れちゃった!持ってくるから、掃除進めててね」
そう言って、天音さんはお風呂場から出ていった。
葉室柊⋯
一体、どんな2面性なのか⋯つくづく謎めいた人だな。
浴室の掃除が終わり、お湯を溜めて数十分経っても天音さんが戻ってこない。
様子を見てこようと浴室の外に出ようとすると、ドアの前に人が立っていた。
「あ⋯!」
「⋯またあんたかよ」
食事を終えた柊様がそこにいた。




