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3章5話:ニコラの思いつき

 クラスの仲を取り持つ、などと言ったが、それはニコラの洗脳さえあれば容易なことだろうに。

 いや、ニコラとて万能ではないのか? 寧ろニコラの洗脳が完璧であるならば、月潟の小細工も全て無駄で、僕は虐めの標的として今も過ごしていたに違いない。

 色々考えても仕方ないが、ひとまずこれがニコラの差金なのは分かる。だってそこでずっとニヤニヤしっぱなしだし。


「んで? どういう趣旨で?」

「ほら、最近クラスの雰囲気悪いじゃない? だから私たちでクラスメイトの仲を取り持つの! それで気持ちよく林間学校に行きたいじゃない?」


 まぁ筋は通っている。月潟もふむふむと頷いていた。お前の策略でクラスの雰囲気崩壊したんだけどな……。


「はぁ。それで、具体的には何をすると」


 僕の言葉に、ニコラは待ってましたとばかりに目を輝かせた。


「やはりカップル! カップルの誕生こそ逆転の鍵なのだよぬふふふっ! ほら、クラス内で付き合い始めたら、結構連鎖的にカップル増えてくもんじゃん? それを実践すればいいのさ!」

「か、かぷ!?」

「ニコラ! お前何を……」

「けけっ、ナイスアイディアだぜ!」


 ニコラのアホな提案に、夏葉・海知・情報屋が反応する。あと月潟もサムズアップしてた。

 この反応を見るにニコラの暴走だな。捨て置いて問題あるまい。


「クラスの誰かをくっつけてカップル作ろうって話? ただでさえギスギスしてんのに?」

「ふふん、そこでボクの出番さ!」


 洗脳でも使うのか? 矢鱈と自信満々だが。


「はいどん、ここにボウリングのクーポン券があるんだなぁこれが」

「はあ、ボウリング。北湊に1店舗しかないあのボウリング?」


 滅亡後の北湊で何回かかみさまと遊んだことを覚えている。悪魔は消毒だー! とかいいながら球を放り投げるものだからあんまり勝負にならなかったけど、それでも一通り投げられるようにはなっていたはずだ。元々苦手な遊びだからあんまり自信はない。

 因みに近代のボウリングはかの有名なマルティン・ルターが悪魔祓いの宗教儀式をもとに作り上げたものと言われている。かみさまはピンの全てに呪詛の書かれた札を貼り付けて吹っ飛ばしていた。もはや別物である。


「クラス会をして、みんなで遊ぼうって寸法だよ」

「およ、ニコラちゃんにしては普通の提案だった。もっとぶっ飛んでるかと」


 月潟がそう言うのを遮り、ニコラはぬふふと笑って眼鏡をカチカチと動かした。



「で、ボウリングで負けた人たちは、林間学校で誰でもいいから良さげな人に告白! そういうのどう?」



 中途半端な陽キャのノリやめろ。海知すら困惑してるじゃねえか。ていうかお前……アレだな、それわざとボウリングにしたな? 僕がボウリング苦手なの知ってるもんな? 4人で中学の時遊びに行ってボコボコにされたの今でも忘れてないからな。


「流石に告白とかやりすぎでしょ。別に全員が全員好きな人がいるわけでもないし、何より告白を自分のペースで行いたい者もいるはずだ」

「けけっ、口がペラペラまわるなぁ犀潟っち!」


 おうキモストーカー。僕はこのクソイベを回避できるならなんだってやってやるぞ。


「ほの囮の言うとおりだ! 告白はその、好きなタイミングで、だな、うん……」

「そ、そうよ! その、うん、そう思うわ……」


 海知は僕を、夏葉は海知を見た。僕は変顔でもしてやろうか?

 ニコラの思いつきはいつもアホな発言から始まり、そしてこの2人が少しはストッパーになりつつアホな方向に持っていき、最終的にアホな企画になりがちである。今回は外野2人が混じってるとはいえ、大筋に違いはないだろう。

 ならばそのダメージを最小限に抑えるのが僕の役目だ。


「じゃあお手軽に、スコアで1位になった人のいうことはなんでも聞く、とかにすれば?」


 ボウリングの勝敗は経験則に基づくところが大きい。何回かやってればそれなりに出来るが、やっていなければガーターの連続。つまり負ける側はとことん負ける。そんな逆転要素のないゲームなぞで罰ゲームなど冗談にもならない。

 ならば勝った側にボーナスがあるべきだ。それならモチベーションも上がるし、あんまり足の引っ張り合いとか発生しなさそう。何より僕がそんなに頑張らなくて済む。


「えー! それじゃ恩恵受けられる人少なくなーい?」

「けけっ、それじゃ俺っちいいこと思いついたべ!」


 ニコラの愚痴と情報屋の思いつき。ろくでもない発言が出てくることは目に見えていた。


「林間学校のキャンプファイアーって知ってるべ? あそこで踊ったカップルはその後永遠に結ばれるんだとよぉ?」

「きゃー! なにそれなにそれ!? ロマンチック! 最近読んだ少女漫画にもあった展開!」


 夏葉が反応する。田舎にはよくあるよな、こういうベタベタのベタな伝承。娯楽が無さすぎて物語を読み耽った結果、自分の近くでそういう伝承を生み出そうとして躍起になった先人がいるのだ。寧ろ田舎でこそそういう文化は流行りやすい。

 そして、田舎での伝承は広めた本人が思いもよらないような変な方向に悪魔合体することがある。


「で、結ばれたカップルが死んだ後もその場所に化けて出てきて、そこで踊るカップルたちに愛という名の呪いを振り撒くんだべな!」

「修学旅行定番ストーリーの悪魔合体じゃん」


 怪談と恋バナを混ぜるな。

 ともあれ、その呪いのキャンプファイアーがなんだって?


「だからよぉ、3位までの奴らは、このクラスでちょっといいなって思ってるやつをダンスに誘う。そんで誘われた側はそれを断らない、とかどうよ? これなら別に付き合うとかでもねえし、ちょっと手軽にロマンス味わえてクラス仲も深まるってもんだべ!」

「お、おお! 流石小滝だ!」

「小滝くん凄いわ!」


 人の恋路を見せ物にするという点では何一つ変わってないんだが……まぁさっきのよりはマシか。どうせ廃案になることはないんだ、このくらいが妥協案である。


「いいんじゃない? それなら別に乗ってもいい」

「およ、意外だね〜。ほの囮くん全否定派だと思った」

「クラス仲云々言うのであれば悪くない案だろ」


 ニコラはうんうん唸りながら悩んでいたが、全員の賛成票が投じられたためか、最終的には折れた。なんかまだ企んでそうではあるけどな。


「よっし! それで決まり! ぬふふ、勝つぞー!」

「ちなみにハンデとかはあるのか?」


 海知が尋ねる。レディーファースト、こういうさりげなく気を回せることが海知がモテる所以である。


「女子は先に何点か加点しておくのはどうかしら? それなら運動が苦手な子でも楽しめるとも思うし」

「あ〜それ助かる〜、私たぶん苦手だから〜」


 まぁ、こうしてると普通にクラスメイト思いのいい奴らに見えなくもない。これくらい平和なのであれば、こっちとしては有り難い限りだ。


「よーしそれはそれとして、下位5名には恥ずかしーい、服を用意しとかなきゃっ!」

「けけっ! 流石ニコラっち! 俺っちミニスカポリスをドンキで買ってくるべ!」

「な!? ニコラ!」


 こうなることも概ね予想できてたしな。

 トントン描写に話が進み、今週の土曜、つまり明日にはボウリング大会が開かれることとなった。あれだけギスギスしていたクラスLINEも、一度海知が声を上げればこの盛り上がりである。ナンバーワンカースト怖いめう。

 さて、やっと帰れるな。ボウリング大会のことは明日考えるとして、今日はゆっくりと樹海温泉に浸かるとして……。


「ねねね、ほの囮くん」

「……………なんだよ」

「困ったことになったよ我が助手」

「だからなんだよ……」


 月潟がちょいちょいと制服の裾を引っ張るものだから、思わず足を止めてしまった。月潟は少し困ったような顔をしながら、躊躇いがちに言った。


「私、そのぼうりんぐ? って初めてなんだけど、多分なにかの競技だよね? これ詰んだ? 詰んだかな?」


 最近こいつの頭脳プレーばかり見てきたからすっかり忘れていたが、よくよく思い出せばこいつ体力無いんだった。カラオケから少し走っただけで息を切らすレベルだ、ちゃんと人間らしい弱点があったことを喜ぶべきか、なんというべきか。


「負けて誰かに告白するゲーじゃなくなりそうだし、可愛い格好でもなんでもすればいいじゃんか。きっとモテモテだぞ」

「他人事だと思って……私、誰かに可愛い格好させるのは大好きだけど、自分がさせられるのは大嫌いなんよ」

「ぐう畜かよ……」


 そういうの凄いかみさまっぽいわ。


「てわけで明日はサポートよろしくねっ、相棒」

「嫌です、ナースでもポリスでも着てきてください」

「絶対に道連れにしてやるんよ、この恨みはらさでか〜」

「こんなことで仲間割れとか嫌すぎる……わかったよ、協力すればいいんだろ?」


 明日は思った以上に重労働なイベントになりそうだった。

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