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3章3話:勝利条件

 こうして一応月潟と組むことになったわけだが、実際問題これからのことを考えると心強い存在ではある。特に頭脳面は必要になる部分が多い。

 上機嫌な月潟を先ほどなんとかして引き剥がしたばかりだったが、月潟は未だに上機嫌だった。そんなに嬉しいか……?


「JOINTの件、アレはもう終わったってことじゃダメなのか……?」

「ダメダメだよワトソン君。正式に私の助手になったからにはビシバシ行くからね!」

「せめて『同盟関係』として対等な立ち位置で頼む……」


 月潟との関係は、『同盟関係』と言ってしまうのが適切だろう。なればこそ、彼女が上という状況は許してはならない。


「そもそもヤーさん達が副部長に薬物を卸してたのは何のためかなあ?」

「女子生徒たちを薬漬けにして、そいつらから金を巻き上げるためだろ。さらにいえば男根像を贈られてる以上、確実に街の花嫁を選出してることは明らかだ。それに関係があるんだとは思うが」

「ほの囮くんのお家にも花嫁さんいるんだっけ? 確か、君のお姉さん」

「姉と名乗る従兄弟な」


 そこは全力で訂正させてくれ。

 犀潟カノン、すでに25歳だったかわからないが、7年前に花嫁に選出されているからそうなのだろう。よくよく思い出せば、自称祖父母がいつも部屋で何かを拝む声が聞こえてきたが、アレは男根像だったのかもしれない。


「花嫁の選出はそんなに大変なことなの?」

「毎年5人は出してるはずだ。18歳になる見目のいい男を花嫁として共用物にする。お前があの時取り乱した光景の正体だな」

「…………あれは、良くないよ。花嫁は幸せなものなんだから」


 月潟が取り乱すのを見たのはあの時くらいだろうか。彼女の心の一端を垣間見た瞬間だった。何を思ってあそこまで動揺したのかは知らないが。


「ともあれ、ヤーさんたちが薬物を卸す理由は、お金儲けだった。この学校の子達は街の有力者なんかも通ってるって聞くし、そんな彼らは将来的に薬物の消費量は増えるだろうからね〜」

「………屑どもめ」

「街の花嫁選出で実績すら得たJOINTは、色んな人たちから援助されるようになった。この推理が正しいのであれば、やっぱりこの事件は終わってないことになるんだよね〜」


 それは、どういう意味だ?

 疑問符を浮かべる僕に対し、月潟は先んじて答える。


「だってそうでしょ? JOINTは実績があったから使っていただけで、それが潰れたのなら他の仲介役を求めるはずだよ。彼らの目的はJOINTのバックアップではなく、学生たちに薬を売りつけることなんだから」

「ーーーーッ! てことは、この後第二第三のJOINTが出てくるってことか……」


 警察が介入した以上、そこまで早く販路復帰に力を入れるはずがないが、いずれは新たな部活を作り上げて学生層の顧客を再度開拓しようとするだろう。

 そんなものを認めるわけにはいかない。僕の目の前で、あんなものが流行ることだけは絶対に許さない。


「一先ずは様子見だよね。私は私のネットワークを駆使して捜査してみるんよ。問題はそれよりもっと身近な方なんじゃない?」

「……ニコラのことかよ」

「私としてはほの囮くんが海知くんとくっつく事だけは全力で阻止させてもらうつもりだけど。でもニコラちゃんにはなんか変な力があるみたいだしな〜」


 薬物問題はひとまず置いておこう。

 最近あまり何もしてこなかったニコラだが、山の神事件が終わった今、再び何かを仕掛けてくるだろう。


「山の神関連は情報共有しない、それが同盟ルールだったよな」

「そだね、その穴を頑張って突いて、私を籠絡して見せてよ♪」


 山の神の力を持つがその記憶を持たない僕と、記憶を一部保有しているが力のない月潟は、お互いがお互いの保有する山の神絡みを欲している。故に山の神関連においてのみ、僕たちは『敵対関係』ということになる。

 とはいえ……流石にこの話だけは月潟にしておきたい。


「ニコラの背後には色恋の神っていう神がいる。人の好意や劣情を捻じ曲げてくる最低最悪の神だ。多分、『神の祝福』とか言うのを受けてないと、洗脳される」


 せっかくの同盟者を洗脳で失うのだけは嫌だ。一応の忠告は必要だろう。


「へぇ〜……色恋の神ね。外様の神ってことか〜。それで? 私は洗脳されちゃうのかな?」

「月潟がどういう立場なのかによるな。神、もしくはその代理人たる巫女なら影響は受けない、はず」


 全てかみさまの受け売りだ。だが月潟は安心したように息を吐いた。


「あ、ならよかった。私、多分巫女の状態だから」

「……………は?」


 巫女? 巫女だと?

 つまり、樹海にいた時の僕のポジションのことだ。今の月潟がそれに当たるのか?


「私はかつての山の神で、その座を今はほの囮くんに渡してるわけでしょう? でもだからと言って山の神の記憶を保持している以上、山の神に対して縁を持ってる。これだけなら、擬似的な山の神と言っても差し支えないんだろーけど、うん、まぁ来てもらった方が早いかな」

「何言って……」

「今日、うちおいでよ。多分その方がわかりやすい」


◇◆◇


「ど? 似合う? 似合うかな?」

「なーーッ!?」


 神社に着いて待つ事20分。やがて月潟宅から出てきた月潟を見て、僕は驚きの声をあげた。

 いや、まぁここが神社で、有栖さんが神主であることを考えれば至極当然なのだが……。


 月潟は、白い小袖に緋色の袴を履いていた。つまり、巫女服である。


 普段の制服とはまた違った装いゆえ、思わずフリーズしてしまった。

 ハーフのような顔立ちかつ月光色の髪色を保つ彼女がその服を着ると、どこかアンバランスながら神秘的かつ幻想的な美しさがある。浮世離れしている、と言い換えた方がいいか。


「かわいい?」

「ーーッ!? まぁ、悪くはないと、思う」


 無理やり捻り出した当たり障りない感想。だが月潟はそれで満足しなかったようだった。


「ねぇ、ねぇ、可愛い?」

「なんで言わせようとすんの!? お前ほどの顔で巫女服着たらそりゃその感想出るだろ!」

「………ふーん、ふふっ、そっか。ふーん」


 ニマニマとにやけた笑みでこちらを揶揄う月潟に、僕はんんっ、と咳払いをして場を整えた。


「まぁわかった。月潟は巫女だから色恋の神の影響は受けない、と。じゃあ遠慮なくニコラにぶつけられるんだな」

「ニコラちゃんを攻略する手伝いくらいはできると思うんよ〜?」

「ギャルゲーみたいな言い方やめて……。ともあれ、こっちから何か出来ることはあまりないんだよな。アイツが何かやらかした後で、その反撃を喰らわせるのが最適か……」


 そもそも色恋の神というのが何なのかもわかっていない。どこの神なんだよそいつ。


「色恋の神って言うのは、正式名称なのかな?」

「知らん。かみさまがそう言ってただけだ」

「だとしたら別の名前で、祀られてるのかもね」

「……考えてなかった」

「色恋の神について、詳しく教えてくれる? この辺は共通の敵だし、出来れば情報をくれると助かるかな〜」


 色恋の神については、情報を共有した方がいいかもな。山の神の力を欲する僕たちにとってはある意味共通の敵だし。

 それから僕は色恋の神についてわかっていることを打ち明けた。現状で色恋の神について知っていることは以下のとおりだ。


・色恋の神という名前である

・山の神の力を強奪し、『街を支配する力』を使って北湊を好き勝手している

・ニコラを巫女として、海知に『神の祝福』を与え、彼を中心とする世界ーーゲーム盤を作り上げている

・外様の神であり、かみさまが眠っている間に活動していた

・滅亡後の北湊ではかみさまが「殺した」と言ったので、殺すことのできない相手ではない


 この程度だろうか。

 正直、これだけでは実態も掴めず何から手をつけていいかも分からない。かみさまはその実態を知っていたからこそ、色恋の神に対しても憎悪を抱いていたのだろう。


「……なるほど、ね。なんとなく見えてきたし、少し心当たりもあるかも」

「……は?」


 などと思っていたら、月潟がとんでもないことを言い出した。心当たりがある、だと?


「色恋の神について教えてくれたから、私も少しだけ開示するけどね。山の神は古くからある信仰なの。未来の私が北湊を滅ぼしたように、その力は絶大なもので、それを支える信仰心はこの土地そのものに根付いている」

「それは、そうだけど」

「君は『かみさま』というわかりやすい姿を見ているから想像しづらいけど、言い換えれば山の神は信仰として続いてるの。つまり、それを奪ったということは……。

 なんらかの宗教が新規で入ってきたことを意味するんだよ」


 ーーッ!? 神とか、彼岸とか、駒とか、ゲーム盤とか。超常的なものを見過ぎて思い付かなかった。

 そりゃそうだ。本来、信仰は目に見えない。古くからある信仰に対して、その信仰を奪う形で勢力を拡大する。

 神話の世界で考えすぎていた。本来、現代社会はもっと形而上学的思考で考えられるものだ。


「………新興宗教の、参入ってことか?」

「山の神の信仰を奪うほどの新興宗教が色恋の神の正体なのだとしたら、意外とその実態を掴むのは簡単だと思わない?」


 彼女の言葉は尤もだった。

 古くからの信仰を奪う新しい宗教。それが具現化して力を振るってるだけなのだとすれば、色恋の神は得体の知れない、何もわからない存在感などではない。

 


「北湊を支配するほどの信仰。その源を滅ぼしさえすれば」

「色恋の神は……ころせる?」



 明確な勝利条件をみつけてしまった。きっと僕1人ではこの結論に辿り着くまで途方もない時間を浪費しただろう。

 それをこの少女はいとも容易く……。


「ま、仮説だけどね〜。でも調べてみる価値はあるよ。ゴールデンウィークを使って少し調べてみよっか」

「僕も、自分なりに調査はする」

「だねっ! 当分は学校の方にも注力しないとだし、ほどほどに。GW明けすぐだったよね? 林間学校」

「あ…………」


 すっかり頭から抜け落ちていたクソ行事。そういえばそんなものもあったな、と今更ながら憂鬱度が増していった。


「でも楽しみだね〜、私お友達とお泊まりなんていつぶりだろ〜!」

「お前のいうお友達は誰なんだよ……」

「海知くんはとりあえず無害だし、夏葉はいい子だし、他のクラスの子もそんなに悪い子ばかりじゃないからね」

「さりげなくニコラと情報屋を外したな」

「分かり合えない人間は存在するんだよ」


 月潟が氷のような笑顔に切り替わったので、僕はこれ以上何も言わないことにした。


「あ、ほの囮くんは友達じゃなくて、相棒兼彼女だから1番楽しみ!」

「勝手に彼女にしないでもらえますかね……。色々と言いたいことはあるけど、女子部屋と男子部屋は別れてるから一緒にお泊まりとかじゃないし」

「え!? そなの!? がーん……」

「お前は林間学校を何だと思ってるんだ」


 私の彼女が〜、男子部屋に〜と嘆く月潟。まぁ、こいつがいれば少しはマシな林間学校になるか。そう思うと、自然と口角があがる。絶対言わないけど。

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