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2章21話:模倣犯

「ふふ、ふふふふっ、ふふふん」

「…………」

「ふふん♪ ふふふーん」

「…………」

「ご機嫌な理由、聞いてくれないの?」

「この状況で聞けたらそれはもう勇者だろ」


 クラスメイトのSNSなど興味もないから分からないが、どうやら昨日の一件でいじめっ子グループ内における壮絶な仲間割れが起こったらしい。で、その結果朝からお互いの机やロッカー、下駄箱に悪戯がされており、教室内は中々醜悪な様になっていた。僕も出来れば虫野郎には近づきたくない。

 そんな中でもこの不和を引き起こした張本人は楽しそうだった。多分クラスのゴタゴタはどうでもよくって、純粋に昨日のバイトのテンションを引きずっているのだろう。こいつ人生楽しそうだな……。


 まぁいずれニコラが介入するだろうからこの仲悪い期間も茶番みたいなものだ。お陰で僕や月潟への攻撃はピタリと止んだしな。一生仲間割れしててくれ。

 ともあれ、こっちの件はひとまず片付いた。問題はサークル、そして山の神だ。

 僕の『目的』に関しては、そろそろ実行してもいいとは思っている。山の神の噂は順調すぎるくらいに広まってくれた。『動機』は充分出来てくれている。

 ち囮の転院手続きはゴールデンウィークには済ませてしまいたい。その下見とかも必要。

 つまりリミットは、5/1(金)。


 あと1、2回起こせば充分だろうか。


「そういえば海知ぃ、聞いたべか? ついに出たらしいぜ」

「ん? 何がだ?」

「けけっ、だからアレだよ、山の神」

「山の神は前からいるだろう?」


 昼休み、ニコラがいないので少しは快適である。今頃クラス仲の改善とかに取り掛かっているか、山の神にかかりきりの海知からは一旦離れて別の企みをしているのか。

 そんなわけで海知、情報屋、夏葉、月潟、僕のメンツでご飯を食べてるわけだが、そこで情報屋がとんでもない情報を吐き出した。



「ついに死人が出たって話だぜ」



 ……は? 何を言ってる? 山の神で死人……? いやそもそも昨日は……。


「それ、ほんとなのか!?」

「まだ噂程度だけどよぉ。昨日、市街地の方で大きな事件があって、それで人が血まみれで倒れてたらしいぜぇ? これで11件目だなぁ」

「そう、か……。はやく犯人を止めないとな。今日も手伝ってくれるか?」

「も、勿論! 海知のためなら私、頑張るわ!」

「ありがとな、夏葉!」


 メインキャラクター2人のいい雰囲気を全く楽しめない。それくらい僕の思考は先ほどの話で占められていた。

 何が起こっている? 少なくとも昨日はバイトだったから何もしていない。

 それに、人を自らの手で殺めないというのは僕の決めたルールだ。街を滅ぼすその日まで、僕は人を殺さない。その一線だけは絶対に超えない。

 少し考え込んでいると、月潟も何かを思考しているのが見えた。……行くしかないか、またあの部室に。




 放課後、部室には既に大勢の生徒たちが居た。


「副部長! 山の神が出たって本当ですか!」

「ああ、どうやら本当らしい。現場に彼岸花も落ちていたそうだ」


 なるほど、そこまでちゃんと踏襲しているのか。


「その……死人が出たって話は……?」

「ああいや、そのことなんだが、どうやら誤報らしい。ただ、相当な重傷に変わりはないらしいがな」

「よかった……」

「副部長はなんでもご存知なんですね〜」


 月潟は口元を袖で隠し、ニコニコ笑って言った。副部長は照れくさそうに後ろ頭を掻いたが、そのあとキリリと表情を引き締めた。


「もしかしたら、これ以上山の神を追うことは危険かもしれない。俺は迷ってるんだ……後輩たちにもしものことがあったらってな」

「副部長! 俺は……俺は奴の犯行を止めたいです! 身近な人たちが危険に晒されてるかもなんて考えるだけで怖いです。それなら自分からそれを阻止できるように動かないと! 俺は、1人でも戦います!」

「へっ、それなら俺っちも行くぜ親友!」


 あとは茶番が続くので全カットだ。お前らこの流れ2回目だぞ……。

 しかし一先ず人死が出ていないことは安心した。恐らく模倣犯か何かが出てきたということだろう。北湊で暴れたい奴が、山の神を模して暴れているという状況のはず。それ自体は僕が手を汚さずに山の神を広めることになるから大歓迎だ。

 とは言え山の神はそこそこイメージを保ってきたわけで、信仰心が変な形で捻じ曲げられるのは困る。

 これらの事実を踏まえて僕はどう動くべきか。

 答えはすぐに出た。


「皆さんで現場に行ってみませんか? 何かわかることがあるかもですし」


 そう提案すると、みんなは同意して動き出す。一先ず現場だ。それで何かわかるかもしれない。

 それに、僕の予想が正しければ犯人は……。


「……何か?」

「ううん、何も。早くいこ。現場検証だぞワトソン君っ」


 虫眼鏡片手に無邪気に笑う月潟。ただのファッションなのは分かるけど、彼女が先ほど向けてきた視線は、やはり本物の探偵のようであった。


◇◆◇


 現場を一通り確認した上で、結論から言おう。

 全て予想通りだ。

 犯人の狙いも、犯人のこれからの行動も、犯人が誰なのかも。全てわかっている。

 その上で、僕はこの件をどう利用しようか考えている。ネックとなるのは、月潟の存在だ。


 月潟琵樹という少女についてまだ多くは知らない。けれど、この短い期間で分かったことも沢山ある。

 月潟は、一見何をしでかすか分からないトリッキーさを持ちつつも、極めて合理的な考え方をしている。だから多分、彼女に必要なのはタイミングだけなのだ。少なくとも今すぐに犯人を暴いてやろうという行動に出ることはないと思っている。


「さて、海知くんたちが犯人を追っている間、私達で調べるべきはその背景だよね〜」

「背景……犯人の目的、か」

「そ。私たちはこの件の犯人が『山の神』じゃないことを知っている。今回こんなことをしでかした理由も、まぁ概ね掴めた。なら次は、犯人のビジョンだね。最終的にどこを目指すのか、鍵はこれだよ」


 そう。みんなが現場を躍起になって彷徨く間、僕と月潟は近くの廃ビルの中階段で密会をしていた。月潟が取り出したものをみて、僕はため息をつく。

 それは、薬物の解析結果だった。昨日それを見せられたばかりなのに……。


「僕も概ね同意。このサークルの闇は、そのまま北湊の抱える闇に直結してるかもな……」

「北湊の闇?」

「あ、いや、なんでもない。それより、どうするんだ? このまま放置すると多分普通に被害者が出続けるけど」

「んー、被害者の規模感によるかな〜。私、見え見えなトカゲの尻尾を捕まえるつもりはないんだよね」


 言わんとすることは分かるけど……。


「ミイラ取りがミイラになることは避けてくれよ。流石に僕の寝覚が悪い」

「そうならないように君を助手にしたんじゃないかワトソン君。くすっ、期待してるよ♪」

「自衛の手段くらいはもっておいてよ。僕がいつでも守れるとは限らない」


 また何を考えているかわからない笑みを浮かべ、月潟は階段を降りて行った。ほんとにわかってるのかよ、と思いながら僕もその後に続いた。



 予想通り、翌日も事件が起こったことを聞くこととなった。さらに1名、男性が鈍器で殴られて負傷したとのことだった。

 今日は月潟が休みだったので、海知と夏葉と3人でサークルに行く羽目になった。ニコラはもうなんか飽きたらしい。


「今、2年生カップルがアツいんだよねー! 2年生は今ヤンキーの抗争が起こってるんだけど、そのリーダー同士をくっつけようと思っててさー! ぬふふ。どっちを受けにしようかなぁ、ぬふふふ!」


 腐女子の妄想で終わってれば平和なんだけど、こいつは容赦なく人の性癖を捻じ曲げてくるから本当にタチが悪い。ひとまずこちらに矛先が向かないのは有り難いけど、こっちはこっちで被害者が出続けるのはなんとかしたい……。


「2日連続で事件を起こすなんて……なんて野蛮なんだ、山の神」


 今回の被害者も、僕の予想が正しければ前回の被害者との共通点がある人物だ。そっちはもういいので、月潟が言っていたようにビジョンを調べるべきだな。


「副部長、少しお話しいいですか?」

「ん? 君は確か……犀潟、ちゃん?」

「"くん"でお願いします」

「あ、ああ、犀潟くんね。ガハハ! すまんすまん、どうにもシルエットが女子にしか」

「それはいいんで、少し伺いたいことが。このパトロール表なんですが」


 僕はパトロール表を突き出して見せた。


「なんで、女子だけのグループに1人だけ男子を入れる構成にしてるんです? 山の神事件も起こってますし、少し危ないんじゃないですか?」

「え、あ、ああ。まぁその男子は俺だからな! 俺は強盗犯を捕まえたこともあるんだ! 今更そんなチンピラ風情余裕余裕!」


 なるほど。こいつの認識もわかった。

 それではこの表にいる女子たちに尋ねるまでだ。

 窓際で一際大きな声でおしゃべりをしている女子集団、恐らくあの女子グループだろう。そこに近づいた時、僕はえもしれぬ嫌悪感に襲われた。

 このサークルに入った時点で、なんとなく感じていた嫌悪感。踏み入れた時は何も感じなかったが、こうして事件を目の当たりにしてみるとその正体がわかった。

 嗅覚だ。

 僕は山の神になったことで、五感も多少優れた能力を発揮できるようになっている。故に、一度嗅いだ匂いは忘れないし、何より忘れられるはずもない匂いだった。


 よし、それじゃあ確かめてみるか。

 こういう体張ったことを、月潟にさせるわけにはいかない。


「副部長」

「ん?」

「僕も副部長の班でパトロールさせてもらえませんか?」

「あ? それはぁ」


 そこで僕は周りから見えないように眼鏡を外した。髪を退けて素顔が顕になる。

 それを見て副部長は、目を丸くして無言になり、暫くしてニマニマした顔をし始めた。


「お前……やっぱり女の子だったのか」

「連れてってくれますよね?」


 ニコリと笑みを浮かべると、副部長は少し顔を赤くして、その後口元を歪ませた。


「おもしれぇ。でも犀潟"ちゃん"。海知と仲良いんだろう?」

「海知は子供っぽいから。副部長の大人で頼り甲斐のある雰囲気、結構好きですよ」

「がはは! ちげぇねぇ。その辺は俺が鍛えてやるつもりだがな。よし、今日から俺の班で参加しろ。いいな?」

「ええ、勿論」


 北湊男子は女子に飢えている。顔がいい女といえば尚更。自分の周りを女子で囲みたがる副部長だからこそ、この提案には乗ってくるだろうとは思っていた。


 さぁ、月潟より先に暴いてやろう。この事件の行く末を。

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