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2章17話:違法薬物

「あれ、月潟ちゃんじゃね?」

「やべぇ、まじで可愛い」

「付き合いてぇ」

「顔ちっさ、色素うっす、腰ほっそ……」

「美少女とお近づきになりたい……」


 部室に入った段階で、周囲の人間がうるさくなり出した。その理由は勿論、月潟琵樹という美少女の存在によるものだ。

 北湊高校に女子が少ないのはご存知の通り。それ故男子たちは女子に飢えているしなんなら男色に走るのだが、女子という理由だけでチヤホヤされるのもまた事実。

 つまり何が言いたいかと言うと、今の僕の姿は顔が隠れているとは言え明らかにシルエットが女子、1人で行っていたら無駄に注目されまくっていた。その役目を月潟が全て引き受けてくれているので僕はあまり注目されずに済んでいる。ありがとう月潟、マジでありがとう。

 などと考えていたら、完全に目の前の男の言葉が耳に入ってこなかった。


「俺たちは地域の団体とも連携してるから幅広く活動ができるんだ。これからよろしく!」

「はーい、よろしく〜」

「よろしくお願いします」

「女の子が2人も入ってくれるなんて嬉しいよ!」

「や、僕男なんで」

「え!? ご、ごめん。シルエット的にそう見えちゃって」


 この、一見人が良さそうに見える男が部長らしい。名前は……聞いてなかったから『部長』でいいや。

 JOINTには意外と女子もいた。まぁイベントサークルは青春やるにはもってこいの場所なのだろう。そしてその青春相手は海知らしい。


「海知くーん! ここの書類よくわかんなーい」

「えーっと、ここはね」

「えー、あたしも海知くんに教えてほしいー」

「はは、勿論いいよ」


 そんでもってぐぬぬと悔しそうな夏葉を見て、ハッって思いっきり勝ち誇ったような顔をしていた。

 ニコラはそんな夏葉を慰めている。随分と嬉しそうな顔してまぁ。

 ニコラが夏葉を慰めるのに夢中な間、再び部室を見渡してみたけど部員は40人超えと言ったところ。黒板に貼られていた名簿を見ると、どうやら120人はいるらしい。流石はマンモス高、部活の人数の多さだけは一流である。

 さて、肝心の何をやるか、ということについてだが……。


「みんな聞いてくれ! 人もかなり増えてきてることだし、改めてこの部活の目的を共有しよう!

 この部活は学校行事を運営する生徒会の補助的な役割を持っている。だがその他にも生徒会から依頼された仕事をこなしていくのもこの部活の役目だ」

「なんか青春っぽくていいなぁ」

「そこ! 私語しない!」

「まーたアツヤ怒られた! ぎゃははは!」


 ドっ! と笑いが起こった。身内ネタすぎて何も笑えん。月潟はどう思ってるんだ……?

 そう思って月潟の方をみたら、手元で知恵の輪をやっていた。……コイツ話聞く気ないな。


「目下、重要なのは学年別交流会。だけどもう一つ、生徒会から調査を依頼されてることがある。

 それは、校内に蔓延っている違法薬物の調査だ!」


 それを聞いた瞬間、頭に血が昇る感覚を覚えた。やはりアレが蔓延しているのか。それも僕のすぐ近くで。

 話を真剣に聞いてる人は半分もいない。僕みたいに薬物に対して強い感情を持ってる人間などいないのだろう。


「校内でも覚醒剤のようなものが取引されているという話がある。そう言った違法薬物の取り締まりも俺たちの役目だ」

「はい質問!」

「お、月潟ちゃん。なんだい?」

「風紀委員はなにしてるんです〜?」


 月潟が手を挙げて発言した。そしてそれは尤もな疑問だ。こういうのを取り締まる委員会として、風紀委員会というものがある筈だ。

 それに対する部長の回答は歯切れが悪かった。


「あ、ああ。風紀委員会と協力して調査するんだ、生徒会からそういうニュアンスで言われてる、うん、はは、ははは」

「風紀委員会も呼んで方針を擦り合わせたりしてるってことですか〜?」

「い、いや、それはやってないかな……」

「………………そうですか♪ ありがとうございます〜」


 月潟の質問の意図を理解できたものはおそらくいない。

 月潟はおそらくこう言いたいのだ。

"なぜ管轄外の職務を、風紀委員を押し除けてでも担当するのか"

 全体的に胡散臭い団体だと思う。ニコラの目もあるし脱退は難しいだろうけど、背後関係をきちんと洗っておく必要はある。月潟も同様の意見だから先ほどの発言をしたのだろう。

 

「街歩きみたいでおもしれーだろ! がはは!」


 早速ということで、薬物取り締まり運動という名の課外ぶらぶら散歩が始まった。恐らく、学年別交流会の準備などほぼすることがないのだろう。

 で、このやたらめったら体のでかい男子生徒は『副部長』。僕たち新入生を引き連れてパトロールをしたのち、新人歓迎会をするらしい。すごく嫌なのだが、どうやらこの部活は毎週のように食事会をやってるらしい。まぁ騒ぎたい&目立ちたいという連中の集まりなので、そういうものなのだろう。これが大学とかになったら見事に飲みサーへと進化するのだ。


「このJOINTバッチをつけていれば、北湊の生徒は見回りがきたと思ってくれるからな。悪用するんじゃないぞ! がははは!」

「副部長、俺たちは正義の団体なんですから、そんなことするわけないじゃないですか!」

「お、海知いいこと言うじゃねえか! 1年坊主どもは海知を見習うんだぞ!」

「はい! 海知くん、副部長に認められてる、かっこいい……」


 男子生徒たちすら海知に憧れる世界。頬を染めるんじゃない……。

 見回りと言う名の散歩、それもたった30分。これは風紀委員が仕事をしていることを祈るばかりだな。

 

「ほの囮くんはさ」

「へ? うわっびっくした! いつの間に隣に……」

「私、幽霊だから、幽霊探偵だから〜」

「いや知らんし……で、なに」


 月潟がいつの間にか隣に来ていた。大通りを我が物顔で歩いてるパリピ連中に混ざってこないのだろうか。まぁ、もうそういう性格じゃないことはわかってるけど。


「頭いいよね。君」

「……は? 何のどこを見てどうしてそうなる」

「ううん。なんでも〜。でもきっと君と私、協力できると思うんだ」

「……何度も言ってるけど、僕はお前がきら」

「そだね。うん。そうだ。そうかも。そうなのかな」

「は?」


 月潟は何か思案するようにぶつぶつと呟いた。僕の言葉などまるで聴こえていない。だが思考を終えると、あの教室での事件の時のように、凍りついた表情で僕を見つめてきた。


「それじゃあ、ほの囮くん。私と組む気は、ある?」

「……………どういう」

「回答は後回しでいいよ。少しはこの空気感も楽しみたいところだし」

「………」


 わからない。

 月潟琵樹という少女がわからない。

 そんな僕の思考を打ち砕くかの如く、彼女はにこりと笑った。


「さ、行こっか? みんなお店着いたってさ」

「………ああ」


 とかく、この不気味な美少女から目が離せなくなってしまった。


◇◆◇


 歓迎会と聞くと、高校生の段階ではお酒のでない大きなチェーン店なんかが定番である。お好み焼きとか、イタリアンとかそういう系。今回も例に漏れずイタリアンのお店を貸し切ってパーティーを行うらしい。

 こうしてみるとこのサークルの人数の多さがわかる。既に100人が列席しており、学校行事の1つと言っても信じてしまうほどの規模感だった。


「新入生も揃ったことだし! みんな、乾杯!」

「「「「「「かんぱーい!!!」」」」」」


 声の大きな生徒たちがでかい音でグラスを衝突させる。みんなそれぞれの会話に花を咲かせるが、こういう飲み会の嫌なところは運営側のクソイベントが発生するところである。


「よーし新入生! 一発芸やれ!」

「えー、まじっすかぁ」


 そうそう、こういうのこういうの。この体育会系のノリみたいな奴。

 昔の僕ならこういう場で何もできずに、多分ニコラが持ってきた衣装とか着せられて詰んでいた気がする……。


「ほっちゃん、まだ早えよ! そういうのは来週の飲み会でやるんだべ!」

「あー、そうだった。おう一年坊主! 本番は来週の飲み会だからな! そん時はみんな準備して出し物やってもらうから覚悟しとけよ!」

「うぇぇ、まじですか」

「海知ぃ! お前みたいなイケメン野郎は特にこういう場で恥をかいてもらうからな!」

「あはははは!!」


 これはアレだな、罰ゲームとかでキスとかさせられる奴だな。例に漏れずこのサークルも、なんかBL漫画に出てきそうな属性持ちが沢山いるので、そういうこともあってニコラはここを入部場所に選んだのだろう。


「うぅ、私そういうの持ってないわよぉ……」

「大丈夫だよ、夏葉。今から琵樹流の大爆笑間違いなしなブリティッシュジョークを仕込んであげるから!」

「え、遠慮しておくわ……」


 なんだかんだこの2人は乗り切れそうな感じあるけどな。

 さて暫く飲み食いしたのち、ビンゴ大会とやらが始まったのでそそくさと店の外に出ることにする。参加の義理は果たしただろう。

 既に空は暗く、星が出始めていた。この時期はまだまだ風があって肌寒い。髪も崩れやすいからヘアメイクが崩れないように行動するのに必死である。

 そういえば先ほどから月潟の姿が見えない。それもあって外に出てきたのだが、一体どこにいったのだろう。


「あ」


 店の隣の細路地にて佇む月潟を見つけた。だがその近くに1人の男がいて、2人で何かを話し込んでいるようだった。

 何してるんだアイツ……。そう思って路地に入ると、チラリと見えた。見えてしまった……。


「は?」


 男子生徒の手には、ジッパー付きの小さなポリ袋が握られていた。ニタニタと下卑た笑いを浮かべた連中は、それを手に月潟に近づいていて……。

 それを見た瞬間、僕の中に悍ましい量の憎悪が流れ込んできたのを実感した。


「ねえ」

「あ? 今いいところなんですから少し待って……ゴォッ!?」

「黙れよ、ゴミが」


 一撃。落ちていた鉄パイプで彼の側頭部に一撃を加え、一瞬で意識を刈り取る。

 ドサリと崩れ落ちる男。手からはぱさり、と先ほどの袋がこぼれ落ちた。


「……………強いね」


 ずっと静かにみていた月潟はポツリと溢した。なんの驚きもないようだった。


「お前……何してんだよ。これが何かわかって!」

「麻薬でしょ? 私が思った通り、このサークルもしっかり薬物汚染されてるみたいだね」

「な!?」


 ノコノコとこんなやつについて行った月潟への怒りは消え失せた。恐らく月潟はこいつから何を手渡されるか知っていたのだろう。それを知った上で……。


「現物が押収できた。成分を解析しないと分からないけど、今街中で流行ってるモノと同等のものだろうね〜。さて、この人を殴ったほの囮くんは、これからどうするつもりなのかな?」

「……月潟には悲鳴をあげてもらって、そのまま駆けつけた僕が警察を呼ぶ。ついでにサークルの連中も呼ぶ。この男の手に薬物を握らせてちゃんと豚箱に収監してもらう」

「妥当かな。うん、頭の回転が早い。やっぱり思った通りだね〜」


 どこか状況を楽しんでいる月潟に、恐れを抱く。こいつ、怖くないのか? 麻薬を渡されそうになって、しかもそいつが殴り倒されたんだぞ……。


「うん、でも助かった。ありがと、強いんだね。偉い偉い」

「な、撫でるな!」

「おっとご無礼。可愛い反応だね〜」


 姉気取りで僕の頭を撫でてくる月潟。思わず払いのけてしまう。月潟を睨みつけるが、彼女はどこ吹く風だった。


「よっし、それじゃ私史上最高に可愛い叫び声をあげてしんぜよう! ちゃんときいててね? 名女優:月潟琵樹の名演技を!」

「そういうのいいから……」


 その後の月潟の叫び声は、なんというか可愛らしいというよりもリアルっぽすぎて少し引いた。

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