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短編集【不思議】

屋根裏部屋の預言者

作者: ポン酢

「あ、まだこの瓶あったんだな……。」


子供の頃、私には文通相手がいた。

とても不思議な文通相手がいた。


屋根裏部屋への階段を下ろすと、ずっと開けていなかったせいか埃が光の筋の中キラキラと舞う。畳まれた階段を下ろし、ギッシギッシと音を軋ませ上へと上がった。


明かりとりと言うより換気の為の小さな窓を開けようと近づくと、その窓枠に四角形で口の部分が広い青みがかった瓶が1本、物言いたげに佇んでいた。

それを手に取り、くすりと笑う。


子供の頃、文通相手がいた。

ボトルメールをやり取りする不思議な文通相手。


手に取った瓶には今日は何も入っていない。


そう、私の文通はこの瓶で行っていたのだ。

屋根裏部屋に転がっていた綺麗な薄水色の四角い瓶に惹かれ、私はそこに拙い字で手紙を書いて突っ込んだのだ。


『のぎひろとです いちねんせいです おてがみください』


読んだ本か何かにボトルメールが出てきて憧れていたのだと思う。

そして不思議な事に、数日たつと瓶の中に返事の手紙が現れたのだ。


それから文通が始まった。


瓶に手紙を入れておくと、数日たつと返事が入っている。

いろんな話をした。

学校に馴染めない事を話せば、『〇〇を集めておけ』だとか、『△△にある大きな木にクワガタがいる』だとか、まわりの子と話すきっかけになる事を教えてくれた。

運動会や遠足の天気を心配していれば教えてくれた。

そんな感じだったので、俺は次第にその文通相手は魔法の世界にいる預言者なのだと思った。


「懐かしいなぁ……。」


今思えば、多分あれは家の大人の誰かがやっていたのだと思う。

不思議と私の事は何でも知っていたし、わかっていた。


そんな懐かしさを覚えながら、コトリとその瓶を窓辺に戻す。

そして捜し物を始めようと背を向けた時、コト……と、微かな音がした。


「…………え??」


何気なく振り向くと、つい今し方まで空だった瓶に紙が入っている。

驚いて蓋を開けそれを取り出す。



『のぎひろとです いちねんせいです おてがみください』



我が目を疑った。

それは紛れもなくかつて私が書いたものだった。


しばらく考え込み、そしてやっとわかった。


幼い私をよく知っていて、友だちと話すきっかけや運動会等の天気を知っている人。


「……預言者の正体見たり。」


私は笑って、返事を書く為に階段を降りて行った。

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