3章1話:生徒会長
4/29(木)の祝日、貴重な休日を一日使ったことの結論から述べよう。
ーー僕の交渉は成功した。
何の話かと言うと、ち囮の転院に関する話である。
元々この山の神事件というのは、犀潟家から母の通帳を奪還し、使えるお金を増やした上でち囮の身の安全を確保するという目的のために引き起こした事件なので、ここでコケたら今までの努力が水の泡になるところであった。
ちなみに、叔母の入院先はなんとち囮の入院先と同じだった。叔母の病室はまさかの個室で、これは理由を聞いたら納得した。……叔母は錯乱状態が酷く、部屋を移されたのだとか。余程トラウマだったのだろう。
さて、僕が転院に踏み切ったことには理由がある。時系列に沿って説明しよう。
まず、ち囮は原因不明の病で入院している。脳に異常はなく、外傷もないのだが、常に意識がなく目が覚めない。まるで『眠り姫』のようになってしまっている。
だがそれ故に大掛かりな医療機器は必要なく、本来ならこんな最高クラスの大病院で診てもらう必要はない。北湊の病院は何故か他地域より入院費が高くなる傾向にある。故に過去にも叔母に転院を願ったのだが、その度にとある理由から拒否され続けていた。
その理由というのが、まぁ俗にいう忖度である。
犀潟家は実を言うと少しだけ有名な家だ。あの足痛めてた自称祖父はかつて市議会議員を務めており、それもあってかこの病院の院長と仲が良い。現役時代にこの病院とズブズブであり、それもあってか家族の入院先はここと決められている。
とは言え色々融通が効くのは"本当の家族"だけで、ち囮の入院費は"北湊価格"でぶんどられた。犀潟家の面々は、母の通帳からち囮の入院費を定期的に収めることで、自分たちはお金を払わずに彼らと関係を維持し続けていたというわけだ。うーん、カス。
だが今回の件で通帳が盗まれ、叔母が長期入院することになった。何が言いたいかと言うと、母の貯蓄から金を引き出せない&叔母が入院するというダブルパンチの結果、ち囮をこの高額病院で入院させ続けるメリットがなくなったのである。
「いいから……早く進めてちょうだい……なんでもいいから、はやく……」
結果、驚くほどあっさり北湊の外にある病院への転院が実現した。人が変わったように憔悴する叔母と、同じく疲れが目立ち覇気のない自称叔父によってち囮の転院手続きは進み、ゴールデンウィーク中には諸々の手続きが完了する見込みだ。
北湊の外に出すことで、少なくとも色恋の神やニコラの影響力を排除することができる。アレの洗脳に等しい能力が効力を発揮するのは北湊だけだ。でなければ世界はもっと酷いことになっている。
「ふぅ……」
ひとまずようやく腰を落ち着けることが出来る。だがこれは始まりだ。僕はち囮という人質を遠ざけることで、色恋の神との戦いを意識せざるを得なくなる。それにもう1人……。
ーー月潟琵樹。
かつての山の神であり、僕を救ってくれたかみさまの一部でもある彼女は、僕に敵意はないものの確かに対峙すべき存在だ。捉えようによっては色恋の神より厄介ですらある。
彼女は僕を救うために僕と対峙しているのだ。僕を害そうとするニコラたちよりも扱いずらいことこの上ない。
「ま、当分は話すこともないか」
アレだけ啖呵切ったんだ。明日行けばまたゴールデンウィークだし、当分話さないかと思うと少しは気が楽になる。
などと、思っていた僕が馬鹿だった。
◇◆◇
「んななぬぬぬぬ〜zzz」
「……おい、おい」
「うののの、んぬ〜」
「朝弱いならもういっそ寝坊してこいよ、なんで無理して朝起きて登校しながら寝てるんだよ」
「〜〜〜〜zzz」
「あ、もう聞いてねえやこいつ……」
朝から何の躊躇もなく僕に絡むと、歩きながら僕の肩にもたれかかって眠る月潟。それ寧ろ疲れない?
そんな僕らの絡みを見ていた海知が、無理やり引き剥がしにかかる。具体的には、「琵樹、俺がおぶってやろうか?」と聞いたら、月潟はパチリと目を覚まして、「あ、要らないよ〜」と冷めた目で返していたのが印象的であった。
「ほの囮最近サボりすぎよ! 中学の時は無断欠席なんてしなかったじゃない、どうしちゃったのよ」
「いや普通にお見舞いだって。医者から呼び出されてたんだから」
「そ、そうなのか。えっと、お母様とお父様は大丈夫なのか?」
「お前の呼び方には悪意を感じる……」
4/28(水)は月潟家に居たわけなので当然嘘なのだが、色恋の神レーダーがないのでニコラでも見破ることはできない。
「で、JOINTの方はどうなったんだよ。僕アレから家のことでゴタゴタしてたからよくわからないんだけど」
「残念だけど、色々と大変なことになってるぜぇ、けけけっ! まぁ部長と副部長、それに役職持ちのほぼ全員と大半の女子生徒が逮捕されたわけだし、しゃーねぇよなぁ」
「で、お前はなんでいるの? 仮釈放中?」
「俺っち結果陰性だったから!」
情報屋曰く、あの後北湊警察はちゃんと仕事をしたらしい。部長らが使っていたラウンジに捜査員が入り、一網打尽にされたんだとか。
部長・副部長らは余罪が多すぎてそのまま少年院送りに。薬物中毒と化していた女子生徒らは全員入院のため休学・退学という、なんとも後味の悪い結末に終わったわけだ。
ともあれ、僕が部員を殴り倒したあの時の薬物、あれは女子生徒が回収していたわけで、彼女らの誰もが完全な被害者というわけではない。強要されていたものもいれば、薬にハマって自ら罪を増やしていったものもいよう。僕としてはあまり気にしていない。
「タダでさえ女子少ねえのにさらに減っちまうなんて悲しーべな! 犀潟っち、やっぱ女子になんねー? ほれ、まだスカート持ってるべ!」
「ははっ。お前が履けよ緊縛趣味ストーカー」
「お、縛られたいん!? 俺の緊縛テクでメス顔見せてくれたら考えんべ!」
「きっっっっっしょ」
例の一件で副部長に亀甲縛りをしていたクソキモストーカーは、朝から絶好調だった。情報屋のそんな様子に苦笑いしつつ、海知は女子に両腕組まれて良いご身分である。
校門に着くと、何やら持ち物検査とかをやっていたので列に並ぶ羽目になった。まぁあれだけ一斉に逮捕されればそりゃそうなるか。
列に並びながらも、周囲から黄色い声が上がる。なんか海知を見る女子……と男子の目がいつもより多いな。
「海知くん、あのJOINT副部長をワンパンで倒したんだってさ! かっこいいー!」
「獣のように襲い来る大男、陵辱されるほの囮きゅん! それを助け出して優しくキスをする王子様ぁ! あぁん、私もされてみたいっ」
「今年の夏コミは決まりね!」
「俺も副部長に野獣のようなキスをされたかった」
「わかる……」
「え、そっち!?」
えー、ここが北湊の観光名所:北湊動物園です。雨の日だろうと雪の日だろうと、年がら年中発情期のお猿さんが見れるので、満足すること間違いなし。
しかしわかってはいたけど海知の株が上がりまくっている。どうやらストーリー的には海知と月潟がタッグを組んで犯人を暴き、副部長をけちょんけちょんにして女の子たちを助け出した……ということになってるらしい。僕はその女の子枠だな……。
「きゃあああっ、月潟ちゃんと目あった!」
「先輩……今日も綺麗だ……」
「まじ俺らのアイドル……」
今回の立役者ということで、月潟の評価も上がっているらしい。まぁ確かに美男美女がこんな漫画みたいな展開で事件解決とかしちゃったら盛り上がるのは当然だろう。不憫だな、ヒロイン役同士仲良くしよう。
「ほの囮……? なんで私をそんな憐れみの目で見てるの……?」
「夏葉、まだ負けてないから頑張れ」
「なにを!?」
さて、この事件で終始なにも関与してこなかったニコラだが、どうやらその裏で悍ましいことをやっていたらしい。
校舎に向かう途中、北湊では珍しくも何ともない公開いちゃらぶが空き教室で繰り広げられていたのだが、その相手というのが……。
「はぁ、はぁ、もう我慢できねえよ」
「や、やめろ……俺とお前は敵同士で……こんな」
「うるせっ。お前がエロいのが悪い」
おい、観察してないで行くぞ……遅刻するぞ。
「あ、あれ2年生の有名な不良よね? 相手は敵対する不良グループ『馬流美存』のリーダー!? きゃああっ! 敵同士の禁断の恋よ!」
「ぬふふっ、夏葉、嬉しそうだね! ボクも頑張った甲斐があったよ、ぬふふふふ!」
「お、俺もいつかほの囮と、あんな風に……」
「けけっ、お盛んだねぇ!」
「〜〜〜〜zzz」
この暇な期間で、2年生の不良カップルを作り上げることに成功したらしい。ケンカっぷると言うと聞こえはいいけど、おそらくニコラによって色んなものを捻じ曲げられたのだろう。相変わらず惨いことをする。
放課後、JOINTの部室に向かうと、何やら引っ越し前のマンション前の如く家具やら何やらが廊下に出されていた。そして教室の中には見かけない連中がいる。
その中の1人、長身で黒髪ロング、吊り目の美人は一際目立っていた。日本刀を持たせたくなるビジュアルをした女性は、海知を見つけると嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ふむ、来たか海知」
「会長!? なんでここにいるんですか?」
「まぁな、後処理というやつだ。君も災難だったな。入学早々こんな事件に巻き込まれて」
侍の如き硬派な喋り方をするこの女性、一度見たことあると思ったら、柏崎ハーレムの1人じゃないか。剣士タイプの生徒会長、剣道部と二足の草鞋を履く質実剛健なこの人……確か名前は大白川生徒会長だったかな。
「む、夏葉やニコラもいたか」
「あはは、会長ご無沙汰してます」
「ぬふふふっ、今日もすぐ快楽落ちしそうな……げふんっ。凛とした佇まい。憧れちゃうなぁ、ぬふふふ」
めっちゃ馬鹿にされてるじゃん……。
「ありがとう2人とも……おや、そちらの可愛らしいお嬢さん方は初めてみる顔だな。だが君は流石に知ってる。月潟琵樹、そうだろう?」
「およ、ご存知でしたか〜。てへへ照れるぜ〜♪」
「JOINTの連中をとっ捕まえたのは君だと聞いている。ありがとう、生徒会長として礼を言わせてくれ」
「いえいえ〜」
「それで、君は……」
生徒会長の視線がこっちに向いたので、僕はさっさと自己紹介を済ませてしまうことにした。
「犀潟です。それで、なんですこの騒ぎは」
「ああ……なんでも部室からも違法薬物が発見されたようでな。本当に部活まるまる腐っていたのだな、ここは」
「ふーん」
初対面、話流せば、以後はモブ
ほの囮、魂の一句である。この負けヒロイン一直線みたいなやつに関わってる暇はない。
さて、時期に警察がやってきて、色んなものを押収していった。どうやらあの部室は薬物塗れだったようで、至る所から薬が発見されたらしい。
「おっ! 嬢ちゃんじゃねえか!」
……学校でそう呼ぶのだけはやめてほしかったぞ。
嫌そうな顔をして振り返ると、中之島警部が朗らかに笑っていた。
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