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2章22話:答え合わせ

「な、なんでほの囮が副部長の班なんですか!?」

「まぁいいじゃあねえか海知ぃ。俺の班にも男手が欲しくてなぁ。ガハハ!」

「で、でもほの囮は……」

「いいよな? 犀潟」


 副部長が僕の肩に手を伸ばし、肩を組む。肩をさする手が気持ち悪かったが、僕は笑顔を貼り付けた。


「勿論。そういうわけだから海知、今日は別行動ね。また明日!」


 どっちがマシか、判断に悩むところではあるけどな。

 そんなわけでゴネる海知を無理やり副部長が押し留め、僕は副部長の班でパトロールを始めることとなった。

 この班には女子が10人、副部長1人、そして僕が1人の12人体制だ。北湊にありがちな、純朴な少女が無理して大人ぶった化粧をして厚化粧になってしまった感じの子ばかりで、随分と女臭い空間が出来上がっている。

 先頭に副部長、その隣に僕、そして後ろでだらだら喋りながら女子たちがついてくる構図だ。唐突に入ってきた男子に訝しげな反応をしていたが、副部長の決定だから何も言わないでいる。実にわかりやすい。


「それで、なんで顔も性別も隠してるんだぁ? "ほの囮"?」

「海知を見てればわかるんじゃないですか? アレは相当な粘着質ですよ」

「ガハハ! ちげえねぇ。どうだ? 俺がお前を海知から守ってやろうか?」

「嬉しいお誘いですけど、いきなりそうなったらアレが逆上しかねないしサークルの雰囲気も悪くなるので、あまりバレたくないんです」

「ふっ、おもしれぇ女だな。益々気に入った。直近じゃ無理だが、ゴールデンウィーク俺の家にこいよ。いつもそんな男の服じゃ窮屈だろ。俺がお前をオンナにしてやる」

「ふふ、楽しみにしてますね」


 吐きそう。

 このやり取り本当に吐きそう。

 しかし相当な女好きだなこれは。海知のことは可愛がってるけど、それとこれとは別ってやつか。僕が女だったら本当にNTRだったな、あはは。


 副部長班のルートは、主に新市街地の繁華街だ。そこで各々好きなものを副部長に買ってもらえるらしい。この資金源はどこからなんだよ。


「ほの囮、欲しいものはあるか?」

「自由が欲しいですね」

「おっ、ポエミーだな。それは今度くれてやる。物で頼むぜ」

「こんなに奢ってしまって大丈夫なんですか? 副部長も学生の身でしょう?」

「ガハハ! お前たちは大事なお客様で、俺のオンナだ。好きなだけ買ってやるさ」


 "お客様"ね。しかももう全員自分のオンナ気取りか。


「もしかして、全員?」

「ああ、俺についてくれば良い体験もさせてやれる。だからまずは好きなものを言え。買ってやる」

「……ではこの髪留めを」

「おいおい、300円ぽっちか? もっと高いものでもいいんだぜ? アイツらなんか毎回5000円以上のものを強請ってくるんだぞ」


 学生の身で5000円×10人分を毎回とは……。随分と羽振りのいいことだ。

 僕は眼鏡を外し、水色の花のついたチープな髪飾りを嬉しそうに前髪につけた。そして、小首を傾げながら微笑む。


「では、それより安いプレゼントで喜ぶ僕は、あの子達より良いオンナですよね?」

「………………ああ、お前本当に良いな。今日、どうだ? 知り合いのホテルならすぐ予約できる」

「海知が怒るので今月はやめておきましょう。また近いうちに、ね?」


 自分の口元に人差し指をあて、"しーっ"というポーズをとる。副部長は鼻の穴を広げ、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていた。……あとズボンのチャック部分が大きくなっていた。吐きそう……。

 その後は恐らく知り合いの店なのだろうラウンジに入り、そこで料理を頂くこととなった。女子たちは思い思いに食事をし、飲み物を飲んでいる。僕は、流石に出された食事には手をつけずにいた。ここでは誰もが副部長の相手をしているので、僕が何をしていようが誰も知ったことではない。


「ガハハ! おい、飲み物とってこい。その後で配ってやる。おらほの囮、お前も……ああいや、今月は我慢だな、ガハハ!」

「えぇー、じゃあ今日はあたしがいい?」

「ああ桃、お前も慌てんなって」


 なるほど。新入生の女子たちも、実際はこういうところに連れ込まれるのか。男子たちは何も知らず、先輩が気に入ったものだけがこの遊びを教えてもらって引き継いでいく。生ぬるい食事会はカモフラージュというわけだ。

 ひとまず今がチャンスだ。トイレに立つフリをして女子たちの荷物を確認する。彼女らがいつも持ち歩いているポーチ、その中には……。


 やはり僕が予想した通り、『違法薬物』が入っていた。


 昨日あの女子たちからした匂いと全く同じだ。

 中身の成分を調べないと確かなことは言えないが、十中八九押収したものと同じだろう。僕は何食わぬ顔でその一部を袋に詰め、部屋に戻った。


「ほらよ、今日の分だ。おっと、次からは払ってもらうからな?」

「わーってるしー。あはっ、これこれ!」

「おめーもだいぶ染まったよなぁ。ほの囮が戻ってくる前にしまえよ? あいつに手出すのは5月以降なんだ」

「えー、ここじゃだめなのぉ?」

「おらいいからしまえや。おっ、ほの囮。長かったな、生理か!? がははは!」

「えー、この子男の子でしょ?」

「そうだったな、がははは!!」


 はっきりと確認できた。今日はこれで充分だろう。


「海知から電話が来てしまいました。今日はここらでお暇させていただきますね」

「はーーー、空気読めねえ野郎だぜ。まっ、時間はたっぷりある。次も来いよ。じゃあな!」


 ラウンジを後にし、僕はため息をついた。本当に腐った場所だった。出来ればもう2度と来たくない。

 だが同時に僕で良かったとも思う。こんな場所に月潟を来させるわけにはいかない。思い出されるのは街の花嫁を見た時の、彼女の表情だ。

「違うよ! あんなの、違うよ……」

 今でも耳に残る悲痛な叫び。彼女は合理的だけど、やはり正義感も恐らく人一倍ある。あんな光景を見てしまった後では、その場で何かアクションを起こしていても不思議じゃない。


「さて、と。これからどうしたもんか」


 月潟とコンタクトを取るべきだ。僕に薬物の解析は出来ないし、この辺は致し方あるまい。海知から死ぬほどしてる不在着信については、まぁ、うん、放置しよう。


◇◆◇


「ほの囮! なんで電話に出なかったんだ!」

「いや、眠くて。なんともなかったからそんな心配しないでよ」

「するだろ! 副部長となんかなかったか? あの人ちょっと強引だから、その……」

「なんもなかったし普通に家帰ったよ。電話出なかったのは悪かったって」


 翌日、登校時に物凄い剣幕で心配された。夏葉から聞いたところ、昨日は海知が終始落ち着かない様子のため、ほぼ何もできずに解散したらしい。ニコラに思考を歪められすぎるとこうなるのか、可哀想に……。


「ふーん、それで副部長に抱かれてオンナになっちゃったほの囮くん、あーもうほの囮ちゃんか。どう? 感想は」

「抱かれてねぇ。変なこじつけすんな」

「むすー、私ちょっとだけ怒ってます」

「何にだよ」

「ホイホイ男の人について行ったこと」

「おまいう」


 今日は登校していた月潟、珍しく朝から眠そうではなかった。

 ほんとに、つい最近男についてって薬物渡されそうになってた女の子に説教されてもなんも響かない。


「それと、あとでちょっといいか? 渡したいものがある」

「ラブレチャー? 私直接の方が好きだなぁ〜」


 頬に手を当て、乙女チックな顔をする月潟。うざかったけど顔は可愛いからなんとも言えない……。


「ハートマークのシールを貼って下駄箱にぶち込んどいてやるよ」

「わぁ古典的。いいね、興が乗ってきたよ、くすくすっ」


 相変わらず雰囲気最悪な教室についたのち、1限前に月潟の下駄箱にラブレチャーをぶちこみ、その後月潟は1限を欠席した。こいつよくサボるな……。

 2限から何食わぬ顔で参加した月潟は、登校中に眠れなかったからか、そのバランスを取るかの如く授業中ずっと鼻提灯を出しながら眠りこけていた。やっぱダメだったか。


 昼休み、ニコラがいなかったので僕は図書室で食べることにした。図書室で飯とか……って思うかもだけど、窓を開けていればそこまで匂いが篭らないし、人も来ないので結構重宝している。

 しばらくして月潟もサンドイッチを持って図書室に入ってきた。部屋の奥にある資料室にて、僕たちは向かい合って食事をとっていた。


「ほの囮くん、学校にアレ持ってくるのリスキーだよ〜」

「……今どこにあるんだ?」

「この部屋の本の隙間。こんなカビ臭い部屋に来るのは私たちみたいな探偵くらいだね」


 月潟は僕の弁当箱から厚焼き卵を摘んで微笑んだ。月潟にリスクを負わせてしまったことの代わり、と言わんばかりだ。まぁ別にあげてもいいけどさ。


「あ、美味しい……これ手作りだよね?」

「ああ。まぁ」

「いいお嫁さんになるね〜。というか私がいいお嫁さんにしてあげたい」

「その百合は要らんからしまえって」


 どこからか百合の花を取り出して差し出してくる。要らんので後で資料室の花瓶にでも飾っておこう。


「さて、それで一応状況は聞こうかワトソン君」

「あのブツが月潟の解析したものと完全に一致すればもう決まりだな。で、どうする?」

「罠を張ろう」


 間をおかずに月潟は言った。やはりそうなるか。


「連中は焦ってるよね。それはなあぜ?」


 月潟は美味しそうに厚焼き卵をパクつく。おい、僕の厚焼き卵全部食ったなお前。


「……あの日、僕が殴った男子生徒の持っていた薬物を、わざとすり替えて『山の神』が持ち去ったと犯人たちに錯覚させたから、だろ」


 そう。

 僕たちは奴に薬物を握らせる前に中身をすり替えた。その理由は簡単。どうせ、警察の前にサークルメンバーが集まってくるだろう。その際男が手に薬物を持っていることがバレたらサークルとしてはまずいことになる。だから、確実に隠蔽する。

 僕たちはそれを見越して、ビタミン剤を砕いたものを袋に詰め替え、男の手に握らせた。そして本物の中身は近くに投げ捨て、後日回収、解析に回す。


「この状況で何が起こる?」

「犯人は、恐らくその薬物を使用した時に気づいたんだろう。男が握っていたものは偽物で、男を襲った『山の神』によって本物が持ち去られてしまったことを。だから、今回の件を実行した」


 今回の目的は単純だ。

 模倣犯として事件を起こすことで、薬が何者かに持ち去られてしまった事実を帳消しにしようとした。

 これは推測だが恐らくは……。


「バックにヤーのつく人がいるんだろーね〜。犯人はその人たちから薬を委託されて学生に販売していた。なのにそれが何者かに持ち去られてしまったとなれば……すごーい制裁が飛んでくる」

「バックに誰かついてるならただの学生がアレだけ羽振りよく大金を使い、薬物を大量に入手できていた事実にも説明がつく。ま、推測に過ぎないけど」

「あ、推測じゃないよ。ほら、これ写真」


 テーブルに置かれた、変なキャラのスマホケースに入ったスマホには、今回の犯人といかにもな男たちがアタッシュケースを取引している姿が収められていた。


「……なにこれ」

「昨日張り込んで撮ったんだ〜。いやー、あんぱんと牛乳は寒い4月の夜にはきついよね。途中で肉まんとコンポタに変えちゃった♪」

「すげー台無しだなぁ」


 犯人が中身を開けて薬物を確認している姿も激写されている。これは、致命傷だ。


「犯人は薬物が持ち去られたことを上の人間に知られないために、他の組織のバイヤーを襲って薬物を強奪することで、その売り上げを補填しようとした。さらに、その報復として『山の神』が自分たちに復讐しようと出てきたところを捕縛しようとしていたんだろうね〜」

「……致命的な勘違いだよな」


 そう、犯人は致命的な勘違いをしている。

 それは、『山の神』が敵対組織の人間で、事件を起こせば必ず連中が復讐しにくると踏んでいる点だ。

 事件の被害者たちに共通する点は、裏路地を活動拠点としていたバイヤーであると言う点。奴らを襲えば、その売上を補填できるだけじゃなく報復として山の神がノコノコ出てくるかもしれないと踏んだのだ。


「うん、会話するとちゃんと整理できるね。ほの囮くんがちゃんと頭いいことも確認できた。私1人で突っ走ってたらどうしようかと思ったよ〜♪」

「そこそこ突っ走ってるけどな……。で、罠を張るって何?」


 僕は少なくなったお弁当箱の中身を突きながら尋ねた。


「正義のヒーローくんに、一肌脱いでもらうのはどうかな?」


 そう言ってご馳走様と告げた月潟。僕のお弁当箱には何も残っていなかった。

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