3章10話:林間学校1日目③
特に美味しくないバイキングを終えると、そのまま観望会に突入した。だが流石北湊クオリティ、誰も星になぞ興味がない。僕は滅亡後の北湊にて、たくさん星を見たから天体観測は結構好きである。あの時は周りに電気通ってなかったので向こうの空までよく見えたものだ。
いい感じにレンズを調整し、星がくっきり見えるようにしてから彼らに望遠鏡を譲り渡す。
「ほら、調整終わったぞ」
「凄いわねほの囮!? いつからこんなこと出来るようになったのよ」
「理科の、授業……とか?」
「中学の時みんなで観望会やってほの囮あたふたしてたのに……」
よく覚えてるなそんなことを。
「夏葉、海知を誘って2人で見ろ。ニコラは今向こうで馬鹿どもと花火してるから」
ぬふふふふ! とはしゃぎながら花火を振り回してるニコラ。馬鹿である。
それを聞いた夏葉は一瞬驚きつつも、怪訝な顔をした。おかしいな、海知と花火でもしたかったのか?
「ほの囮、少し話せないかしら? その、別に今日じゃなくてもいいけど」
「はぁ……いいけど、今日はもう観望会も終わるし明日にしてくれるか? それより海知と」
「わ、私ニコラに混じって花火してくるわ!」
そう言って駆けていく夏葉。なんだよ、みんな星興味ないじゃん。
なんとなく最後の希望と思って月潟の方を見ると、芝生に座り込んだまま空をじーっと見上げていた。ただひたすら満足そうに、目を輝かせながら空を見る。こいつは常に楽しそうだ。誰よりも物事を楽しもうとしている。
その理由の一端はきっと、彼女が特殊な境遇だからだろう。今の月潟が生物的にどういう立ち位置なのかは分からない。人としての命はあるが、すでに死者でもある。転生、というのが正しいのか。だが生まれ変わったわけでもないのだ。
ともあれ、死を一度経験したからこそ、彼女は生を楽しんでいるのだろう。それは、少しだけ羨ましい。
星を眺める月潟を時々見ながらの観望会は終わり、僕はこの後のことを考えて気が重くなる。楽しい楽しいお風呂イベントである。
「ほの囮、ふ、ふろ、いかないか?」
「ふうぅぅ! ほの囮ちゃんとお風呂ぅ!」
「ええんか? 女の子と男子風呂で一緒でええんか?」
いいわけねえだろ。その枠は委員長に譲ってやる、僕は行かない。
「先生に呼び出されてるんだよ……。あとで行くから先入っててくれ。」
「な!? こんな夜に先生と!?」
「こ、江南先生……やっぱりほの囮ちゃんのこと……」
「いや他の先生もいるから……」
「な、何人で事に及ぼうとしてるんだーっ!?」
この猿どもはもう何言ってもエロいことに変換されるんだな……。もう何言っても無駄なので、取り敢えず風呂の支度だけしてトイレに篭る。何人か探しにきたが、クラスごとの風呂の時間は決まっている。1・2組は1番早く、あとがつかえているので早く入ることを強制されるのだ。つまり、僕をずっと探していたらこいつらは風呂に入れない。
暫くして諦めたのかトイレから気配が消えると、僕は鍵を開けて部屋へと向かった。今日は部屋のシャワー使うか。
「おっと」
「あっ、悪い……って月潟?」
曲がり角で誰かとぶつかってしまい、慌てて謝るとそこにいたのはジャージ姿の月潟だった。この時間は女子も風呂のはずだが、何故ここに?
「うーん、私女の子たちから警戒されちゃってさ〜。『一緒に風呂とか、なんか欲情されそうで嫌』だってさ、あははは〜」
「この街の人間の百合嫌いは筋金入りだな……」
街の花嫁なんて制度を推奨してるから同性愛に寛容なのかと思いきや、北湊の連中は百合が嫌いである。
まぁ男を女の代わりにしようとしてる時点で、女のことを自分たちの所有物としか思っていないのだろう。つまり自分が恩恵を受けられない『百合』は、彼らにとって悪なのである。それが染み付いているからこそ、女子たちも月潟を嫌悪しているのかもしれない。こいつの場合は女子たちに合わせようとしないところも嫌われる要素なのかもしれないが。
「で、ほの囮くんは?」
「これから部屋の風呂だな」
「あ〜うん、私もお部屋のを使うことにするんよ。よかったよかった〜、私の嫁が男風呂でケダモノに蹂躙されるところだったんよ〜……」
「その妄想やめろ。ま、別に部屋に居続けろってわけでもないんだ。辛かったらその辺でも散歩してればいいんじゃないの?」
僕も夜は消灯後に外に逃げる予定だし。
「あ、それなら私と一緒に散歩しない? 別に先生に怒られてもいいしさ」
月潟は眉を下げ、少し寂しさそうにそう言った。一緒に行く義理はないのだが、その時の寂しそうな月潟を見て僕は言葉に詰まった。そして、結局同意してしまう。
「……いいけど、どうやって下まで行くんだ? なんか見張りがいるらしいぞ」
男子が泊まる棟:カシオペアと女子が泊まる棟:アンドロメダは2階出入り口付近で体育教師が陣取っているらしい。目的は男子が女子部屋に侵入することを防ぐためなのだろうが、副次的に誰かが外に繋がる出入り口へと向かうことを阻止することも出来てしまう。恐らく交代制で見張るだろうし、あそこから外に出るのは困難だろう。
「トイレの窓、結構大きかったよ。あそこからなら外に出れるんじゃないかな?」
「2階だぞ?」
「女子トイレの方は近くに木があるんだよ。どう? 樹海暮らしのほの囮くんなら余裕余裕」
「僕がアンドロメダの方まで行かなければならんのだが」
すごく嫌である。というか消灯時は部屋に居たい。
「……はぁ。いいよ、男子トイレから飛び降りるくらいならそこまで問題にはならない。んじゃ23時にあそこの看板待ち合わせな」
「へぇ〜意外と乗り気だね、不良少年め〜」
「元々脱出するつもりだったからな。そこに偶々同じこと考えてるアホがいただけだ」
連中の荷物の中にドンキで買ったコスプレがたくさん詰め込まれていた。アレの対処法は考えてはあるけど、寝る時にあの部屋にいるとか死んでも嫌だ。
基本的には誰かが帰ってこないとなれば捜索されてしまうので、僕らの場合狙いは先生に見つかることにある。上手くいけばこっぴどく叱られた後で宿直室かどこかに泊められる可能性が高い。部屋に戻すとまた逃げかねないしな。
「あ、そうだ。一個聞いておきたいことが」
「ん? なにかななにかな?」
さて、その後月潟と別れて部屋に戻ると、さっさとシャワーを浴びて着替えを済ませる。学校指定ジャージのままダラダラ本を読んで待っていると、バタバタと足音が聞こえてきた。男子どもがようやく戻ってきたらしい。
「おっ!? 犀潟っちいんじゃーん! 風呂どしたべ? もっかい俺っちと入るか!」
「ほの囮! どこ行ってたんだよ……俺はお前と風呂に……」
「先生が部屋の風呂使えってさ。ってうわっ!?」
海知が僕の髪を触ってきた。慌てて仰け反る。
「もしかして、もうシャワー浴びたのか? その、いい匂いがする」
「……そだな」
キモいキモいキモい。お前その顔なら何言ってもいいと思ってるだろ? そのまま海知は僕に距離を詰めてきた。
「ほの囮……明日、ダンスの時……言いたい事があるんだ。そのあとは絶対一緒に風呂に入ろう。俺……俺……ちゃんと言うから」
「………………風呂は嫌だ」
「ほの囮!」
「うひゃい!?」
両肩を掴まれ、思わず跳ね上がる。海知の目はマジだった。
「昔はよく流し合いっこしたよな? 俺たち親友だもんな。体を見せ合うのなんて恥ずかしくないよな?」
「は? え、ちょ……」
「幼い頃に遊びでキスしてくれたこともあったよな? 俺、最近ほの囮と上手く話せなくて、だから、その……明日は……」
「は! な! せ! おい情報屋! お前海知に何吹き込んだ!?」
海知が無駄に暴走モードに入っていた。早く止めろクソキモストーカー! あとキスなんてしてない、捏造すんな! ほっぺにしたとかそういうのだろ多分!
「いやぁ、犀潟っち結構人気なんだぜ? 風呂場の男はみんな犀潟っち探しててよぉ。それで海知、嫉妬しちゃったみたいだぜ♡」
「ほの囮ほの囮ほの囮ほの囮ほの囮ほの囮ほの囮ほの囮」
「はーなーせー!!! お前のぼせてんだよ少しは頭冷やせ!」
海知の口にペットボトル水を突っ込み、水を飲ませる。がぼっ、がぼっ、と言いながら、海知は水を飲み、やがてペットボトルを口から離した。
「な、何するんだほの囮!」
「こっちの台詞だわ! こんな騒いだら先生来るだろうが!」
「はっ、そ、そうだった。その、ごめん。俺、ほの囮のことになると熱くなっちゃって……」
ここにきて海知が積極的になってる……。偽物の恋心でここまで狂うとは、なんて憐れなんだろう。ここまで酷いと海知も被害者なのではと思ってしまう。
「で、他の連中は?」
「けけっ、他の奴らなら、ほら」
情報屋が顎で方向を示す。その視線の先には……委員長がエロ橋&チャパ山と他の男子たちに弄られながらこっちに向かってくるのが見えた。
お風呂上がりの熱った委員長は、確かに色々はだけていた。そんな委員長のジャージの中に手を突っ込んで胸を触ったり、臀部を撫でたりしている男子たち……うっ、中学の時のトラウマが蘇る。
「や、やめ、やめろよお……」
「へへっ、一緒に風呂に入った仲じゃないカナ、委員長。俺がもっと気持ちよくしてアゲルヨ」
「っべーわー。俺なんかに目覚めちゃいそうっつーか? 男もアリだなって?」
「委員長……いい匂い」
「ぎゃいあああああ!!!」
色々と可哀想な委員長。ここから夜はもっと可哀想なことになりそうだな。
その後は男子20人くらいがこの部屋に集まってワイワイとやっていた。まぁ具体的には恋バナやらなんやらをするためだろうが。
「ちきちき! ほの囮ちゃんに可愛い服を着せようのコーナー!」
カスどものカス行事が幕を開けた。




