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第十六話 眼帯の下の秘密

仲良くなり始めた二人です。ここから少しずつ恋愛っぽい話が増え始めます。

 円卓会議が新聞に載ってから数週間後、冬の寒さはすっかり消え去り空気がしっとりしつつあった。


 いつものように書類に決裁のサインをしていた私は、書類の束の間に隠れていた招待状に気がついた。



「これ、なんでこんなところに?」



 急ぎの仕事だったらどうしようかと冷や汗をかきながら手紙を開く。今週はもう予定が埋まってしまってる。どうか後回しにしてもよかったものでありますように!

 

 恐る恐る開いた手紙のタイトルは『レズリー孤児院のチャリティーイベント』……要するに資金不足の孤児院が寄付を募るためのイベントをするので、私も来ないかという内容だった。


 イベントは来週セノーテのレズリー孤児院にて行われるようで、返事は不要かつ入退場は自由と書いてあった。



「よかった……来週なら調整できる。無意識にここに挟んじゃったのかな、反省しないと」



 なんとかなりそうな内容に安堵しつつも、同じような事を起こさないように気をつけなければいけないなと気を引き締める。もしこれが期限切れの国からの依頼書だったりしたら、私は方々に迷惑をかけるところだった。


 多分内容だけ確認して別の書類を広げてしまったのだろう、自分のことながら思い出せないけどそれしか考えられない。



「この日はちょうどナタリーが休暇でいないのと、前日からイーディスが遊びにくるんだっけ」



 イーディスというのは友達が少ない私の唯一の友人にして、エドワードの従姉妹のご令嬢だ。エドワードに似てゴージャスな美女で、実を言うとエドワードよりも付き合いが長い。


 イーディスの母親とエドワードの母親は姉妹で、うちの母親と昔からの友人だった。イーディスが私と仲良くなったのを知ったエドワードの母親が、それならエドワードとも気が合うはずだと思って私たち三人は兄妹のように遊ぶようになったのだ。


 このチャリティーイベントにもイーディスを誘ってみようかな、ずっと屋敷にいるのもつまらないだろうし。



「あ、ジンにイーディスが来ること伝えとかないと」



 いつもの調子でジンがふらふらと屋敷の中を彷徨いていたらイーディスも驚くだろう。


 仕事がひと段落したら伝えよう、と後回しにしかけて先ほどの反省を思い出す。



 今言おう。でないとまたイベントのことを忘れそうだし、イーディスが来ることもジンに伝え忘れそうだ。



「ちゃんと書類を整理して、と」



 またごちゃごちゃになって変なところに書類が混ざらないようにして席を立つ。

 ちょうど肩が凝り始めていたところだ、運動がてら少し屋敷の中を歩こう。


 一階に降りてしばらく廊下を歩くと、お目当ての人物は思ったよりも早く見つかった。



「ジン!よかった、すぐに見つかって」

「ん?今は仕事中じゃないのか?」

「そうなんだけど、ちょっと伝え忘れてたことがあって」



 ジンはアグストリア式の訓練を終えたところだったらしく、汗を拭きながら離れの部屋に向かおうとしていたようだ。



「あんまり近づくなよ、汗臭いから」

「そんなこと気にしてるの?色男は匂わないくらいのことは言いそうなのに」

「色男は匂わないかもしれないけど汗は普通に臭うだろ。それで、用って何?」



 動きやすい格好で首元の襟を摘んでパタパタと扇ぐジンは普段よりもラフな雰囲気だ。そこまで気にすることはないのになと思ったものの、わざわざ言うまでもないかと手短に用件を伝える。



「来週から友人のイーディスが遊びに来るの。しばらく滞在する予定だから女の子が増えててもびっくりしないでね」

「友人ってあんた、友達いたのか!」

「失礼な、殆どいないだけでゼロじゃないんだからね。しかもイーディスは親友なんだから」



 本気で驚いた表情をされて、私ってそんなに友達いなさそうなんだと少しショックを受ける。いや、わかってはいたけど改めて突きつけられると感じるものがまた違うというか……



「あー、まぁわかったよ。お友達が来る間はできるだけ外に出ないようにするから」

「とは言ってもイーディスとも出かけたりするし、ずっと屋敷にいるわけじゃないからそこまで気にしないでね」

「今回は留守番ってわけね。了解」



 それじゃあ俺は水でも浴びてこようかな、と立ち去ろうとするジンを慌てて呼び止める。



「待って、少し屈んでくれる?」

「え?なんで」

「眼帯の紐が緩んでる。結び直すからちょっと待って」



 後頭部にある結び目が鍛錬で少し緩んだのか、眼帯が取れかけていた。

 ジンがどういう理由で眼帯をしているのかはわからないけれど、万が一に人目につくところで外れたら困ってしまうだろう。



「待って待って、汗かいてるんだって。そのくらい自分で結び直せるから」

「はい、できた」

「早いな……あんた貴族の姫だろ、何の躊躇いもなくよくできたな」

「あら、嫌だった?」

「嫌じゃないけど驚いた」



 嫌じゃないならよかったと言うと、気まずそうにジンは目を泳がせた。



「イヴは気にならないのか?なんで眼帯をつけているのかって」

「答えにくいことを聞くのね。気にならないと言えば嘘になるけど、根掘り葉掘り突っ込んでまで知りたいとは思わないって感じ」

「なるほどね」

「なに?教えてくれるの?」



 最初は旅の道中で目の病気にでもなったのかと思ってたけど別にそういうわけでもなさそうだし、気になるのは気になる。


 ぱちぱちとわざとらしく瞬きをして見上げると、ジンは片目を細めてこう言った。



「やだね」

「えぇ!なにそれ、期待させといて」

「大した理由じゃないさ。もっと深い仲になったら教えてやるよ」



 最初から言うつもりなんてなかったのだろう。ムッと睨みつける私にジンはヒラヒラと手を振りながら逃げるように去っていった。



「なんで眼帯をつけてるのか、か」



 言われるまでは特に知りたいわけでもなかったけど、はぐらかされると妙に知りたくなる。いやいや、気にするだけ無駄だ。ジンだって大した理由じゃないって言ってたし。


 それよりも早く部屋に戻って仕事を進めよう。イーディスが来たら少しはゆっくり過ごしたいし、チャリティーイベントに行くなら多少は勉強していかないと。



「……ジンってあんな顔だったっけ」



 不意に自分の両手が目について、屈んだときに近づいたむず痒そうな表情と手に触れたサラサラの髪の感触を思い出した。


 思えばあんなにジンに近づいたのは初めてだった気がする。はしたなかった?エドワード相手でもあんな距離で触れ合ったのは子どものときくらいだし、やりすぎたかもしれない。



 その夜、悩みを誤魔化すように仕事に打ち込んだ私が執務室を出たのはジンが食事を終えた後のことだった。

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