愛読書の1ページになれたら。
軽く弾むようにペンを走らせながら、物語を進めていく売れない小説家の僕。
本は出しているけど、いつも本屋の奥隅にこっそり置かれてるだけ。
今日は僕の新しい本が出る日なのでいち早く本屋に向かう。本屋に着き五十音順に並べられた作家名の中から自分の名前を目を凝らして探す。やっとの思いで見つけた自分の本は他の著書に埋もれるように並べられていた。2冊もない。たった1冊のその本。
「今回もダメか」
ため息混じりにそう呟きながら自分の本に手を伸ばす。手に触れたのはクーラで冷やされた冷たい紙の感触ではなく温かく、柔らかい感触。本を取ろうとした女性の手に触れてしまったらしい。僕は咄嗟に謝った。
「あ、すみません。」
「い、いえ」
短い返事だけを返してレジに本を持っていく彼女の姿を目で追いながら、もう一度自分の本に手を伸ばす。
本と本の間にするりと抜けてく指に僕は驚愕した。
さっきまで確かに合ったはずの自分の本がなくなっていたのである。
僕はレジに向かっていった彼女を急いで追いかけた。僕がレジについた時彼女はちょうど支払いをしていた。
レジ台に置かれた本を僕は目を凝らしてみた。
見慣れた題名。見慣れた表紙。見慣れた帯。
自分の本だ。
支払いを済まし店を出ようとする彼女を僕は引き止めた。
「あ、あの!!」
クーラーの効いた涼しい店内から蒸し焼きにされてるような暑さの外に出た途端大声を出したもんだから僕はふらついた。
「あ、さっき……」
までは記憶にある。そこからは全く覚えてない。
次に気づいた時にはそこは病院の寝台の上だった。
点滴台と小さなテレビが置かれてるだけの部屋を簡素なカーテンが閉め切る。窓なんてひとつもないような部屋で僕は目覚めた。キョロキョロと周りを見渡すと寝台の横の椅子に人が座っていた。
彼女だ。さっきまではかけていなかった赤縁の眼鏡をかけて静かに本を読んでいる。よく見たら年齢は僕と同じくらいだろう。彼女のことを眺めていると彼女がこちらに気がついた。
「あ、起きました?」
下を向き髪を垂らしながら眼鏡を外すその仕草に僕はドキッとした。
「はい。ご迷惑おかけしました。」
「迷惑だなんてそんな!こっちが感謝したいくらいですよ。」
訳がわからなかった。倒れたであろう僕を助けてくれたのは彼女なはずなのに。
「どうゆうことですか?」
「クーラーの効いた涼しいところで本が読めたんですもん。うちの家クーラーなくって」
とか言いながら軽く微笑む彼女を僕は不思議に思った。身なりにも気をつけてるだろうし、持っている鞄もブランド物だ。長い髪もクーラーの風でなびくほどサラサラだ。そんな彼女の家にクーラーがないだなんてことあるだろうか。
「というより……」
「というより……?」
「今私、家ないんですよ。」
思わず「え?」と声が漏れた。彼女が続けて話し出す。
「私好きな本があって。」
おもむろに彼女は鞄に手を伸ばし1冊の本を取った。これもまた見慣れた表紙。見慣れた題名。見慣れた帯。
「この神田そらって人が書いた本なんですけど、家と生きる希望を失った少女が小説家に拾われて恋に落ちるって物語なんですけどすごく感動するんですよ。だから真似したくって。」
知ってる。なんで家と生きる希望を失うのかなんで恋に落ちるのかまで詳細に説明できる。
だって自分が書いた本だから。
「みんなにこの本知ってる?って聞いてもみんな知らないっていうんですよ!?」
「売れてないからね。」
「知ってるんですか?この本」
「僕、神田です。神田そらです。」
本名をペンネームにしている作家はあんま見かけない。しかし僕は本名にしてる。漢字をひらがなには直しているけど。
「え…え…!!神田そらさんですか!!??」
「はい。」
こんなに自分の本を褒めてもらうのは初めてだから、なんだかだんだん照れ臭くなって下を向いてしまった。
多分彼女はすごい笑顔だと思う。彼女は今日出た本ももう2周目に入ってたらしく、感想をずっと話してくれた。僕はそこに著者なりの見解を交えて自分の本について語った。
すると彼女は改まって僕の方を向いてきた。
「神田先生。私を拾ってください!」
すっとんきょうな顔になってたと思う。さっき彼女が説明してた本のヒロインは高校生って設定だ。けど、彼女はどう見ても成人済み。僕と同年代であれば大学の4年生だろう。僕が答えあぐねていると彼女は追って声を上げてきた。
「家のことでも、先生のことでもなんでもします!!」
その言葉に僕は胸を打たれた。物語のメインヒロインが小説家に頼む時と全く同じセリフ。だから僕は彼女を試した。本当に好きなのか。
「なんでもしてくれるのか?」
高圧的な態度でヒロインに尋ねる小説家のセリフと全く同じ。それを聞いて彼女はとても笑顔になった。
「はい!毎日先生に尽くします!」
僕は吹き出してしまった。ここまで忠実に再現されちゃおかしくって笑ってしまった。彼女もそれに釣られて声を出して笑う。そして真剣な目で、
「いいですか?」
断るに断れない。というより彼女といたら楽しそうだし別にいいと思った。
「はい。いいですよ。」
この一言がこの後の嵐を起こすだなんて全く考えもしなかった。
彼女は八木穂乃果というらしい。初日は夜に家に来たもんだから僕が夕飯をふるまってあげた。
次の日、僕は朝から執筆活動に励んでいた。彼女はまだ寝てる。
朝の11時、いや昼の11時になってやっと彼女が起きた。まともな布団で寝たのは久しぶりらしく寝てしまっていたらしい。めちゃくちゃ謝ってきたもんだから許してしまった。
「お昼ご飯何食べたいですか?」
「きつねうどんが食べたいな」
"きつねうどん"僕の好物だからよく物語中にでてくる食べ物だ。レシピとまでは言わないが作中の小説家流のきつねうどんの作り方は軽く書いてあるから多分それを真似するんだろう。
「はい、どうぞ!」
読み通り目の前に出されたきつねうどんは作中のきつねうどんと全く同じだった。濃いめの出汁に多めの刻みネギ。
流石のファンだとこれには感心した。
その日穂乃果はずーっと掃除をしていた。夕飯前に執筆するための部屋から出た時にはそこはもう僕の家ではなかった。床が見えなくなるくらい散らかっていた服も畳まれ、机上のゴミも無くなって、溜めていたゴミ袋も出されていた。
「あ、ありがとう」
「はい!」
「八木さんさ、敬語やめない?一緒に住むなら不便だからさ。」
そんなこと失礼すぎてと言わんばかりに首を振る穂乃果に追って声をかける。
「というかやめてほしい。」
「わかり、わかった。」
納得してくれた?みたいだ。
そこからはいろいろとお互いの話をしながら穂乃果の用意した夕飯を食べた。
やはり穂乃果と僕は同い年で、一人暮らしをしていたこと。成人と共に石川県から引っ越してきたこと。持っているブランド物の鞄は親からのお下がりであること。そして
「私親と仲悪いんだよね。」
「そうなの?」
「一人暮らしを始めたのも半ば強引に始めたんだ。結局家も捨てて今ここにいるんだけど」
「そうなんだ。」
「あと…ね…」
言い出しにくそうに話し始める。
「私借金があるの。」
その言葉な僕は驚きもしなかった。家がないくらいだから借金くらいあるだろうと思ってた。
けど僕の稼ぎじゃ2人で暮らすのでカツカツくらいだ。手助けはできない。
「ごめんだけど生活費は出せてもそっちの助けは出せないな。」
「生活費を出してもらえるだけでありがたいのに、助けなんか求めてないよ。」
「なんか仕事はしてるの?」
「夜勤のコンビニバイトをやってる。っても月に15万くらいしか稼げないけど。」
「というか、借金いくらあるの?」
「300万円。」
給料日間際の僕の銀行口座には残り3000円しか入ってない。その1000倍の借金を穂乃果が抱えてたこと今回は驚きが隠せなかった。
2人だけの部屋は図書館のように静まり返る。夕飯を食べ終えた皿だけを残して。
沈黙を破ったのはインターホンだった。
「宅配便でーす」
多分頼んでいた原稿用紙が届いたんだろう。ちょうどなくなりかけていたから。
「私がとってくるね。」
そういいなが座布団から立ち上がった穂乃果は玄関に向かった。
玄関のドアが開く音とともに僕の家から穂乃果の気配がなくなった。
また、誰かがいなくなる。
僕は焦って玄関へ向かう。するとニコニコと愛想よく宅配の相手をする穂乃果の姿があった。
僕は落ち着いて、その場に座り込んで「よかった」と口に漏らした。
どうしたの?と言わんばかりの表情で穂乃果はこちらを見ている。僕は腰を上げ穂乃果の手に収まるダンボールを受け取り書斎に持ってゆく。そして食卓へ向かった時穂乃果は真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「神田さんさっきの何?」
やっぱりだ。聞かれると思った。
「八木さんがいなくなるかと思った。」
「あんなに焦るほど?」
「もう、誰かが僕から消えるのが嫌なんだ。」
穂乃果の優しい雰囲気に僕は初めて他人に自分の過去を話した。
それは僕が12歳の時の話。その時から僕は友達と外で遊ぶほど元気な少年じゃなかった。だから一日中自分の部屋に閉じこもって本を読んでることなんてざらにあった。
僕にお父さんはいない。小さいときに病死したってお母さんに聞いた。僕が1歳とか2歳とかの時。
お母さんはシングルマザーとして僕のことを見ていてくれた。休日はたまにショッピングに行ったり、ゲーム機だって買ってくれた。そんな優しいお母さんが僕は大好きだった。
「お母さんこのゲーム買って!」
「ゲームはこの前も買ったでしょ。本ならいくらでも買ってあげるから我慢して。」
ひとり親で経済的に厳しいことは正直理解していた。けど反抗期の僕にそれを配慮する余裕なんかなかった。
「ふざけんなよ。ケチババア。」
心ではこんなことを言いたくないはずなのに口が勝手に動いてしまった。お母さんは悲しそうな顔をしている。
大好きなお母さんを悲しませてしまった。
それから次の日、また次の日とお母さんと会話を交わさない日々が続いた。
そんなある日の午後、自宅に電話がかかった。
「神田さんの自宅でしょうか?」
知らない男の人の声がした。なんかのセールスだと思っていつも通り今親はいませんって言って逃げようとした。
「そうですけど?」
「○○救急の明石です。」
震える声のする知らない男の人は救急隊の人だったらしい。そんな人がうちに何の用があるのか。
「神田希さんが通り魔に合い、現在意識不明の重体です。」
「え?」
僕は耳を疑った。かんだのぞみ。確かに僕のお母さんの名前を明石さんは言った。
僕は事件現場に急いで駆けつけた。そこにあったのは、赤いワンピースを着たお母さんの姿だった。
白いワンピースで出て行ったはずのお母さんがそこで倒れていた。
すぐにでも近寄りたかった。しかし止められた。
その次の日、病院でお母さんは死んだ。
お母さんにかけた最後の言葉に後悔し、お母さんと楽しい時間をもっと過ごしたかったと欲望を吐き、お母さんに会いたいと叶わぬ願いを唱え、僕は泣きじゃくった。
目の前で母親が亡くなっていくのを見た僕はそれ以降誰かが目の前からいなくなってしまうのがトラウマになった。
「ってことがあったんだ。だからお母さんにもらった名前を大切にしようと思ってペンネも本名にしてる。」
穂乃果は重い表情の中に少々の明るみを見せた。それが何故だか僕にはすぐわかった。
「その話、神田さんの作品に入ってましたよね。」
きつねうどんのこともそうだが僕は自分のことを作品に入れてしまうところがあるらしい。
この件についてはトラウマを克服しようとして第一作目に入れたんだけど。
「うん。そうだよ。」
「八木さんは本当に僕のファンなんだね。」
「当たり前だよ!」
当たり前。僕にかかることがこれまでなかったその言葉に感動して泣いてしまった。
「え…!?神田さん!?」
「ごめん…八木さんがファンでいてくれていることが本当に嬉しくって。」
綺麗になった僕の部屋に、焼き鳥のタレの匂いとアルコールの匂いが染み付く。穂乃果の姿もまた僕の心に染み込んでくる。
穂乃果との共同生活が始まってはや半年が経った。互いの名前も呼び捨てにできるくらいの関係性は築けていた。そして半年の間に僕はまた一冊本を出した。これもまた手に取る人は穂乃果だけだったけれど。
その本を読んで穂乃果は僕に変なことを言ってきた。
「そら、私のこと本に書いてよ。」
この言葉をその時真剣に捉えて行動していたら。
「なんでだよ。一回出した本と同じような内容になるだろ」
穂乃果は納得しつつもちょっと残念そうな顔で買い物に出て行った。
来週穂乃果の誕生日がある。その時に僕は告白をしようと思ってた。
この半年で僕は穂乃果のことを好きになっていたから。
僕の質素な部屋を不器用ながらに可愛く、煌びやかにさせよう。
そう意気込んで、執筆も忘れて準備に集中している間に夜の8時になっていた。
穂乃果は決まって8時に夕飯を出す。だから今日も8時に食卓に向かった。
そこに、穂乃果の姿はなかった。いつもなら7時には帰って来て食事の準備をしているはずなのに穂乃果は買い物に行ったきり家に帰ってきていないようだ。
こんなことはこれまでに一度もなかった。だから僕は本気で心配した。
穂乃果の携帯に電話を何度もかける。焦って1コールで切ってしまったりもした。
そこに逆に電話がかかってきた。穂乃果だと思って急いで手に取って穂乃果と名前を呼んだ。
しかし現実は違った。
「○○救急の明石です。」
まだ鮮明に覚えているその声にその言い方。僕は冷や汗が止まらなかった。
「八木穂乃果さんの携帯に登録された番号にかけてみました。神田さんで間違い無いですか?」
やぎほのか。あの時と同じ感情に陥った。穂乃果がいなくなる。
「神田です!穂乃果は!?」
電話越しに聞こえる明石さんの唇を噛み締める音。野次馬の声。
ある程度察しはついていた。
「意識はあります。しかし通り魔に腹部をナイフで刺されたようで出血がひどく手当が必要です。」
「場所は!?」
明石さんが丁寧に説明してくれている最中に受話器を投げ捨て家を出た。
途中で切ったもんだから詳しい場所がわからない。けど明石さんは河川敷だって言っていた。
僕は川沿いを走った。息が荒くなるのも苦しくなるのも忘れて。赤いランプとサイレンの音。それが見え、聞こえた瞬間僕は人生で最も足が早かったろう。
「穂乃果!!!!!」
溢れかえる人をかき分けて穂乃果の方に寄って行った。
「そら……私大丈夫だよ。ほら、今日の夜ご飯、きつねうどんだよ。」
穂乃果を抱き抱えると即座にして手のひらは赤く染まった。
「喋んなくていいっ!!穂乃果は助かるから…。絶対……!」
「だから…大丈夫だって……」
近くにいた救急隊員が穂乃果に近寄り救急車に運ぶ。
「穂乃果は!穂乃果は助かりますよね!?!?!」
荒れ狂った声で僕はそこにいた救急隊員に聞いた。
「最善を…尽くします…。」
…私を拾ってください
…今日の夜ご飯はそらの好きなきつねうどんだよ
…私のこと本に書いてよ
…そら、元気でね
穂乃果の10時間にわたる手術終了後医師に告げられた言葉に僕は唖然とした。
「申し訳ございません。最善は尽くしましたが、八木さんは…」
また僕から大切な人が消えていく。
「神田さん」
悲しみに浸る中声をかけてきたのは救急隊員の明石だった。
「はい…?」
「そらと呼んだ方がいいか。」
急に馴れ馴れしい態度に一時涙がひいた。
「息子の大切な人を失う現場に二度も立ち会うとはな。」
「息子……?父さんは僕が子供の頃に病死したはずじゃ……」
「それは希……母さんの嘘だ。俺は救急隊員という仕事のせいでお前らのことを見れなくて家を追い出されたんだ。そらの母さんが腕の中で死んでいくのを感じた日から、もう誰も死なせないと心に決めたんだが…。」
父はまだ話し終えていなかったけれど僕は食い気味に
「なら…!なんで…!穂乃果を助けなかったんだよ!!まだ…意識があったろ!!」
穂乃果がいなくなってしまったことで僕は完全におかしくなっていた。明石さんは何も悪くない。
またあの時と一緒だ。お母さんに反抗した時と。
「八木さんか……本当に申し訳ない。俺も最善は尽くした。」
「最善は尽くしたって!!穂乃果はもういないんだ!!」
「希ももういない!!息子の大切な人ももういない!!2人とも俺の目の前で死んだ。そんな俺が自分を責めていないとでも思ったのか!?」
声が出なかった。救急隊員の覚悟を見せつけられた感じがしたから。
「八木さんは最後そらに渡せってこれを俺に渡してきたんだ。それを渡そうとここにきた。」
「穂乃果が?」
通り間に合った後なのかメモ帳を適当に破られただけの小さな紙に震えた文字でこう書かれていた。
「私誰かの愛読書の1ページになれるかな。」
涙が止まらなかった。穂乃果には生きてその本を読んで欲しかった。一度穂乃果に言われた時に、次の物語には穂乃果のことを書こうだなんてぼんやりと思っているだけだったから。穂乃果がいなくなるなんて考えていなかったから。もっと穂乃果といられると思っていたから。もっと穂乃果と本の話ができると思っていたから。
これからも穂乃果と一緒にいるつもりだったから。
穂乃果のいない家に帰った時穂乃果との思い出が数々蘇ってきた。
初めて穂乃果がこの家に入った日。
この家が綺麗になった日。
人が作った夕飯を食べた日。
テレビのチャンネル争いをした日。
しょうもないことで喧嘩した日。
看病してもらった日。
2人で隣り合って寝た日。
1人だった日常はいつのまにか2人の日常になっていた。
穂乃果の葬式が終わった頃、通り魔が捕まったニュースをみた。これから第一審を行うようだ。
裁判には僕も出向いた。反省する様子のない通り魔に殴りかかりたくなる気持ちをグッと堪えながら裁判を見届けた。
そして帰宅後、僕は筆をもった。穂乃果が生きた証を残そうと思った。
穂乃果の生き様、穂乃果の性格、穂乃果の手料理の美味さ。
穂乃果のことを何でもかんでも詰め込んだみたいな物語が完成した。
「穂乃果の夢叶うといいな。」
"誰かの愛読書の1ページになる"その夢を叶えるべく書いたその本は通り魔の被害者がモデルになったこともあり一躍大ヒットした。
本屋に行けば一番見つけやすいところに高々と積まれた本の山。
それが全て僕の本だなんて。
ネットでも【泣ける】【愛読書に決まりました】
なんて嬉しい口コミばかりだ。
これも全部穂乃果のおかげだと今日も穂乃果の仏壇に手を合わせる。
遺影の君は元気に笑っている。そんな君に向けて僕は心の中で言った。
「穂乃果。穂乃果が主人公だよ。1ページどころか一冊全部の。」
穂乃果に届くはずないけれど僕は穂乃果の夢を叶えれたことが何より嬉しかった。
…そら、ありがとう。
突然穂乃果の声が聞こえた気がした。周りを見渡しても当然その姿はなかった。
完
これから掲載する作品では登場人物が繋がっているのでよく見てください