3章6話:ボウリング大会
「うぇぇぇえーい! ボウリング大会ぃぃぃい!」
「「「「ふぅぅぅぅぅう!!!」」」」
開幕早々に奇声を上げる連中を横目に、僕は靴を履き替えた。僕の足のサイズは24.5cm。ボウリングシューズは同じサイズなのに何故か少しデカいので、小さめの靴を選択する。
さて土曜日の真っ昼間。ここは北湊市の誇る唯一のボウリング場である。高校生たちの溜まり場としてもよく知られ、暇な連中は大体この複合アミューズメント施設にいると言っても過言ではない。故に平日なんかは時々先生方が巡回していたりするらしい。
「おはよ〜……ねむねむだよ〜」
「おぉ、おおぉおお!!! 月潟ちゃんの私服! マジで神……マジで神ぃい!」
「許せる、これなら遅刻も全然許せる! むしろ寝坊なの可愛いからスパチャすりゅうう!」
「3位に入って月潟さんとダンス……3位に入って月潟さんとダンス……」
盛大に重役出勤をかましてきた月潟は、白いトップスとショート丈のオーバーオール、白いキャップとシンプルな出立だった。一応運動しやすそうな服にしろと指示した甲斐はあったというものだ。
それでもその月光色の髪も相まってどこかギャルギャルしく見え、嫌でも人の目を引く存在となっている。たむろするヤンキーたちもこっちをみてヒソヒソと何かをずっと話していた。
月潟の到着を確認したニコラは、マイクを手にしてノリノリでルール解説を始める。
「さて、琵樹も来たことだし、ルールを説明するよ! これから籤引きで決まったレーンに分かれてゲーム開始! 得点を競います! 1番得点が多かった人にはー!」
どうやらルールの変更があったらしい。事前に言っておけよ。
「好きな人を指定して、ちゅってしてもらう権利を有しまーす!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」」」」」
終わりだよこのクラス。ギスギスとか全部消え去ってみんなして大盛り上がりである。こういう雑なルール改変をして欲しくないからあの場に一枚噛んでいたというのに……。
「それから1位と2位と3位には、林間学校で好きな人とダンスをできる権利をプレゼント! ぬふふっ、誘われた人は断っちゃだ・め・だ・ゾ?」
「「「「「うおぉぉぉぉぉおおおおお!!!」」」」」
なんて悍ましい笑みなんだ。夏葉は困惑していたが、海知はどうやらこの改変を知っていたようだった。なんか僕がどうのとか呟いているし、確信犯だな。お前そういうとこだぞ。最近少しはマシなシーンばっかり見せてたから、こういう自己中心的なことされると、「あ、こっちが素だった」って思い出しちゃうだろ。
「そしてこのゲームはレーン対抗戦要素もあるよぉ! レーンで優勝したチームには、レーンでビリだったチームの子達にこの中から好きな服を着せることができるよ!」
パチンと指を鳴らすと、周囲に控えていた男子生徒たちが衣装ラックを転がしてニコラの前に設置する。お前らそれどっから運んできたの?
衣装ラックにはドンキのコスプレ売り場で買ったようなペラペラのコスプレグッズが大量にストックされていた。北湊の高校生は金持ち率もそこそこあるので集めるのは簡単だったのだろう。流石は北湊で1番売れてる小売店、ドンキホーテ……笑いが止まらないだろうな。
「2・3位に入ったらその人は1位のき、き、きすの対象になるのかしら?」
「ぬふふ、キスって言うの恥ずかしがってる夏葉可愛すぎかよ! ああ、ごめんごめん。勿論対象だよ! あ、でもキスとダンスの相手は別々にするようにしよっか。その方がいろんな人が美味しい思いできるし」
さてと、どうしたものか。
僕の望むのは僕が一切の実害を被らない終わり方だ。レーン対抗でビリなどもってのほかだが、1位になれなかった場合、確実に海知に指名されて皆の前で醜態を晒す羽目になると考えるとこっちの方がキツい。
とは言え1位になれば誰かにキスされなきゃいけないし、2・3位でも誰かを指名して踊る羽目になる。……逃げ場がねえ。
希望があるとすれば海知が1位じゃないパターンだが、これは100%無理だ。僕が山の神になってボウリング場を破壊しない限りは、海知の優勝は揺るがない。となれば方法は一つだ。
それは、僕が2位または3位になり、海知をダンスの相手に指名することだ。
キスとダンスの相手はルール上両立し得ないから、僕が先に海知をダンス相手に指名してしまえば、海知は僕をキスの相手に指名できない。
後々呪いのキャンプファイアーでこやつと踊るのはそれこそ呪いなのだが、キスよりはダンスの方がマシである。活路はこれしかない。
「さぁさ、籤引きをぬるっと引いてよ、ぬふふふっ」
ニコラに促され、全員がくじを引いていく。僕の番号は5番レーン。ここは……。うげぇ。
5番レーンのスペースに座っていたのは、なんか嫌なメンバーだった。
「うぇぇい! よろしくぅ! ほの囮ちゃぁん!」
「よ、よよよよよよよよよよろしくっす! 今日もいい香水……あっ、これ犀潟クンの素の匂いかぁー」
「おっ、ほの囮っち来たべか! 一緒のチームだ、よろしくな! けけっ」
茶髪のチャラ男:チャパ山、エロ坊主:エロ橋、情報屋、まさかの林間学校班だった。こんなことある……!?
「おつおつ〜、ほの囮くんと同じ班でよかったよ〜」
唯一の救いは月潟が一緒なところである。いや、月潟の運動神経的に考えるとビリも視野に入ってくるので普通に不安だ……。他の連中は運動は出来そうだけど、はてさて。
一方でニコラの班には海知と夏葉がいた。アレはもうレーン対抗戦も勝ち確である。アレが1位でこっちがビリだった場合、ニコラの意向がそのまま僕たちの衣装として反映されるわけだ。
少し不安そうにしている月潟をチラリと見る。確かにコイツの衣装は少し見てみたかったが、今回は一蓮托生なのでそうもいかない。
仕方ない、勝ちに行くぞ。
ボウリングは苦手だ。
中学生の時に海知や夏葉、ニコラと何度かここに来たが、その度に惨敗している。なのでニコラも今回は余裕綽々であった。
「っしゃ! ストライク!」
「すごっ、海知くん初っ端からダブルじゃん!」
ストライク2回のことをダブルという、なんて解説はさておき、海知の周囲には人が集まっていた。アイツは運動もゲームも大抵のことはできてしまうハイパー帰宅部である。実に主人公という感じだ。こっちはチャパ山がふざけた結果2連続ガーターだというのに……。
「っべー、やっちまったー、まじやっべー」
「まーまー、俺っちもガーターだったからよぉ」
情報屋、お前は情報を入手するのと緊縛すること以外で特技はあるのか?
ちなみに次は月潟の番だった。僕は立ち上がって彼女の後ろに立つ。
「腕の振り方はこう。軸足ともう片方の足の動かし方でバランスを取る。回転とかアホなこと考えなくていいから、まずはまっすぐ慣性の法則に従って投げること。ひとまず投げるフリをしてみろ」
「やってみる」
月潟は球を持つ腕すら不安定ではあったものの、ひとまず僕が腕を固定し、投げるそぶりをさせてみた。
何度かそれを繰り返したのち、月潟の第一投が放たれる。軌道は真ん中を僅かに逸れたものの、数本のピンを跳ね飛ばすことに成功した。
「え、倒れた? やったやった!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ月潟に、思わず笑みをこぼしてしまう。やはり経験がないだけで、頭のいい月潟は持ち前の要領の良ささえ活かせればいくらでも化ける。
2本目も8本倒して早くもこのレーンの稼ぎ頭である。おいカス共、反省しろ。
「次は犀潟っちだべな」
数本は倒したエロ橋がレーンから離れると、続いて僕の番になった。流石に海知ほどではないけど、僕には彼の天才:かみさまの教えがある。
「貴方の真似で恐縮ですけど、ピンをニコラに見立てて弾き飛ばして差し上げましょう」
私は笹神幽々火。かみさまの後継者。ならばかみさまに出来ることは私にも出来る。
そう自己暗示をかけ、私は第一投を投げた。
まさにピンを破壊せんとの勢いで球は跳ね、小気味の良い音を立ててピンが弾けたのち、ストライクの演出がモニターに映し出される。
アレはニコラ、アレはニコラ、アレはニコラッ!
そう思って球を投げ、再びストライク。
その直後、拍手が聞こえてきて僕は我に帰った。
「すごいすごいすごい! なんか怨念がこもってたよ!」
「凄い、全然褒められてない」
無邪気にはしゃぐ月潟と、後ろで感心する……というか若干怯えてる男子3人。お前ら早く投げろ。
「やべぇ、ほの囮ちゃんまじやべぇ」
「おいおい海知……犀潟っち全然うめえじゃねえかよ……」
「僕が罰ゲームを受けるために、お前がわざと手ぇ抜いてるのは分かってんだ。早く投げろ。ちゃんと当てろ。じゃないと次はお前の顔面にコレだ」
なんとなくテキトーにそんなことを言ってみたのだが、情報屋はそれを聞いてスンと真顔になると、ちゃんとしたフォームで投げ始めた。やっぱ手を抜いてやがったなこいつ。
その後は割と真面目にやり出した情報屋と、覚醒した月潟、かみさまインストールした僕の3人で点数を稼ぎまくり、結果的にこのレーンの順位は2位になった。
「意外となんとかなるもんだね! ハイタッチ、いえーい!」
「いえーい。……にしても海知チームはもうアレドーピングだろ」
そして個人成績でも結果は2位、ちなみに3位は月潟だった。たった数ゲームでここまで伸びるとは……やはり天才は存在するな。
逆に言えばそれでも勝てない海知チームは主人公補正効きすぎててどっかで帳尻合わないかな、と悪態も吐きたくなる。
「……………ほの囮、なんでそんなに上手くなってるのかなあ? ねぇ、おかしいよね? アレだけ調整したのに、アレだけ根回ししたのに。やっぱり変」
「ほの囮、上手くなったんだな! 今度一緒にボウリングしよう! その、2人で……」
「あー、うーん、考えとく」
ニコラがぶつぶつと呟き続けているので、そっちを気にした方がいいと思うぞ。
「で、その……キスなんだけど……」
「海知、林間学校で僕と踊ろう」
東京ドームで僕と握手! みたいなノリで話すと、海知はいいぜ! と照れつつも提案を受けてくれた。よし、これで後は当日どうやってバックれるかを考えるだけだ。
「そ、その手があったのか……くっ、やっぱりキスとダンスは同じ相手でも……」
「で? 海知、キスは誰にしてもらうって?」
「あ、ああ、そう、だな……。その、林間学校までには決めるってことで」
ニコラが意気消沈したことと、海知のイケメンっぷりに免じて、キスはお預けとなった。こういう時イケメンはずるい、イジられて嫌な気持ちにならないイジられ方は狡すぎる。
まぁ、総じて無難な会になったんじゃないか。ニコラと、ある一部の人たちを除いては。
「うわあああああん……こんなのおかしい、おかしいだろう!?」
「え、委員長……可愛い……」
「お、おい、なんで寄るんだ、やめろやめろやめろ!」
「はぁはぁ、委員長……いい匂い……」
罰ゲームは委員長のいるチームだった。女子が1人も配属されなかったため当初はみな絶望していたのだが、ムキムキの男たちの女装の中に、1人だけ女子生徒にも見えるような男子がいた。そう、委員長である。
チアリーダーコスに身を包む彼は瞬く間に男子たちに囲まれ、イジられていった。……ごめん、流石にそれは助けられない。
「な、なんと!? 委員長はほの囮と同じく男の娘ポジ!? いや、ほの囮より肩幅あって男らしい体つきしてるから、むしろ更にBL感増して美味しい! ぬふふふふっ! 新たな獲物発見!」
………………ニコラが立ち直ったということで、今回は委員長の1人負けということになってしまった。
まぁ、これでクラスの結束力は強まったんだろう。多分。




