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3章11話:林間学校1日目④

 予想通り、男子どもが集まってドンキの袋を開け始めた。セーラー服、ナース、ミニスカポリス、メイド、スク水、巫女、バニーガール、魔女、幼稚園児、サンタ、アリス、浴衣、シスター、チアガール、水着、猫ランジェリー、チャイナ服。よくもまぁここまで揃えたものだと感心する。流石ドンキ。

 さて、これを着てしまうと問答無用でバッドエンド突入なわけだが、無論回避策は用意している。そもそもこれを僕だけに着せようというのが色々とおかしいのだ。貴様らがなんのリスクも負う事なく美味しい思いをするのは間違っている。


「いいよ、着てあげるよ」


 おぉ! とどよめく声。だがその直後僕はこう言い放った。


「ただし、ゲームで僕を負かしたら着てやるよ。みんなで楽しく遊ぼう」


 僕は持ってきたトランプやボドゲをどさどさと場に広げる。

 連中がリュックに入れていたゲーム類、マスターから借りパクしてきたボドゲなど、遊び道具は沢山ある。


「え、え?」

「なぁ海知、僕が一方的に着せ替えられるのは変じゃないか? みんなで遊んで、負けた人が着る。この方が楽しくない?」

「ま、まぁ、確かに」


 一応筋は通っているだろう? 無理やり僕に着せるのは前回教室やカラオケで失敗した。ならば僕が決めたルールで僕を負かして着せるのが正攻法というものだ。でなければこの人数で抑えつけて着せるしかあるまい。


「僕が負けたら喜んで着てやるよ。好きなポーズで写真撮っても良いし好きな言葉をかけてもいい。そして逆もまた然りだ。やる?」

「………け、けけっ、けけけけっ! 犀潟っち! おもしれえこと考えるべな! 確かにこれは盛り上がるべ! ボウリング大会の続きだ!」

「ま、ソユコトだ。何かを得たかったら自分たちが舞台に上がって勝負することだな、うん」


 レイズしなければポーカーは勝てない。役を張らなければ麻雀は勝てない。お前らは正面から僕を潰しに来るべきだ。

 

「お、おぉ! 俺が買ったらスク水でにゃんにゃんだからな!?」

「おうとも」

「俺が買ったらバニーガールで胸揉ませろ!」

「お、おうとも……」

「拙者が買ったらナースコスでお世話プレイを」

「黙れ変態調子乗んな」


 まぁ乗ってくる分には良い。気持ち悪いことに変わりはないが。


「海知、ゲーム選んで良いか?」

「え、ほの囮が選ぶのか?」

「何か問題ある?」

「い、いや……でもほの囮ゲーム苦手だよな?」


 かみさまと出会う前は苦手だったな。基本的に運のいい海知には勝てないし、ニコラはなんか不思議な力で僕を負けさせようとするし、そもそも気の弱い僕に勝負事は向いていなかった。

 僕はトランプを指さし、かみさまと何百回とやった『ポーカー』を選択した。


「いざ、尋常に」




 そして30分後、そこには悍ましい光景が広がっていた。

 ナース服の男、メイド服の男、すね毛まみれでスク水を着た男、男、男、男。『ドキッ! 女装男子だらけの部屋! ポロリもあるよ!』の上映に、部屋の中は爆笑に包まれた。

 最終的な勝敗は僕の圧勝だった。こういうのは経験則がものを言う。特にかみさまの場合、トランプのイカサマは大の得意である。かみさまを憑依させた僕も当然イカサマが得意である。負ける要素がない。

 

「あひひひひ!!! 小滝、なんだよそれ!」

「あ、あはは、あはははは! 面白すぎる腹捩れる!」

「オメーだってハミチンしてんじゃねーかスク水男!」

「うふん、あはぁん♡」

「ぎゃはははははははは!!!」


 この通り、ふざけ倒してるアホどもを見て、僕は勝利の美酒によっていた。奴らに買って来させた葡萄ジュースである。


「ほの囮……トランプ強いんだな……」

「海知も一度も負けなかったじゃんか。やはりトーナメントにすればよかったのか」

「い、いや、俺は遠慮しておく……」


 海知は未だジャージ姿のまま、そこで苦笑いしていた。隣には幼稚園児姿の情報屋がけらけらと笑っている。視界に入るな。


「ぅ、うううっ……」

「やべぇ、すべすべだわ。えろいことしてぇ」

「オラ、トイレ行ってくるだ」


 そして例に漏れず委員長も敗北しており、バニーガールの衣装を着せられていた。よりによってそれかぁ……。


「ふむ、男らしい角ばった鎖骨が美しい……」

「ふむ、もっこりとした股間がえちちち」

「ふむ、抱きたい、掘りたいメス男子」

「こっちくるなぁああああああ!!!」


 残った変態どもは委員長の女装に興味津々のようで、彼に集る姿は街灯にたかる虫の如く。


 その後は生活指導の教員が乱入してきそうな気がしたのでトイレに避難させて貰った。案の定部屋の方から怒鳴り声が聞こえたので、本当に巻き込まれなくてよかったと思う。


◇◆◇


「消灯するぞ」

「うぇーーい!」

「ま、まだ騒ぐのか!? もういいだろう! 僕はもう先生に怒られたくないんだ!」


 委員長が憤慨する。あの後あの姿のままこってり搾られたらしく、コスプレグッズは全て没収された。僕のボドゲはあのどさくさに紛れて回収したので無事である。世の中立ち回りが全てなのだ。

 さて消灯後なのだが、10人部屋の高校生がすぐ寝れるわけもなく。しかも他の部屋の男子たちもみな集まって懐中電灯を付け、アホ会議が始まった。部屋に誰もいなかったら見回りでバレるだろうが……。


「うっし何すんべ?」

「恋バナっしょー!」

「女子部屋行かね?」

「いや、ここにも女子はいるぜ? もみもみー!」

「やめろやめろやめろぉ!」

「そんなこと言って、委員長興奮してるっしょ!?」

「そ、そんなこと……」


 僕より早くメス堕ちしそうな委員長はさておき。さて、どうやって部屋を脱出するか。考えてなくもないけど、実際乗ってきてくれるかどうかはコイツらの浅ましさ次第なんだよな。


「なぁ、情報屋」

「ん? なんだべ、犀潟っち? つーか、犀潟っちやっぱ女の子の匂いすんべな。正直緊張しちまうぜ、けけっ」

「わかる。男子の部屋に女子がいる感じ。委員長はギリギリ男子感あるからこうやって弄れるけど、犀潟はもうシルエット美少女でしかないからな」

「ちょっと抱っこさせてくんね? いや、特に下心とかないけどさ、うん、特に下心とかないけど」


 2回言うな。

 それを聞いた海知があわてて僕のベッドまで寄ってきて、僕の隣に座った。そして、腰に手を添えようとする。おい、離せ。


「ほ、ほの囮は俺の親友だからな!」

「海知お前女の子みんな持っていくじゃねえかよ! ほの囮ちゃんくらい寄越せ!」

「ほ、ほの囮は男だぞ!?」

「メカクレ男装美少女萌えるだろうがよ!」


 なんで僕は一言も喋ってないのに争いは起こるのだろうか……。というか僕の周りに集まってくるな。左隣りに海知、右隣に情報屋、ここは地獄か? あと後ろには委員長が泣きついてきている。


「お、おぉ……犀潟くん、確かにその、いい匂いというか……」

「けけっ、やっぱみんなで襲っちまうかー?」

「や、やめろ! ほの囮は俺の……その……」

「親友の思い人をとったりしねぇべや! けけけっ!」

「こ、小滝ッ!」


 僕を挟んで茶番劇を繰り広げるのをやめて貰えるだろうか? ついでに委員長はそろそろ離れてもらえないか?


「い、嫌だ! なんか犀潟くんの近くにいたらこいつらに襲われない気がする!」

「委員長はなんか、その、手頃な女子っていうか。うん」

「わかる。ランキング的にはSランクの琵樹ちゃんとほの囮ちゃん。Aランクの夏葉ちゃん、Bランクのニコラちゃん、そして委員長」

「誰でも手が出しやすい女が1番モテるんや」

「だから僕は男だってばぁああああ!」


 なんか昔の僕を見ているようで本当に哀れに思えてきたよ……。それはそれとして離れてくれ。


「取り敢えずお前らが女に飢えてることはよーくわかった」

「ほんそれ! てことでさぁ、女の子服着てえっちのフリしてくれるだけでいいからさぁ、ヤってくんね?」


 品性もカケラもないのが北湊クオリティーである。誰がやるものか。

 ここはその本能に訴えかけるとしよう。


「……はぁ、偽物の女で満足か貴様ら」

「いやいやいや、ほの囮ちゃんは女子より女子だから。まじで女子」

「偽物の! 女で! 満足か!?」

「可愛い上についててお得や」


 話が通じない! ヘルプ海知! 

 海知の裾をくいくいと引っ張り、目で合図する。何かを察したのか、海知は他の連中を遮ってくれた。まぁこういう時は役に立つんだよ幼馴染って。


「ほ、ほの囮は何が言いたいんだ?」

「林間学校、思い出を作りたいんだろ? それならやることはひとつだろうが」

「…………?」

「行くぞ、女子部屋」


 一瞬の静寂。そののち、みんながごくりと唾を飲む音がする。


「な、ななななななななな!? 何を破廉恥なことを!? 見損なったぞ犀潟くん! じょ、女子部屋に行こうだなんて!」

「せっかくの林間学校だ。何か面白いことをしないのは勿体ないだろう? コスプレも全部没収されたんだ、お前ら不完全燃焼でしょ」

「た、確かに……」


 男子たちに動揺の色が透けて見える。コスプレを回収してもらったのに彼らのありあまるアホパワーが残っていては意味がない。ここは最も無駄なことに心血を注いで貰うとしよう。


「失敗しても、『アイツら、女子部屋侵入しようとしたらしいぜ?』という武勇伝は残る。成功すれば女子と沈むように溶けていくように夜遊びができる。女は何だかんだアホアホ言いつつ自分達に会いにくる男が好きなんだ」


 んな訳ないけどな。寧ろ嫌だろ、女子部屋に侵入しようなんてカスみたいな倫理観持ってる男なぞ。


「ほ、本当なのか!?」

「ああ本当だとも。月潟と夏葉から聞いた」

「おぉぉぉぉおお!!! 女子コミュニティーからの情報だぞ!」

「ま、待て待て待て! ほの囮何言ってるんだ! お前そんなこと言うキャラじゃ……」

「海知ぃぃ!!! 俺たちここで行かなきゃ男じゃねえぞ!」

「そうだそうだ!」


 燃料は投下した。あとは周りが勝手に燃やしてくれる。

 僕の見た目は女子そのもので、尚且つ夏葉・ニコラ・月潟と話してるところをよく目撃されている。ならば女子から聞いたというワードには説得力がある。全て口から出まかせのテキトーだが。


「で、でもよ……別にそこまでのリスクを冒さずともよ……」

「ではもうひとつ。実はニコラがまだエロいコスプレを持ってる」

「「「「なぬッ!?」」」」


 煩い静かにしろ、ハモるな。


「女子部屋に入れたら、僕はアイツらと一緒にそれを着てやる。説得は任せとけ」

「う、うぉぉぉぉぉぉおぉぉぉ! ほの囮ちゃんまじか! 俺たちに道を示そうと言うのか!」

「ほの囮ちゃんだけでなく、月潟さんや赤泊さんのコスプレ……ぁ、俺先にトイレ行ってくる……」

「じょ、じょじょじょ女子の部屋で、遊ぶって、な、何をしちゃうんだ!?」


 ニコラがコスプレ持ってる云々は多分マジだ。アイツのリュックには大抵碌でもないものが入っている。


「どう? これで行かないとかお前ら本当にタマ付いてるのか?」


 少し煽ってみた。まぁ煽る必要もないほど彼らの目はガンギまっていたが。


「そ、そこまで言われちゃあ黙っておけねぇなあ」

「よぉぉし! 俺たちは今日! 男になる!」

「ほの囮ちゃんぺろぺろ、ほの囮ちゃんぺろぺろ」

「ま、待て待て待て! ほの囮もとめるんだ!」

「海知お前ノリ悪いぞ! 男に生まれたからには! 女子部屋で女子とイチャイチャすることに憧れるのは自然の摂理だろうがぁぁあ!」

「お前だってほの囮ちゃんのコスプレみたいだろ! ゲームで勝てなかったなら体張ってでもほの囮ちゃんにメイド服を着せるのが男ってもんだろうが!」

「は!? スク水だろ!」

「チャイナ服!」

「浴衣ぁぁぁぁぁ!」


 それはお前らが着てた服だろ……。ちょ、こんなところで仲間割れすんな!


「おっしゃ行くぞぉぉ!」

「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」


 よし、うまく焚きつけられた。あとはこの馬鹿どもが教師に見つかって逃げ出す時に乗じてトイレから外に出るとしよう。

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