表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/8

1-5

  『今日の議題―隣市連続殺人事件おける犯人について―』

 「さぁ、語って!」

 狭いくせににミステリ本をこれでもかと詰めん込んだ部屋で、部長はチェ・ゲバラのように高らかに声を上げる。ゲバラとの相違点といえば、それを聴いている民衆が私1人ということだ。

 「部長、私しかいないので語れません。私と部長の会話を語りと定義するのならば、語れますけど。」

 そう言うと部長は深いため息をつき、席に座った。革命というものはいつの時代も簡単には成功しない。

 「なーんで静香しかいないのよ…美菜は?皐月は?東二はどうしたの?」

 「美菜はバイトです。皐月は研究です。東二は阪神戦を見に行くと言って帰りました。」

 大体いつも出席率は部長+1人か2人、この程度なのである。部長が毎日欠かさず来てはいるが、他のやつらにはやる気がないので大抵こうなる。

 「だめだなぁ…あいつら。なってないよ。やっとこの大学にミステリっぽい話題が来てるんだよ?そ れをミス研が語らないでどうするのさぁ…。そうだ、『綾辻』、使えるんじゃない?新刊出たばっかりだし!誰か引っ張ってこようかな!」

 「それこそダメです部長、枠の使用はメンバ全員の承認が必要です。勝手に行使しないでください。」

 もう私のようにミステリを立ち読みしていただけで、この部室に監禁されるような人は出したくない。私は『横溝』枠で連れてこられた。他には『江戸川』、『鮎川』、『泡坂』枠などがある。『島田』と『綾辻』は現在使用許可申請中である。


 「ちぇ…まぁいいや。静香、あんたはどう思う?この大学に犯人がいるかも、ってやつ。

 話を切り替えてきた。この柔軟さが心地いいと私は思う。

 「論外ですね、23という数字だけでこの大学に犯人がいる、と決めつけるのはあまりに強引です。せ めて何か確実な物的証拠、あるいは目撃証言がないことには、確定は不可能です。」

 とりあえず正面から否定をしてみる。部長からのリアクションをストレートなものにしたい。

 「うん、私もそう思う。でも、今現在、この大学での話題はこれにもちきり。普通に考えれば、誰もが静香の意見に辿りつく。そうすれば噂なんて自然に収まるはず。なのに、そうはならない。これは、大学内部にこの話題を盛り上げたい、継続させたい、という意思を持つ人物がいることが考えられる。どうかな?」

 さすが部長だ。人望は無いが、頭の回転は速い。大学内部に殺人事件に関わる人物がいる、ということを示唆しているのだ。まぁ、それ私だけど。

 「でも噂を持続させる、ということが個人の意志で可能ですか?警察はあの事件を個人によるもの、と断定していましたよね?」

 「噂というものは、不確かな状況で、嘘か本当か確かめようのない情報を流し、それを受けた大衆がパニックになる、というものよ。ネットの匿名掲示板なら、これが容易に可能になるわ。勿論ただの一般人が書き込みをしても、全然無駄。けどある程度身分のある人物がこれを行えば、話は別物になる。匿名という場における身分の開示は、途方もないインパクト。その人物が23について言及したりうちの大学のロゴ付きバックなんかを目撃したよ、なんて言えば、さらにはその情報を小出しにしていけば、噂を持続させることは十分可能になると思うわ。」

 部長が一気に捲し立てる。はぁ、なるほど。なんて相槌を打つ私に向い、部長は続ける。

 「ネットを利用する、ここまではいいわ。実際うちの大学の掲示板でもこのトピックスは盛り上がっている。けど調べてみると、23に関する話題を事件直後から話している人物がいたの。そしてその書き込みの直前、マイナな掲示板で、警察なんだけど、という前置きから自分の身分証明書を写真でアップしつつ、連続殺人に関する情報を提供している人物がいた。すぐに削除されていたけど、これを見た誰かが、うちの大学で最初に23について言及した人物だと思うの。実はこの人物ではないかもしれないけど、現在も実はちょこちょこ新しい情報がうちの掲示板に書き込まれているわ。ほんの少しの情報量だけどね。つまりはこの両名は現在も何らかの繋がりを持っている可能性がある。元情報をAがBに送る、そしてBが書き込む、といったようにね。このAとBの関係は残念ながら分からないけど。」

 「部長凄いですね…そんなにこの事件に興味、あったんですか?

 驚いた振りをして、私は言う。

 「えへへーちょっと頑張っちゃったり。苦労したよ?過去ログ漁ったりさぁ、3日徹夜しちゃった。」 部長は照れつつ冷めたコーヒーを啜って、煙草に火を付けた。私は部長の推理に関心してしまう。


 でも部長、間違っています。

 マイナな掲示板で警察関連の身分証明書を偽造し、アップしてそれに現場の具体的な様相を添えたのは私。色々ギリギリで苦労しました。

 うちの大学の掲示板に、最初にこのトピックスについて書いたのも私。その後のコピペが大変でした。

 今も情報をちょこちょこ書き続けているのも私。小出しにするのがめんどくさいです。いっそ全部書き殴ってしまいたい。



 「でも一番気になるのはさぁ…」

 少し落ち着いた部長が、ふと思い出したように煙を吐き出しながら言う。

 「ここのサークルの部室番号も、23なんだよねぇ。」


 ―――――――――部長、やはりあなたは、最高です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ