3章26話:林間学校の終わり
3日目の全体研修はあいも変わらずクソみたいな研修で、終わった頃には僕の脳内で一つのアルバムにおける全収録曲が流れ終わっていた。やはり名盤だ……。
ちなみに僕はロックが大好きである。洋楽邦楽問わずに好きだが、残念ながら生で聞けたことはない。北湊にはライブハウスがないからな……。この辺の趣味は実はあんまり海知とかにも話してない。なんか知らん間にアーティストと繋がってそうで怖かったからだ。流石にキレると思う。
「がぁぁぁ! 指切ったぁぁぁあ!」
「な、何をしている馬鹿もの! これはこうやって……いったぁあああ!」
「な、舐めてあげよっか、な、ナンチテ」
「けけっ、薪全然割れねーべな!」
さて、3日目の目玉はこちら。飯盒炊爨。これからバス乗るのにカレー作るとか馬鹿か? 匂いエグいだろ。というツッコミはさておき、この班は壊滅的に料理ができない男子が多い。チャパ山、委員長、エロ橋、情報屋はまじで戦力外。ついでにニコラも戦力外だ。
「えっと、塩適量……適量ってどれくらいだ? まぁ大は小を兼ねるっていうし、全部かけとけばいいか! ぬふふ!」
「あー、もういい馬鹿ども、貸せ」
幾つか薪を割って竈に焚べる。この辺は樹海暮らしで身につけたスキルの一つだ。火は直ぐに点いた。僕はうちわを男子どもに放り投げる。
「ほら仰げ。消さないように注意しながらな」
「ほ、ほの囮ちゃんすげぇぇ! なんか手慣れてるな!」
「犀潟くんは意外と多芸なんだな……」
「ぐぬぬ、中学の時はあたふたしてるだけだったのに……」
一応この場で使えるのはおそらく普段から料理をしてるメンバー。海知、夏葉、月潟。海知も要領よく野菜を切ってる。まぁ主人公は料理上手だと相場が決まってるからな。
「ほい、ボウル」
「あ、ありがとなほの囮! にしてもほの囮って結構料理出来るんだよな」
「お前が勝手に泊まりに来た日に朝食作ってやっただろ」
「い、いや、なんか中学の時はあんまり上手じゃなかったからさ」
まぁそれも無理はない。北湊の男子学生は大体料理に興味がない。料理は女がするものだという意識がいまだに強いのだ。お陰で女子と花嫁候補の男子以外は調理器具に触れる機会すらない。北湊において家政婦サービスの需要が高いらしいのはそういうことである。
「あそこで包丁振り回してる馬鹿どもになりたくないからな」
「あ、ああ……あれは、うん」
包丁振り回してる男子が体育教師に取り押さえられていた。馬鹿に刃物を持たせるな、これ鉄則である。大半の生徒は飽きてその辺でキャッチボールしてたりする。結局炊事場に残ってるのは女子ばかりだった。
「本当男子って最悪。うちらになんでも任せてればいいって思ってるじゃん」
「その点海知くんって家庭的♡ やっぱりかっこいいわ」
「ねー、まじ結婚したら家事とかやってくれそう」
「えー、ミカ狙ってんの? やばwww」
「だってぇ、イケメンじゃん?」
女子たちも喋ってはいるものの手際は良い。ただ、薪くらいは割ってやれよ男子。流石にそれは女子むずいんだから。
ということで僕は薪割り係である。沢山割って他の班にも配るのだ。ていうかこういうのって既に割ってある薪を使うんじゃないの? なんでうちらが割ってんの?
「いやぁ、良い手際だね。すまないねぇ、数日前に薪が雨に濡れて駄目になっちゃってさあ」
「はぁ」
施設の管理者がそんなこと言いながら巡回していた。邪魔なんでどっか行ってください。
割った薪を他の班に配っていく。女子たちは何か嫌そうな目をしながら僕から薪を受け取っていた。まぁ他のクラスにも僕の嫌な噂は広まってるだろうからな。ビッチとか尻軽とか阿婆擦れとか……ん、全部同じ意味か?
「あ、ああ、アンタ薪割れるからって調子に乗らないでよね! アタシにだってそんなの朝飯前なんだから!」
「あ? ……あぁ、京ヶ瀬千秋」
薪を持っていった先で金髪ツインテールの少女に指さされる。昨日海知とキャンプファイアーで踊った勝ちヒロイン様だ。
ある意味僕の最大の味方と言える。僕はこの子に感謝の気持ちでいっぱいだった。
「はい、薪。重いからここ置いとく」
「な!? き、聞きなさいよ! アタシ、アンタより上手く薪を割れるんだから!」
「お、流石です京ヶ瀬さん。んじゃそこのクラスの分お願いします」
なんか知らんが突っかかってきた。勝ちヒロインと争っても良いことなど何一つないが、勝ちヒロインに恩は売っておきたいんだよな。
「むきー! あ、アンタ! アタシと薪割り勝負よ! どっちが多く薪を割れるか競う勝負!」
「しない。大体そんなに多く薪割ってどうするんだよ。今回そんなに使わないでしょ」
「寄付するのよ!」
あ、多分良い子だ。勝ち組メインヒロインが悪い子なわけないんだけどな。
「んなことよりそこで夏葉がカレー作ってる。海知に食わせるんだから、夏葉より美味いカレー作れればアピールになると思う」
「へ!? べ、別に海知のことなんてどうでも」
「ちなみに、海知は甘口カレーが好きだ。伝えたからな」
「はぁ!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
勝ちヒロイン様が勝ち続けるとは限らない。夏葉にとって何が幸せかは僕が決めることではないが、少なくともニコラと結ばれるよりは海知の方が良い。
夏葉と京ヶ瀬千秋、それに柏崎真冬あたりが上手く海知を落としてくれれば万々歳なんだけどな。
さて、飯を炊き、カレーを作り、それを盛り付けて完了だ。流石にこの班はメンバーの手際が良かった分早く終わった。あの馬鹿どもには食器でも洗わせる。
「おぉ〜! 意外と感動するものだね〜。まぁルーはボンカ○ーだからいつも食べてるのと対して変わらないとは思うけど〜」
「お前は本当に余計なことしか言わないな……。一応味付けとかも変えてあるからそこらのカレーよりは美味いはず」
調味料の配合にまで拘ったんだ。不味いわけがない。
月潟と夏葉が先に味見をする。口に入れた途端、2人は目の色を変えた。
「うん! いけるいける! 青空の下だからバフかかってるけどそれ除いても毎日食べたいくらい!」
「ほんとね! 頑張った甲斐があったわ!」
他の連中も美味そうにカレーを食べている。何もしてない連中に飯を食わせる、これぞ北湊の縮図! まぁ別に良いけどさ。
あとは特に大きなイベントはなく、消化試合のように林間学校は終わりを迎えた。正直さっさと樹海温泉に浸かりたい。行きと同様バスの前方に座る。同じく月潟も向かいの席に座る。そして、あの人も。
「やぁ、2人とも」
「あ、どうも」
「あ〜、センセおつかれ〜」
頚城先生は行く前より穏やかな表情をしている気がした。僕たちに1缶ずつオレンジジュースを手渡し、そのまま通路の席に座る。僕と月潟の間に入った形だ。
「すまないね、邪魔をするつもりはないんだけど、どうしても感謝を伝えたくてね」
「いいんよいいんよ、気にしないで〜」
「寧ろそこに居てくれた方がゆっくり休めそうなんで」
「むっ、それどういう意味かな?」
「ははは、仲が良いのは良いことだ。そして改めて言わせてほしい、ありがとう2人とも」
頚城先生は手袋を入れていた袋を抱いてそう言った。
「これを渡す機会があるなどとは夢にも思わなかった。私はこのまま翠雨を見つけることも出来ずに朽ちていく、ずっとそう思っていたんだ」
先生の言った通り、恐らく何もしなければそうなっていたのだろう。
翠雨さまは頚城先生に会うつもりがなかった。あの優しい神様は自分を諦めて欲しかったではないかとすら思う。そうでなければここ迄気にかけていながら会わない理由がない。
頚城先生の元妻を殺すつもりで動く以上、彼女にとって父親は会うべき存在ではなかった。
「君たちのお陰だ。特に犀潟くん、君が娘を説得してくれたんだろう?」
「………どうしてそう思うのですか」
「でなければ昨日の夜、私を待っていたなどとは言うまい。月潟さんは見届け人と言っていた。ならばアレをセッティングしたのは君だ」
僕は何だか気恥ずかしくなってオレンジジュースに口をつけた。100%のやつ、高いオレンジジュースは久しぶりに飲む気がする。
「娘の姿が見えていたんだろう? もしかしてあの頃のままなのだろうか」
「髪は翡翠色でした。でも見た目は12歳くらいで、とても可愛らしく頭のいい女の子でしたね」
「ははは。いい子なんだよ、翠雨は。……翠雨から、何か言われなかったかい? あの事件のこと」
「言われてないです」
咄嗟に嘘をついた。きっとこの復讐の話をすることを翠雨さまは望んでいないだろうから。
「そう、か。もし君が翠雨から何かを聞かされていたてしても、あの事件を探ることはやめた方がいい。これは元刑事としての忠告だよ」
「……………どう言う意味ですか」
「言葉通りさ。私は手を引かざるを得なくなった。その理由は簡単さ」
「名割家ですか」
その名前を出したことを驚きもせず、彼は頷いた。刑事時代を知っている以上、その旧姓についても調べがついていると踏んでいたのだろう。
「名割家は代々北湊の貿易に従事してきた家柄なんだ。貿易は莫大な金もそして大勢の人も動く。自然、使える人間も多くなる」
「あ〜、頚城センセが言いたいことがなんとなくわかったよ。名割家は裏社会に顔が利くわけだね」
「……………」
「うん、ちゃんと手を引く。心配しないでセンセ」
月潟はいつもの笑顔でそう言った。まぁ手を引くつもりなど毛頭ないだろうな。それは僕も同じだ。
裏社会に顔が利く。つまり、反社会的勢力との繋がりがあるということか。それならば翠雨さまが言っていた、事件後に何度か誘拐未遂事件があったことも納得がいく。兵隊は幾らでもいるということか。
「それならいいんだよ。君たちは大切な生徒なんだ。困ったことがあったら何でも言ってほしい。出来る限り協力するとも」
「わ〜い、ありがとねセンセ〜! それじゃあ」
月潟が何かを言おうとした時、後ろの方で馬鹿煩い歓声があがる。
「うえぇぇい! アバンチュール終わっちまったなぁあ!」
「まーじ青春だったわー。でも誰もカップルできなかったな!?」
「まー男同士の友情も深まったっしょ? な? 委員長」
「う、煩い! やめろ触るな穢らわしい!」
随分と盛り上がっている。林間学校でカップル誕生ならず、ですか。まぁニコラの力が及ばない地だし是非もなし。
「海知もキスの相手明かしてくれなかったしよー」
「あ、ああ、あれはまだ取っておこうかな、と」
「えー!!! 海知くん早く決めちゃお? 女の子はぁ、決断力ある男子が好みだよっ!」
「ま、まぁまぁ、こういうのはゆっくり選ぶべきだろ? な、ニコラ?」
「…………」
反応のないニコラを訝しんでか、海知は再度尋ねる。
「ニコラ?」
「へ? あ、あああ! そうだねぇ! まだまだこのクラスはこれからだもんねぇ! いーっぱい青春しようねみんなぁ! ぬふふふふっ!」
「「「「うえええーーい!!!」」」」
「きっつい……」
「〜〜〜zzz、〜〜〜zzz」
吐き気を堪えながらオレンジジュースを飲んで落ち着く。隣を見たら月潟はもう寝てた。なんて羨ましい能力なんだ。
帰りのバスは後ろの青春の産物を聞きたくはないため、ずっと音楽を聴きながら目を閉じていた。バスが北湊についたら早く帰って温泉だ。
などと思っていた2時間前の自分へ。今、お前は月潟の家に来ています……夏葉と一緒に、な。




