2章25話:笑劇のはじまりはじまり
「ああおはよう、昨日はお楽しみでしたね」
「な、何もなかったからな! というかほの囮、俺が起こしたかったのに……早起きなんだな」
「朝ごはん食べたいじゃんか。ほい、一応できてるから」
自称母が食卓から消えたので、本日の朝食は僕が作ってます。卵焼きとサラダ、ソーセージ、ご飯と味噌汁。一般的な朝食である。
「……じー」
「………なんか用?」
「いやその、エプロン姿のほの囮……良いと思って」
「わかる、お兄ちゃんお嫁さんにしたいもん」
「早く顔洗え。僕先に行くからな」
海知と犀潟ヨハンは意気投合したのか、2人してアホなことを言っていた。まぁ昨日リビングで3人で寝てたしな。犀潟カノンは真っ裸になってたから流石に蹴飛ばしたが。
「え、美味しい!? お兄ちゃん料理めっちゃうまい!」
「毎朝俺の味噌汁作ってほしい……」
「あぁん、夜の運動した後に沁みるわぁ」
「先行きまーす」
この空間にいると気が狂いそうだった。
昨日泊まるといって聞かない海知だったが、一体いつまで泊まるつもりなのか。今日もどうせ登校メンバーにいるであろう奴の義妹:柏崎真冬に回収してもらおう。
「およ? 死んだ目してるよ〜?」
「お前もいつも通りねむそうな眼してるからな?」
月潟を先頭に、夏葉・ニコラ・情報屋・柏崎真冬・京ヶ瀬千秋の6名がぞろぞろと向かってきた。
他の柏崎ハーレムはいないらしい。柏崎真冬は海知の義妹で無口系ロリッ子。京ヶ瀬千秋は金髪ツンデレツインテお嬢様だ。
「あんたの家に海知が泊まってるってほんとなの!? 不潔よ不潔! 2人でナニしちゃったのよ!?」
「む、お兄ちゃん、返して」
「うん、マジで連れて帰って」
突っかかってくる京ヶ瀬と、不満そうな柏崎真冬。ごめんね、僕のせいで君を1人にしてしまって。この子に罪はない、お兄さんはちゃんと家に返すからね。
「返さないなら、真冬も泊まる」
「ほんっとにやめて……まじで返すから、要らないから」
「さっきから海知に失礼でしょ!? そ、それならあたしの家に泊めてあげなくもないんだから!」
「どっちでもいいから連れて帰って!」
この際どっちでもいいし夏葉でも情報屋でもいいから!
「悪い待たせたな! おっ、真冬どうした? 寂しいのか?」
「うん、真冬もここ泊まる」
「2人で柏崎家に戻れや。両親海外出張だろ? 妹1人にすんな」
「いや、今俺の家にはその、何人かで住んでるから……」
は?
「そうよ! 今はあたしも住んでるし、夏葉も毎日泊まりにくるし、他にも何人も女の子住んでるんだから!」
「ぬふふ、海知モテモテだよねー」
ゲボ吐きそう……。
結局海知はなんとか帰す事になったけど、本当に柏崎ハーレム恐るべしだわ。
◇◆◇
相変わらずクラスの雰囲気は最悪だが、海知の周りだけは平和を保っている。正式に言えば最悪なのは男女間である。
アレ以来クラスの一部男子と女子の対立となったらしく、なんか派閥争いみたいなことが起こっていた。具体的には海知に取り入ったもん勝ちだ。お陰で海知の周りには人が絶えない。
「なぁ海知、サッカーしようぜ!」
「ううん! 海知くんこっちでお弁当食べようよ!」
「あん? 今俺らが海知と話してんだけど」
「は? チー牛は話しかけないでくんない?」
なんて醜い争いなんだろう……。これ林間学校大丈夫かねえ。いや僕の知ったことではないけどさ。
「あ、JOINT行く前に少し話あるので、残ってくれるかな海知くん」
放課後になって海知を呼び止めた月潟。ニコラはいつも通り2年生のヤンキーにご執心だったのでいない。教室には月潟、夏葉、情報屋、海知、僕の5人だけだ。
「それで、どうしたんだ琵樹?」
「んーっとね。結論から言うと、山の神事件の犯人が分かったから、犯人を罠に嵌める協力をして欲しいんだよね」
「な!? 本当か琵樹! 一体誰が」
誰もいないとはいえ、声がでかいんだよお前……。
「それは罠に嵌めてからのお楽しみだよね、うんうん。確固たる証拠を掴むには、現行犯逮捕が1番。と言うことで、協力してくれないかな?」
「わ、わかった。何をすればいいんだ?」
「海知くんは荒事担当の取り押さえ役。小滝くんもそうだね。私と夏葉は共犯者の場所を確認しつつ2人の援護」
「わかったわ。でもその、ほの囮は……?」
夏葉がちらりと僕を見た。僕は月潟を見て頷く。
「『山の神』役、だな」
「正解〜。これはほの囮くんにしかできない」
「ちょっと待ってくれ! どう言う意味なんだ!?」
「そのままの意味だよ。ほの囮くんには犯人と一緒に山の神役をやってもらう。その上で私たちが犯人を現行犯逮捕する。単純明快でしょ?」
月潟はすらっと言い切った。海知はそれに反発する。
「危険すぎる! ほの囮じゃなくて俺がやる!」
「ダメなんだよ。これは本当にほの囮くんしか出来ない。私たちがやることは、ほの囮くんが危険になる前に犯人を止めること」
「海知。そういうことだ。というわけで、全力で僕を助けろ。任せたから」
何か言いたげにしていたものの、月潟の迫力に負けて海知は渋々了承した。各々役割分担を確認したところで、タイミングを決める。
「今日犯行を行うとは限らないけど、どうかな?」
「いいや、犯人は今日確実にやる。ていうかやらせる」
「それが聞きたかった。それじゃ決行は今日。みんな、覚悟しといてね」
この場の5人全員、こくりと頷いた。
◇◆◇
「おっ、来たかほの囮ぁ」
「副部長、こんにちは」
「お前んち、襲われたらしいな? 大丈夫だったのか?」
「お陰様で。でも怖かったので、今日は遊びたい気分ですね」
「はは、いいねぇ。じゃ、今日はおもしれぇこと教えてやるよ」
そう言って副部長は僕の肩を抱いてきた。そのまま胸に手を伸ばす。
「ストップ。海知いますよ?」
「いいじゃねえか、見せつけてやろうぜ」
「さらしで潰した胸なんて揉んで楽しいですか?」
「がはは! それもそうだ。揉むのは脱がした時だな、楽しみだぜ」
副部長は下卑た笑みのまま今日も女子たちに集合をかける。
そしてそのまま部屋を出て行こうとした。が、海知が目に入ったのか、話しかけようとした。
「おう海知ぃ。お前あんまり独占欲とか出さない方がいいぜ? これ先輩からの忠告な」
「え、で、でも……」
「ほの囮も他の交友関係作った方がいいだろ? な? お前が檻に入れちまうのは良くねぇよ。ま、考えとけや」
うーん、性欲に裏打ちされてなければそこそこ正論というかもっと言ってやって欲しいんだけど、残念ながら性欲に支配されての発言なんだよなぁ。
「ひゃぅ!?」
「おっ、可愛い声」
お前ぶっ殺すぞクソが! いきなり尻揉むとかイカれてんのか!? 男の尻だぞ? 一生悔いろ!
「あの、やめてください。そういうのは今は」
「いーだろ別に、今日は行かねえけどよ。次は俺んちな?」
歩きながら今日もまた買い物をする。今日は何も買ってもらうつもりはない。その代わり、だ。
「配ってたアレ、僕も欲しいです」
「がははは! 興味でちゃったか? ありゃあ飛ぶぜ? いいのか?」
「僕はアレと先輩の手で生まれ変わりたいんです。だめ、ですか?」
「……お前、まじで可愛いな。早く着飾ってやりてえよ。ベッドの上で泣かせてもみてぇ」
前回と同じようにラウンジに向かい、そこで食事をとる。みんな思い思いに飲み食いする。中には飲酒をしているものもいる。酒は二十歳になってからだぞ青少年。例に漏れず副部長も未成年飲酒を行い、女を侍らせていた。セクハラし放題で、その場で接吻したりもしている。もうなんでもありだな……。
「おいほの囮ぁ、おめーもこっち来いよ。そろそろいいだろう? な?」
「ええ、ええ。でも一つ先にお願いがあるんです」
「あ? なんだぁ? 言ってみろよ」
「僕、スリルが欲しいんですよ。だから、あの役、僕にやらせてもらえませんか?」
すると、副部長の目つきが変わった。
「おい、それ誰から」
「さぁ? 飲み会でみんな喋ってましたし」
「へぇ? それでお前もそれをやってみたいと? なんでまた」
「言ったでしょう? スリルが欲しいんです。それに、奪ったら僕のものにしてもいいんでしょ? お金払わなくて気持ちよくなれるなんて最高じゃないですか」
「は、はは、ははは、ははははは! ほの囮! お前最高だよ! 今すぐヤっちまいたいくらいだ!」
副部長は僕の肩を抱いて近づけるが、僕は今度は彼の唇に人差し指を置いた。
「では、成功したらお相手しましょう。薬の悦楽とオトコ、一緒に教えてくれますか?」
「最高だ、最高だよほの囮。いいだろう。おい誰か、衣装持って来い。今日の担当はコイツにやらせる」
「え、でもこの子男の子じゃ」
「いいや、コイツにやらせる。きっと化けるぜ?」
そして5分後、僕は貰った紙袋の中に入っていた衣装に着替えて、彼らの前に現れた。
「な!?」
「うそっ!?」
「まじかぁ」
「え、女の子だったってこと?」
「おいおい、見違えたぜほの囮」
白い着物を着て、真っ黒い髪の毛をだらりと伸ばした女性。それが今の僕だ。本物の山の神が、偽物の山の神のフリをするという、なんとも滑稽極まりない笑劇の始まりだった。
「では、行きましょうか?」
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