2章26話:決着
移動は副部長の車だった。ちなみにコイツは2年生だが留年してるため18歳らしい。だが免許は持ってないとかなんとか。もうこの時点で免許不携帯、違法薬物濫用、飲酒運転、未成年飲酒と4倍役満である。
舞台に着くと僕は車から降りて上着を脱いだ。あたりは既に暗くなり始めており、それゆえに真っ白な着物というのはよく映える。借りたウィッグは長髪のものだが、そもそも僕はセミロング以上あるので要らないんだよな。まぁ使うけど。
ともあれこれで山の神の完成だ。副部長は満足そうに僕を見ていた。
「っ!?」
「今すぐ抱きてえが我慢だ我慢。俺と一緒にスリル味わおうぜ、ほの囮。がはは! 行って来い」
僕は指示された通り、裏路地を歩く。ゆっくり、ゆっくりとターゲットに近づいていく。この細い路地は十字路のようになっており、ターゲットはちょうど十字路真ん中くらいにある排気口のすぐそばにいた。
無精髭と土色の顔色をした不健康そうな商人は、暇そうにぼーっとしていた。僕は息を殺して近づいていく。そして、
「お兄さん、ねぇ、お兄さん」
「……ん? なっ!? な、なんだお前……!」
「お薬、ちょーだい」
事前に渡された包丁を取り出し、ゆらゆらと近づいていく。商人は恐怖からか思わず腰を抜かし、持っていた商品を取り落とした。
「き、きいてねぇ! こ、こんなマジもんなんて、きいてねぇ!」
「ねえ、ねえ、ねえねえねえねえ、私にちょーだい、ねぇ!」
「ひっ、ひぃぃぃぃい!!!」
思わず逃げ出そうとしたところ、商人は崩れ落ちた。後ろから近づいてきた大男の手元にはスタンガンが握られており、それが商人の首筋に当たっていた。
「は、はは、がははは! 今までで1番ちょろいぜ! ヤクゲットー! はは、ははは! よくやったほの囮! よし、これで今日はお前と」
「そこまでだ!」
あっけない成功に喜ぶ副部長の言葉を遮るように、正義感に溢れた少年の声が響き渡る。
声の主はもちろん、主人公:柏崎海知だった。
「全て見ていました、副部長。あなたが、山の神だったんですね」
「あ? ああ、ああ、あああ、見ちまったか。見ちまったよな、海知。お前、なんでここにいんだ? ああ? なんでいんだよ!?」
野太い声で怒鳴り散らす副部長。その目は憎しみで歪み切っていた。
「あんたは、薬の売人を襲って薬物を奪っていた。そしてそれをサークルの女子たちに売りつけて稼いでいたんだ。
やり方は単純、女子たちに山の神の格好をさせて売人の注意を惹き、その隙に後ろから攻撃する。それで得た薬物を無料で提供することが、幽霊役に徹した女子への見返りだったんだな!」
「……が、がは、がはははは!!! 全部バレちまったか! そうさ、そうとも! 女ってのはどいつもこいつもバカでよぉ。少し薬物ちらつかせれば自分が特別になって気持ちでのめり込んで、最後には薬物欲しさに暴力も厭わなくなる! 俺はなぁ、そうやって堕ちてくオンナを見るのが大好きなんだよ! そんでもって堕ちたオンナを抱くのはもっと好きだ!」
「お、お前……」
海知と副部長が対峙する。しかしアレだな、その長台詞は月潟が用意したやつだな。たくさん練習したんだな、お疲れ様。
「海知、お前は良い後輩だ。こっち側に来い。部長も、他の役員も、みんなみんなみんな、やってることだ。女をヤクチュウにして薬を買わせ、払えないやつには暴力で薬を奪わせる。楽しいぜぇ? お前もやろう。俺が見込んだ男だ。そうすりゃほの囮も貸してやるよ」
「断る! それはれっきとした犯罪だ! あんたに、罪を償わせる!」
「……………はぁ。じゃあ殺すしかねーな。あー、また殺すのかよめんどくせー。兄貴、怒るだろうなぁ」
副部長は腰のベルトから大型のナイフを取り出した。海知は一切動じずに戦闘態勢を取る。
「俺の兄貴はヤクザでよぉ。だからお前なんて殺しても全然問題ねえんだ。ちょうどこのナイフを試してみたかったんだぜぇえ!!」
海知に使ってナイフを振り下ろす副部長。そんな副部長を前に海知は一歩も引かずに、その動きを見切り、そして、
「がぁ! あぁっ!」
「遅い!」
掌底を加える。
脳が揺らされ、一瞬で意識を刈り取られる副部長。そのまま巨体を地に伏し、ぴくりとも動かなくなった。
「ふぅ」
「よっ! 流石海知! 俺っち感動したぜ!」
「幼い頃から武道を習ってた甲斐があったぜ」
主人公あるある、謎の武道を習っている。
例に漏れずコイツも無駄に喧嘩が強い。何か不思議な力が働いているのか、基本的に海知が負けたのをみたことがないので、今回の事態も安心して見ていられた。
「ほの囮! 大丈夫かぶぇえ!?」
「ほの囮くん!」
海知を押し除け、月潟が駆け寄ってくる。慌てて眼鏡をかけた。あっぶなぁ。
「大丈夫!? 抱かれてない? メスの悦びを知っちゃってない!?」
「言い方に凄まじい悪意を感じるぞ。うん、特になんともない」
「ん、眼鏡外してよ、顔よく見えない」
「くそっ、離せマジでやめろ!」
月潟が眼鏡を奪おうとしてくるので僕は必死になってそれを拒否した。無論山の神っぽい格好をしているから犀潟ほの囮=笹神幽々火とバレる事態も恐れているが、そんなことより、
「ぐぉおおぉぉぉ!!!」
「な!?」
「うん、知ってた……」
主人公あるある、爪が甘い。
この後は逆上した副部長に僕が人質に取られ、そのあと海知がさらなる武術で助け出してハッピーエンドである。
だがわざわざお約束を待ってやる意味もない。しかもここには月潟もいるんだ、万が一のことがあったら許さない。なので、
「ほの囮ぁぁぁ! がぇっ!? ご、ぉぉ……」
「良い夢みれたかよ? クソ野郎」
先ほど奴からパクっていたスタンガンを使用し、奴に電流を喰らわせてやった。流石にこれでノックアウトのようだ。
「無事か? 月潟」
「う、うん……ありがと」
どうやら副部長の反撃は予想外だったらしく、月潟は僕の着物の裾を掴んだまま、暫く固まっていた。
やがて海知たちがこっちにくると、月潟もパッと裾を離してもにょもにょと何かを呟いている。何してんだコイツ。
「わりわり犀潟っち。怪我ないべか?」
「クソ無能が、お前今日なんもしてないんだからせめて超絶キツく縛りやがれ」
「きっちぃなぁ。だが! 俺っちの秘技:亀甲縛り、見せてやんべ!」
とかいって、情報屋は副部長を縛り始めた。
ああそういえば忘れてた。僕はヘアピンを取り出すと、副部長の制服の裾に留めた。
「これであんたから貰ったものは全部なくなった。安心して豚箱に入れられるな」
これで吐き出したいことは全て吐き出せただろう。ふっ、と一息つくと、海知が何か言いたそうにこっちを見ていた。
「ほ、ほの囮。強いんだな……」
「ん? ああ。まぁ。でも助かったよ海知。流石に掌底は効いたでしょうや。不覚にもかっけえと思ってしまったぞ」
「ほ、ほんとか!? お、俺、お前が無事でよかった!」
「ぐぇぇぇ」
結局海知に抱きしめられる羽目になった。おいお前どこ触ろうとしてる!
「あ、す、すまん。その、ほの囮の和服かわいくって……」
一枚絵になってそうなシーン。凄く嫌なのでさっさと夏葉を呼ぶことにした。
「夏葉、そっちは?」
「う、うん。この人も一応縛り終えたわよ。あと警察もちゃんと呼んでおいた」
「情報屋の100倍優秀だ。さて、あとは警察と合同で掃討戦だな。JOINTを滅ぼしてやろう」
「ほ、ほの囮、笑顔が怖いわよ……」
◇◆◇
その後、駆けつけてきた警察官の中には例の刑事もいた。
「あ、中之島刑事」
「あれ? こないだの嬢ちゃん!」
「坊ちゃんだっつってんだろ」
「と、月潟ちゃんじゃねえかい! 元気してたか?」
「わ〜中ちゃんだ〜! おひさ〜」
いえーい! とハイタッチする2人。顔見知りだったのか。
いや待て、つい最近無線を民間人に聞き耳立てられた無能警官が居たな。前に月潟が事情聴取で連れてかれた時に担当してたやつって……。
「お前か……」
「ん? どうした嬢ちゃん? つーか随分と可愛い格好してんだな? 自宅みたいにメガネは外さねえのか?」
「外さねーよ。ちゃんと捜査してくれ、今事情全部話すから」
その後、パトカーの中で僕たちは中之島刑事から事情聴取を受けた。1番驚いたのは、こいつ平の刑事じゃなくて県警の警部だってことだった。ほんとかぁ?
事情を全部話し終えると、中之島警部は口を開いた。
「嬢ちゃんがやったことは、警察官からすればただ一言、"大人に任せなさい"に尽きる。あまりにも危険すぎだ。
だが、実際学校の話だと大人を頼りずらいのもわかる。だから、こう言おう。
よくやった! 大手柄だぞ、嬢ちゃん、月潟ちゃん!」
頭をワシワシと撫でられる僕と月潟。この後念のため薬物検査をすることになるだろうけど、そこで僕らが薬物汚染されてないことはわかることだろう。
そして、これで終わりじゃないことも伝えてある。サークルの部長がとあるラウンジで女子たちに麻薬を売りつけていること、飲酒を強制していること、そして恐らくヤクザと裏で繋がって薬物取引をしていたことなど、全て打ち明けた。
警察というのは特に未成年に関しては現行犯でないと中々難しいものがある。だから副部長の件だけはどうしても現行犯を演出する必要性があった。
だが、部長たちは違う。恐らく今頃違法なパーティーを開いていることだろう。それは警察に任せてしまえばいい。
ということで月潟と夏葉が事前に調べていてくれた部長たちの行先に、何台ものパトカーが急行していくこととなった。その間僕たちは警察署にてゆったりと事情聴取が行われ、薬物検査をしてもらうこととなる。
その間も中之島警部の計らいで、美味しいお菓子を食べれたりしていた。
開放されたのは10時頃だったが、そんなに嫌な気分ではなかった。歩いて帰ろうかと思ったが、中之島警部が送ってくれるとのことだったのでお言葉に甘えることとする。
「他の友達はそれぞれ別の刑事が家まで送り届けるぜ。月潟ちゃんと嬢ちゃん、そのまんま自宅でいいか?」
「あ、ほの囮くんは今日うち泊まるから2人ともうちでお願いしまーす」
「は!?」
「ほい来た、前のとこだよな? にしても、嬢ちゃん、こんな可愛い女の子落とすなんて、お前もやるなぁ!」
かかか! と快活に笑う中之島警部。なんかすごくムカつく。
「ちょっと待て!? なんか勘違いしてるだろお前! あと僕は家に」
「ほの囮くん、お願い。少し話そうよ」
「……………わかった。中之島警部、あんたの考えてる関係じゃないから。そこは本当に」
「あーいいっていいって、思春期ってのはそういうもんだよな。わかるぜ嬢ちゃん。同じ男として気持ちはよーくわかる!」
「じゃあまずその嬢ちゃん呼びをやめろ!」
中之島警部に揶揄われつつ、僕たちはどんどんと暗い方へと進んでいく。あれ? このルート。見覚えがあるような……。
見覚えなんてレベルじゃない。ここは、いつも僕が使ってる道だ。この先に家なんてあったか? いや、そんなものは見たことない。ただ1つ、例外を除いて。
「ほれ、着いたぞ。上までは送らなくていいかい?」
「うん、大丈夫、ありがとね中ちゃん!」
「おう! じゃ、2人とも、なんかあったらまた呼べよ!」
中之島警部の快活な声がもう頭に入ってこないほど、僕は混乱していた。だってここは、僕がよく知っている、
ーー樹海の入り口:翠ヶ淵神社の石段前であった。
「月潟、お前……まさか」
「少し話そっか。今夜は月がとっても綺麗なんだよ?」
「………………」
「そう警戒しないでよ。私は本当に話したいだけなんだ。ほの囮くん。
いいや、
『笹神幽々火』ちゃん」
「ーーーーッ!? おま、え……」
月下に咲う月光色の少女は、いつもの笑みを浮かべて手を差し出してきた。
「ようこそ我が家へ。よろしくね、大大大歓迎するよ、幽々火ちゃん♪」
あの日、かみさまに出会ったあの時と全く同じように、彼女は言ったのだった。
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