第2章 2‐1
この光景を見るのは何度目か。
もうそこに魂はなく、ただの肉の塊になった物体を見下ろす。
その顔に恐怖や絶望の色は見えない。
ただ何故自分が死ななければならないのか。
さっぱり分からないという表情を浮かべている。
死ぬ間際まで疑問を浮かべるなんて、生物としてどこか狂っている。
血の匂いが鼻につく。
錆びた鉄に、獣みたいな匂いが混じったもの。
その匂いが、私を奮い立たせる。
これ以上ないほどに。
今ならなんだって、乗り越えてみせる、という気持ちにさせてくれる。
その匂いの出どころは、内臓。
ぐちゃぐちゃになってしまった、人間の中身。
人間の中に入っているもの。
皆の中に、入っているもの。
白い脂肪がトロトロ出てきて、
外気との反応で湯気を出す。
どこまでもリアルな、白い煙。
髪に血が付かないように注意しながら、
皮の手袋を付けた手で、そこに侵入する。
人間の体内に、手を突っ込む。
ハンバーグをこねているような音。
その音に満足して、手を引き抜く。
黒かったはずの手袋が、綺麗に赤く染まっている。
その素敵なインクで私は文字を書く。
大きく、そして伸びやかに文字を書く。
死体を裏返し、服を脱がして、
白い素肌に、赤い文字で、
精いっぱいの祈りを込めて、
私は23と、文字を書く。