結婚したよ その2
「それじゃあ行ってきます。」
「あ、行ってらっしゃい。」
なんだか不思議なかんじだ。
誰かに見送ってもらうなんて。
今日から仕事があるので、外に出かけないといけない。
アザミさんは特に働いていないので、今日は一日家にいるらしい。
じゃあ留守番ってわけだね。
オレがいない間、アザミさんに家を守ってもらう。
なんてね。好きにしてくれれば良いんだけどね。
「あ、留守番とは言っても、用事があれば外に出ても良いし。」
「大丈夫です。私家の中が好きなんで。」
ふーん。あんまり外が好きじゃないのかな。
まあ個人的にはありがたいかな。
逆に外ばっかり行ってしまう人だと、
一体外でなにをやっているの?ってなってしまうからね。
新が家を出ると、一人になってしまったアザミ。
すでに自分の家でもあるわけだが、まだ他人の家にいるという感覚。
そこで一人で過ごせと言われても、なかなか戸惑う。
「さて、今日はどうしようかな。」
実家にいた頃は、特に考えもしなかった。
家のことは両親がやってくれていたから。
自分は好きなことをしていればそれで良かった。
今は自分しかいない。
結婚したからと言って、特に何が変わったというわけでもないが、申し訳程度にも家事というものをやってみようと思った。
「掃除でもしてみようかな。」
特にやることもないし。
そんなことを自分に言いきかせるようにして、掃除をする。
なんだか奥さんになった、というかんじがしてきた。
なんだかおかしい。自分が奥さんだって。
一人でなんか笑ってしまう。
掃除をし、洗濯もし、スーパーで買い物をして、晩御飯を作って旦那の帰りを待つ。
うーん。主婦っぽい。
なんて一人で考えて、なんだか笑えてくる。
そうこうしているうちに、新が帰ってきた。
「おかえりなさい。」
「た、ただいま」
なんだか不思議な感覚。
ただいま、だってさ。
「ただいまを言う相手がいるってすごくね?」
「んー?」
アザミはいまいちピンと来ていなかった。
「え?晩ごはん作ってくれたの!」
「ヒマだったので、つい。」
「ありがとう。うれしいよ。」
「お口に合うかわかりませんが。」
なんて謙遜しながら、ちょっと恥ずかしそうにしながら料理を運んでくれるアザミさん。
「うーん。手料理なんて何年ぶりだろう。いただきます!」
もぐもぐ。
ん?
「おいしいよこれ!」
「それはよかった。」
ごはんを食べながら楽しくおしゃべりしたりして。
いつもは一人での食事だったし、なにより手料理というのがまたうれしい。
結婚ってすばらしいな、なんて思ったりして。
それにしても、こんなに良い娘が、なぜ今まで結婚しなかったのだろうか。
別に強制結婚みたいな法律がなくても、結婚相手が見つかったはずではないだろうか。
なんて自分もそうか。
積極的に相手を探さないと結婚なんてできないよね。
そこはお互い様なところがあるかもしれないな。
「昼間とか、たまには友達と遊びに行っても良いんだよ?」
「私トモダチなんて一人もいないですし。」
「えっ」
「実は私、ヒキコモリなんです。」
えー?
ちょっとびっくり。
でもおかげで、アザミさんのご両親が歓迎ムードだったのも、
なんだか納得という気がする。
まあ、でもヒキコモリだからなんだって話。
「そうなんだ。でもまあオレはうれしいかも。」
「え?」
「いつも傍にいてくれるってことでしょ?」
なんか言っててちょっと照れてきたな。
もしかしてオレ恥ずかしいこと言ってる?
なんか恥ずかしくなってきたよ。
この日、アザミさんの中のわだかまりが少し溶けたような気がした。
結婚から数日経って、だいぶ二人の生活に慣れてきた。
色々知っていくと、どうやら相性の良い相手らしい。
オレもインドア派だし、気があうというかなんというか。
「ただいま。」
「あっおかえりなさい。」
「いい匂いだね。あーおなか空いた。」
アザミさんは家庭的なところがあって、非常に助かる。
オレが仕事から帰ってくるまでに、料理を作って待っていてくれる。
「それじゃあいただきまーす。」
もぐもぐ。
うん。おいしい。
なにより温かいご飯。手料理というのがうれしいね。
オレ達は結婚したけど、まだ夫婦らしいとは言えない。
だからこれからもっと知り合っていかないといけないんだね。
最近はずいぶんと打ち解けてきたという気がする。
一緒に生活するようになって、同じ時間を過ごす。
一緒に食事したり、一緒にテレビ見たり。
一緒にいるうちに、だんだんと夫婦になっていければ良いな。
この女性となら一緒にやっていけそう。
そう思える。
「今度の休みに、ご両親に挨拶に行こうかと思うんだけど。」
「うん。良いね。あと新くんのご両親にも挨拶に行かないとね。」
「ん?」
言われて気づいた。
「オレ、親に結婚したこと、まだ言ってないや。」
「えー。」
一方その頃国会では。
少子化問題の解決には時間がかかる。
結婚したからと言って、急に出生率が上がるというわけではない。
「強制結婚の次は離婚禁止なんてどうでしょうか。」
「それより子作りを義務化してはどうか。」
今日も国会は楽しそうだ。
おしまい