2.メイド(奴隷)epi.1:シズネさん
「じゃあ、決まりだね。話が早くて助かるよ。最近お手伝いさんたちが息子に手を焼いてしまって、退職者が続出してたんだ。こちらに契約書があるから署名して、あとはメイド長のシズネにいろいろ聞いて。」
「あ、はい⋯!」
会って数十分しか経っていないけれど、葉室さんはどんな事情を踏まえても経営者気質だということがわかった。
もしかしたらわたしのことも、遠い親戚の力になるというよりも、
お金まわりの良い駒か、手のかかる御子息の都合の良い世話係としか思われてないのかも知れない。
(そんなに扱いづらい息子さんなのかな⋯わたし、大丈夫かな)
退職者が続出しているなんて、素人の自分が役に立つのかと弱気になりながらも
しかし後戻りはできない。
「あの、息子さんっていま…」
──♪
葉室さんのスマホが鳴る
「失礼、これから家を空けないといけないんだ。あとのことは樟葉とシズネに聞いてね」
「わ、わかりました!えっと、いろいろありがとうございます。行ってらっしゃいませ!」
深々とお辞儀をする瑠李を見て、葉室は少し微笑みながら電話に出る。
(結果的に自分の身が売られたというのに、肝が座っている)
そう思いながらバタバタと支度を済ませ、屋敷をあとにした。
──────バタン
屋敷の扉が閉まり、そこには葉室さんをお見送りしたわたしと樟葉さんが立っていた
「では"瑠李殿"、早速メイド長のシズネに紹介しましょう。」
「あ、はい!」
1階の食堂を抜けた談話室に、本棚を整理中のメイドが1人
「樟葉さん、お疲れ様です。」
身長が170cmはあるだろうか
すらっとした身長に、黒い髪をお団子にまとめている
少し切れ長の目、涙ボクロが印象的な人だった
(この人がシズネさん⋯?)
「シズネ、旦那様から聞いていると思いますが、今日から働いてもらうことになった葉山瑠李殿です。いろいろ教えてあげてください。」
「葉山瑠李です!あの、よろしくお願いします!」
「メイド長の寧音です。瑠李さん、今日は立て込んでいるので細かいことは明日説明しますが、ひとまずお部屋へ案内します。」
樟葉さんに替わり、寧音さんのあとに続く
「私達メイドの部屋は基本的に1階の相部屋なのだけど、空き部屋の整理が追いついていなくて、あなただけ屋根裏部屋にと旦那様から指示をいただいているの。」
「や、屋根裏ですか⋯」
屋根裏部屋なんて、おとぎ話の本でしか聞いたことがない。
ネズミとか、埃とか、清潔なイメージが全く無いが、ちゃんと生活できる部屋なのだろうか⋯。
───ギギィ
古い建付けの扉を開けると
イメージ通りの薄暗く、清潔とは言えない環境だった。
ただ、想像よりも埃臭い感じはしない。
「ごめんなさい、埃まわりは掃除しているのだけど、灯りやベッドメイクまでは手が回っていないの。リネン室に案内するから、あとは自分でできるかしら?」
先ほどの空き部屋のことといい、本当に人手不足なのだ。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
リネン室と備品室を教えてもらい、寝具と灯りを持って部屋へ戻る。
寧音さんはあまり表情を変えないが、必要なことは優しく教えてくれる人だった。
しかし1階のリネン室から3階の屋根裏部屋まで備品を抱えて歩いて行くのは
なかなかにしんどい⋯
本来メイドはエレベーターを使用してはいけないらしい。
本家の人間か、来客用なのだ。
特例、歴代葉室家に仕えてきた樟葉さんに限っては、屋敷内を見回ったり点検をするため、使用を許可されているらしい。
そういう簡単なルールも、リネン室に案内してもらいながら寧音さんに教わった。
部屋に戻り、灯りとベッドメイクを済ませ寝転がる。
ふと、木製の窓があることに気がついた。
───ガコッ、ギィ
鈍い音を鳴らしながら窓が開く。
月の光と心地よい夜風が入り込み
丘の上にある高級住宅街ならではの夜景がそこにあった。
「⋯っ」
なぜ、こんなに綺麗な景色を前にして喜べないんだろう⋯
なぜわたしはこんなに孤独で、無力なんだろう⋯
そう思うと今日起きたことを一瞬で思い出し、涙が溢れた。
「お母さん、お父さん⋯!」
不安と悲しみ、いつか家族が迎えに来てくれる期待を抱えながら眠りについた。




