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『episode complete』


 目の前に映る画面に、黄金色で書かれた文字が浮かび上がり、背もたれに一気に寄りかかる。そして歓喜とともに、不意に大きな声がでる。


「はあ、やっと終わったッ!!三冠したぞぉお!」


 達成感、満足感……それを超越した気持ちよさで気持ちが高揚する。


『でんでんでーんでんんでん♪』


 エンドロールが流れ、またクリアした実感が現実帯びてくる。


「ながかった……」


 ため息をひとつこぼして、飲みかけていた麦茶を一気に飲み干す。乾いていた喉が潤っていく感覚を覚えていると、眠気がどっと押し寄せてきた。


 思えば、四連休ということでぶっ通しでやっていたから、寝ていないかった。

 ふと、時計を見ると短針が3の数字をさしていた。窓から差し込む、陽光をみるに午後3時なのは確かだった。


「三徹……?まじか」


 睡魔こそ来ているが、この気持ちの昂りのせいで目はさえていた。エンドロールが終わって、カラフルで彩られたゲーム名が浮かび上がる。


『万国ソーシャルオンライン』。

 通称『BSO』と呼ばれるこのゲームは、簡単に言えば、領地育成ゲームのような都市開発をしていくゲーム。


 仲間を集めて、領地を拡大して、そこに様々な役所や役職を与えていき街を発展させる。それに加えて、敵地からの防衛。逆に敵地を侵略・吸収するやり込み要素が多いゲーム。


 攻撃の戦略、防衛の配置、人材の役職、どれをとっても奥が深い……。

 時間を浪費する楽しさを含めて過去一といっても過言ではない。


 BSOのクリア条件は、1つの農村を王国一巨大な都市に仕上げること。最初の段階で選べる農村は3つあり、俺は全ての農村を王国一に発展させ、3冠を達成した。


「ふう


 ……さすがに疲れたな」


 丸まった体を起こして、画面に戻ると、新たな画面が表示されていた。


『このプレイ記録を記憶しますか?』


 プレイ記録か。


 生憎だが、俺はそんなものには興味がない。

 別に誰と競っている訳でもないし……ただ楽しめれば俺はそれでいい。


 それ以上は望まない。


 もちろんNOだ。


『おめでとうございます。ランキング一位です。』


「は?」


 思わず声が漏れる。


 いや、いやいや。

 俺たしかにNOにしたよな。


 ランキングって記録したやつだけじゃないのか……いや、記憶したやつだけって書いてあったな。


 なんでランキングに入れられてんだよ。それに一位って……。


 思えばリリースされてまだ一週間。しかし、俺より早いプレイヤーはぞろぞろいるものかと思っていた。


「……まじか」


 優越感というか、なんというか、なんとも言えない嬉しさが不本意に込み上げてくる。


 別に一位が欲しかった訳では無い、ただ楽しめれば良かった。


「でも一位か……悪くないな」


 それにしてももう終わってしまったのか。


 そうか。


 ランキング順位にただ1人刻まれた俺の名前を見て、俺は少し呆然とした。達成感こそあるが、それは一時のもの。


 少しづつ虚無感が芽ばえる。


「……もう二度とあの楽しさを味わえないのか」


 プレイして、クリアすればもう終わり。そんなのは、みんな分かっている。しかし、最初の高揚感に変えれるものは何も無い。


 でももう、最初にプレイするような楽しさは味わえない。その虚無感が胸を支配する。


 もっとプレイしたい。


 そんなモヤっとした欲が脳に広がる。その欲に便乗するように睡魔が襲ってくる。


 ああ、もっと開拓したい。


 まだし足りないことがある。


 もっと……もっと。


 少しづつ瞼が閉じる。


 ああ、最強の都市を……。


 そんな欲を抱いたまま、俺の意識は遠いのていった。

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