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3章25話:つんつんでれでれ

「随分と仲良しじゃない、2人とも。もしかして昨日の夜も?」

「おはよう夏葉〜。よく眠れた? 目覚めのキスでもどうかな?」

「き、きす!?」


 さらっと話を逸らして夏葉を動揺させるあたり、やはり頭の回転が速いというかなんというか。

 夏葉に抱きついて愛情表現するかのように首筋にすりすりと頭を擦り付ける。夏葉は真っ赤になっていたが月潟を無理やり引き剥がそうとはしなかった。


「そ、そんなのだからみんなにキス魔なんて言われるのよ!」

「およ、そんなこと言われてるの?」


 お前……色々と自業自得では……?


「ほらこんなに冷えちゃって〜。早くお部屋戻ろ? 私が一晩中子守唄を歌いながら頭を撫でてあげるんよ」

「そ、れは……ちょっと嬉しいけど」


 夏葉は寂しがり屋である。故にこういうアプローチにすごく弱い。良くも悪くも裏表のない寂しがり屋なので、こういうところを月潟は気に入っているのだろうな。当の本人は「チョロイン〜」とか呟いているけど。

 保健室に戻るとベッドに座って大人しくしている夏葉。そのそばでキャンプ用コンロと小さな鍋を取り出し、中にミルクを注いで火を点け始める月潟。お前は本当に何してんの?


「はい、ホットミルク。あったまるぜ〜?」

「あ、ありがと」

「今度みんなでキャンプしようよ〜。ここみたいに星が綺麗なところがいいな」

「お前しかキャンプ用品持ってないんですけど……」

「貸す貸す〜。私稼いでるから!」


 僕と同じバイトしてるはずなのに、なんか資金力ありそうなのは何故なのか……。この顔でパパ活とかだったら無双してそうだけど、こいつそういうのやらなそうだよな。


「へ、変なバイトじゃないわよね!?」

「あはは、夏葉もする〜?」


 おいやめろ、笹神幽々火がバレる確率を上げてどうする!


「別に大したことはしてないよ。ネットの内職とかそういう感じ。あ、でも夏葉ならもっと似合いそうなバイトあるよ?」

「おいやめろ、それだけは本当に」

「BARの方じゃないよ。ま、そのうちね〜」

「悪そうな顔……」

「仲良さそう」


 結局僕らを見て夏葉はそんな感想を呟く。手元のカップを下ろして一息つくと、夏葉は尋ねた。


「私ね、林間学校に来てから自分の気持ちを正直に人に言えてるの。今すごく自分で生きてるって感じがしてて、だから北湊に帰るのがとても怖い」

「…………」

「北湊に帰ったら、きっとほの囮とこんな話をすることもない気がするの。ねぇお願い。ほの囮と琵樹が何をしようとしてるのかは聞かない。2人の関係が気にならないと言えば嘘になるけど、私にはそれより……」


 普通の人間であり対抗策もない夏葉はニコラの思考誘導の影響を受けやすい。ニコラが色恋の神の巫女となったのがいつからかは分からないが、その段階から夏葉は何かしらの干渉を受けているのだろう。

 故に必死だった。ここは翠雨さまの土地であり、ここにいる間はニコラの力は及ばない。事情は知らなくても街を離れた時点で本能的に何かを察したのだろう。


「私はどうすれば……もう私、誰かを傷つけたくなんてない……ほの囮も琵樹も、海知もニコラも……」

「夏葉。落ち着いて」


 夏葉を抱きしめる月潟。背中を摩り、落ち着けるようにしてあげていた。


「夏葉。私が君を助けてあげるよ。だから今はお休み。北湊に戻っても君は大丈夫」

「な、なんで、なんでそんなこと言えるの……いつか私が私じゃなくなって、誰かを傷つけるかも知れないのに」

「させないよ。友達だもの。私がなんとかしてあげる」


 月潟の温かさと優しい声によって落ち着いたのか、彼女はやがて眠りについた。まだ疲れも溜まっていたのだろう。怖い思いをしたから無理もないが。


「お前、あんな無責任なこと言ってなんとかできるのかよ」

「無責任でもないよ。夏葉のことはなんとかしなきゃとは思ってたし、現状ニコラちゃんにとっての最大の弱みでもある。こちら側に引き込んでおくのは得策だと思うな〜」


 仲良くしていると思えば、やはり合理的に物事を考えている。だが夏葉のことを大切にしていない訳でもない。月潟琵樹という少女はこういうやつだ。


「で、具体的には?」

「まだ言ーわない。さて、そろそろ寝ようかな。私夜行性だけど今日はもう疲れちゃったよ〜」


 そう言って僕のベッドに潜り込む月潟。おいちょっと待て。


「おい、そこ僕の」

「半分は空けてあげてるよ?」

「そういう問題じゃなくて。この部屋ベッド2つしかないからな? お前さっさと自分の部屋戻れよ……また先生探しにくるだろ」

「頚城先生と交渉済みだよ〜。林間学校において男子の行動はともかく女子の行動に何か制限を加える教師はいないからね〜」

「んじゃ夏葉と寝ろ。僕は1人で広々と眠りたい」

「私は君と狭々眠りたいな。昨日だって一緒に寝たじゃない?」


 口が達者なやつ……。昨日は一応別々の布団だったからな? ああいや、結局朝にはくっついて眠っていたか。

 コイツの家でも同じことやってたな。けれど初めから同じ布団なのは流石に、なぁ……。


「良い。椅子で寝る。お前はベッド使え」


 先ほど頚城先生が使っていた椅子に腰をかけると、僕は目を閉じて意識を落とした。

 月潟は「強情だな〜」とか言いながらもベッドを占拠していたので、単にふかふかの布団で寝たかっただけなのだろう。これはこれで清々しい。

 こうして長かった林間学校2日目も終わりを迎える。いや本当に長かった。


◇◆◇


 朝。

 痛む体を無理やり叩き起こす。まだ朝の5時だった。最近どんどんショートスリーパーになってる気がするが、それでも不思議と疲れは感じない。まぁ助かってるけどな。

 夏葉も月潟もまだぐっすり眠っている。月潟に至っては僕の使う予定だった枕に涎を垂らしながら寝ていた。ほんっと、顔は凄く綺麗だな。およそ日本人とは思えない顔立ちをしてる。髪も間違いなく地毛だろう。


「んんな、ぬぬ……」


 布団を抱き枕にしながらもぞもぞと何か言っている。ジャージの上着がはだけ、その下からキャミソールが……っておい!

 慌てて月潟に布団をかけ直し、椅子に座り直す。そもそも何月潟の寝相なんて眺めているのだ僕は。普通に失礼だろ。

 などと思っていたらまた布団を蹴飛ばして肌を露わにさせていた。……駄目だ、コイツを男……いや女もだな、ともかくコイツを誰かと寝させちゃいけない。理性が飛ぶ。あまりにも美しい存在がこうもだらけた姿を晒してるとか普通に駄目だろ。戦争起こるだろ。


「歩くか」


 この部屋にいるとなんかこう、駄目な気がする。昨夜同様に部屋の窓から脱出し、早朝の爽やかな空気に身を浸す。

 もう5月だから長袖ジャージくらいだととても心地が良い。暫く周囲を歩いてみて、そして山の方へと向かう。

 昨日頚城先生と月潟と歩いた道、もう何度も来たような感じがするな。

 あの坂まで辿り着く。流石に頚城先生はもう戻っているか。昨日あれからどんな話をしていたのかは分からないが、20年分の思いは吐き出せただろうか。


「帰って良いとは言いませんでしたよ、愚妹」

「……随分と早起きじゃないですか、翠雨さま」


 背中に何か鋭いものを突きつけながら話しかけてきた翠雨さまに、僕は両手をあげて降参の位を示す。なんかチクチクして痛いです。


「お前、余計な気を回しやがりましたね。同盟解消すら検討しましたよ」

「すいませんでした!」


 僕は即座に振り返って頭を下げた。ちらりと見ると、鋭利に加工された真っ黒な石を向けているところであった。黒曜石か何かだろう。


「ま、いいです。お前の自己満足ではありましたが、私としても肩の荷はおりました。あの愚かな父もこれで少しは安心して過ごせることでしょう」

「なんだかんだ言って気にかけてるのはバレバレでしたからね」

「お前はいちいち勘に触る言い方をしますね。……否定はしません。父には生前色んなものを与えてもらいました。こうして形に残るもの以外にも色々と」


 翠雨さまの手にはあまり見た目に似合わない高そうな手袋がはめられていた。昨日頚城先生が持ってきていた手袋だろう。

 この優しい父娘が少しでも救われたのなら、僕はこの林間学校に来た甲斐があった。少しだけ嬉しそうに見える翠雨さまの表情、それが僕の見間違いだとしてもそれでよかったのだ。


「お二人を再会させた上でこれを言うのは少しアレですが……僕はこれから名割家を突き崩します。それだけご報告を、と思いまして」

「まぁ妥当でしょうね。とは言え私がそちらに赴くまで少し待ちなさい。まずは月潟琵樹と協力してやれることをやっててくれればいいです」


 顔色ひとつ変えず、翠雨さまはすらっと言い切った。月潟とは険悪そうだったけど、やはりその実力は認めているんだろうな。


「こちらは他の奴奈川姫の説得を行います。まあ時間はかかるかもしれませんので、それまで上手く持ち堪えてなさい」

「分かりました。ではしばしのお別れですね、寂しくなります」

「私は全然寂しくありませんが、お前が寂しいと泣き喚くのでしたら行ってやらないこともありません。そのお守りで呼びなさい」


 僕の首からぶら下げられたペンダント。それを指さして言った。この人は本当にわかりやすいツンデレというか、うん、かわいい。

 翠雨さまはそのまま山へと消えていった。僕はペンダントを握りしめて再び頭を下げた。


◇◆◇


 初めは全て騙してしまおうと思っていた。

 神を騙すことは容易くないが、神になりかけの人間など騙すのは容易い。

 過去に見たような傀儡どもであれば交渉の余地はなかったが、どうやらそうでもないようだ。

 道化。

 そう呼ぶに相応しいほど、ソレは自分という存在を殺しながら生きていた。だがそれでも狂気に飲まれて傀儡となるようなこともなく、壊れながら狂いそうになりながら前に進もうとしている。どこかおかしいのだあの人間は。

 記憶を引き継いでいないと聞いた時は、なるほどそういうことかと思った。同時に失望もした。だが憎悪を引き継いでいると聞いて、やはりこの人間への興味が湧いた。


「私も、お前に一枚噛んでやると言っています。一緒に愉快な復讐をしましょう? 今代の山の神」


 気づけば提案を持ちかけていた。

 憎悪に飲まれず自己を保ちつつも、何故か自分という存在を否定して彼岸へと惹かれる少年。彼の過去に関してはあまりにも闇が深い。そんな数多の闇を振り払い、その果てにある原初の山の神との出会いは彼を救い、そして彼を決定的に壊すに至った。

 アレはいずれ自壊する。このままいけばまず間違いなく壊れる。自身の命を微塵も大事にしていないのに、誰かの為に怒ることの出来る人間。異常者だ。アレが此岸で救われることなどない。私も同じだからよくわかるのだ。

 気の毒だとは思う。似ているが故に同情心も湧く。だが私は私の目的を果たさなくてはならない。彼の破滅願望を利用し、私は私の復讐を果たす。


「介錯はしてさしあげます。だから、せいぜい上手く踊ってくださいね、愚妹」

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