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2章16話:イベントサークル

「だから犯人は貴方と貴方と、貴方。瓶の人はわからないけど持ち物検査でもすれば出てくるんじゃないかな〜? 海知くん、お願いできる?」

「あ、ああ……」

「? どうしたの?」


 歯切れの悪い海知に、疑問符を浮かべる月潟。そんな月潟に、ようやくニコラたちが反応した。


「ちょ、ちょっと琵樹ちゃん。いきなり人を犯人扱いはまずいんじゃないかなあー」

「そ、そうよ! あたしたちはやってない!」

「そのチョークの粉は? なんでついたのかな?」

「に、日直の仕事よ!」

「まだ朝のHRすら始まってないのにチョークをいじるお仕事があるんだね。日直の名前欄は前日の人が書く決まりだから、貴方でもないよね?」


 月潟は瞳孔が開き切ったまま、無表情で語りかける。その光景に恐怖を覚えたらしく、女子生徒は後退り始めた。


「じょ、状況証拠ばっかじゃねえか!」

「そういう貴方はなんでさっきから左ポケットを気にしてるのかな? ねぇ」


 叫んできた男子生徒の腕を掴む月潟。


「な、なんもねぇよ!」

「心拍数が極端に早い。瞬きの回数も多い。そこまで緊張することないんじゃあないかな?」

「や、やめろ!」


 男子生徒の動作につられて月潟も後退する。流石に誰か止めないと収拾がつかなくなってきたな。


「すとーっぷ! 一旦落ち着きましょう! 横江さん、大丈夫?」

「ひっ、ひっく、うぇ、うぇぇん! 酷いよ月潟ちゃん……あたしを疑うなんて……」

「……………」


 じーっと無表情で女子生徒ーー横江(よこえ)を見つめる月潟。ぽわぽわ能天気そうな月潟ばかり見ていたから感じなかったが、彼女の顔は西洋人形の如く精巧で、作り物めいている。恐ろしくも見えてくるのだろう。

 女子生徒は再び押し黙り、呼吸も荒くなっていた。まるで化け物でもみるかのような表情には少しだけ同情の念を覚える。


「ん〜、ま、やってないならやってないんだろうね。うん、ご無礼、ごめんね?」


 あっけらかんとした口調で、月潟は手打ちを宣言した。みるみる空気が弛緩されていき、クラスメイトたちはぼそぼそと会話をし始める。


「び、びっくりしたよね! 月潟ちゃん凄い怖かったもん!」

「ま、まぁみんな仲良くーってことで!」

「ほら、先生来ちゃうし、早く座ろうよ!」

「うぇー、このクラスに暗い雰囲気は似合わないっしょー!」


 歪な空気感をなんとか元に戻そうとする彼らは、どこかNPCじみていた。何もなかった、そう念を押したいニコラの強い意志を感じる。

 結局、僕の机はこのままなのでさっさと代えなくてはならない。


「おい犀潟、授業が始まるぞ。席につけ」

「先生、机を替えたいので先に始めててください」


 とおせんぼされる形で立たれるとこっちが困るんだが。


「駄目だ、席につけ」

「……………」


 騒ぎを起こすわけにはいかない。大人しくこの机を使うか。


「先生、私トイレ〜」

「え? は?」


 そんな僕たちの間をすり抜けて、月潟が颯爽と走り去っていった。あまりに突然すぎて先生は暫くパクパクと口を動かしていたが、やがて、


「おいごらあああ! 月潟ぁぁぁぁぁ! 戻ってこぉぉぉい!」


 と怒鳴ったが、月潟の姿は既になかった。

 なんというか、馬鹿なのか頭いいのかよくわからない。でも天然なのだとは思う。

 しばらくして新しい机と椅子を抱えて月潟が戻ってきた。


「はい、ほの囮くん。そこそこ綺麗なやつ」

「え、あ、ああ……」

「せんせー、今どこまで進んだ〜? おしーておしーて」

「お前は! あとで! 職員室だああああ!!!」


 怒鳴られる月潟をみて笑いが起こるクラス。僕はそんな彼らを尻目に、椅子に座った。


◇◆◇


 木曜日のカラオケの後あれだけ遠ざけたはずなのに、月潟は僕のために机をもってきてくれた。しかもあんなふうに探偵のような真似事までして。

 しかしあの場で夏葉(かよ)が出てきてくれて助かった。あのままだと月潟は全て暴き切ってしまい、ニコラに本格的に敵認定されてしまうところだった。いや、もう既にそうなっているかもしれないが。とはいえ決定的ではない。今だってああやって談笑しているのだから。


「んー、購買のメロンパンは甘さの暴君だね。甘い甘い、もひゃもひゃ。よ〜し、お前の名前は今日からクロムウェルだよ」

「ど、独特なネーミングセンスね……」

「ぶりてぃっしゅじょーく! あははは!」

「ーーーッ!?」


 思わずそっちを向いてしまった。かみさまが口癖の如く使っていた「ブリティッシュジョーク」。英国要素が入ってる時と入ってない時があるけど、今回は入ってる時だった。

 やはり、かみさまなのだろうか? でもかみかまのオーラというか、そういうのは感じない。先ほどの一件でさえ、かみさまの如き恐ろしさは感じなかった。


「どしたの?」

「え?」


 あ。ずっと月潟を見ていたようだ。


「悪い……」

「いやいいけど。海知くんも小滝くんもニコラちゃんも居ないから、ほの囮くんもっとこっち来たら?」

「あ、ああ。ていうかなんであいつら居ないわけ?」

「悪巧みだよ、きっと」


 その言葉にドキッとする。夏葉は首を傾げていたが、僕は気づいた。

 あの時、男子生徒のポケットを探るように琵樹に指示された海知は、えらく非協力的な態度をとっていた。あれはおそらく……海知もグルだったから。既にクラスの数人で僕を苛めるプランの主催者には柏崎海知も名を連ねているといえる。

 そもそも海知の性格上、苛めが起こっていたらそれはもう主人公の如く積極的に介入して解決へと導いているはずなのだ。それがこのザマということは、つまりそういうことである。

 だがそれは、村上ニコラと柏崎海知という2人の性格を理解してる僕だからこそ分かることだ。越してきたばかりの月潟が何故わかるのだろうか。少なくとも柏崎海知はガワが良いから、普通なら海知の悪意を疑うことなどあり得ないのに。


「にしても、みんなが余所余所しいね。困った困った」

「もう! 琵樹があんな問い詰め方するからよ! あとで横江さんに謝るのよ?」

「それはタロット占いで決めるね」

「なんで!?」


 そう言って唐突にタロットカードを取り出して遊び始める月潟。それ今どっから出した……?


「ほの囮、箸進んでないわよ?」

「え? あ、ああ。そうだね。うん、美味い」

「もー、ぼーっとして。溢しても知らないわよ」

「んー……」


 クラスの連中は遠巻きにこっちを見ていた。特に女子からの視線が月潟に強く突き刺さる。多分、自分たちに混じらない月潟が今朝の件含めて気に入らないのだろう。

 女子は人数が少ないため、その分いつもみんな一緒にいようと心がけてる節がある。入学してまだ2週間かそこらなのに、移動教室もトイレもずーっと一緒である。女子社会は同調圧力が半端ないと聞くけど、それにしてもここまでロケットスタートだと後がキツいと僕ぁ思うんだ。

 ニコラは結構女子社会に混じってるけど、夏葉は半々。月潟に至っては全く女子と接してない。というか明るい性格の反面、意図的にそうやって振る舞うことで人を避けてる節がある。益々月潟のことがわからない。


「まー悪巧みかどうかはともかく、生徒会の方行ってるんでしょ。夏葉は行かないの? 新入生歓迎会とやらが近いんでしょ?」

「今日の放課後は行くわ。ほの囮もそろそろ顔を出したら? 生徒会長にも紹介したいし、友達も沢山増えるわよ!」

「んー、まぁ気が向いたらね」


 気は一生向かないだろうけど、そろそろのらりくらりと躱し続けることも限界を感じつつある。角が立たないうちに顔を出すべきだろう。

 というか、既にコミュニティが出来ているところに僕1人で紹介されたらクソみたいな空気になるだろ。嫌だ、嫌すぎる。

 と、そこまで考えて気づいた。


「月潟は行かないのか?」

「へ? 私?」

「いや……なんか行かないのかなって……」


 未だに月潟の顔をまともに見て話すことが出来ないのは情けない限りだと思う。前髪で目が隠れてメガネでさらに隠して、その上視線まで外したら相手と話してる感ゼロのはずなのに。


「ほの囮くん、絶対に目合わせようとしないよね」

「………んなこと」

「ま、今はいいや。それで? 私を誘って生徒会に行こうという魂胆はなーにかな?」

「やめろ探偵ホームズ。その虫眼鏡はどっから出した……」

「おやおや、あててあげようかワトソン君? 私を隠れ蓑にしてしれっと顔合わせイベントで受けるダメージを最小限にしようとしてるね?」

「ぐぅ……」


 ぐうの音が出てしまった。


「ま、いいよ〜。うん、私も今日はバイトないし」

「あら? 琵樹ってバイトしてたの?」

「そだよ〜。夏葉はバイトか部活しないの? あ、生徒会は一応部活扱いなのかな」

「今度ニコラがバイトやろっか! って言ってたから始めてみようかしら。オススメとかある?」

「んー、高校生で出来そうなものでオススメはね〜……」


 たわいのない話をして、昼休みを過ごす。下手に教室から出るとまた机に悪戯されかねない。

 

 そして放課後。ここ最近はかなりハイペースで山の神の事件を起こし続けていたから、今日くらいは生徒会とやらに行ってやってもいい。その旨を伝えると、約束通り月潟も付いてきてくれた。


「やっとほの囮を生徒会に紹介できるな! また中学の時みたいにいつメンで仲良くしよう!」

「あー、うん、そだね。で、これから生徒会長とかに会うわけ?」


 道中、海知がうざったく隣に居座り、話しかけてくる。後ろからニコラのぬふふ! って笑い声が聞こえてきていて更に鬱陶しい。


「それなんだが、大白川(おおしらかわ)生徒会長は忙しくてさ。それに、俺たちは生徒会の手伝い:JOINTのメンバーだから、その代表みたいな人たちに紹介しようかなって!」

「ああ、噂のイベサーね。実際何やんの」

「それは見てのお楽しみだな! ほら、ついたぞ」


 生徒会室の隣に、少し大きめの教室がある。ここが JOINTとやらの部室らしい。

 海知が教室の扉を開けると、待っていましたと言わんばかりにツンツン頭の親友(笑)が集まってきた。


「けけっ、海知きたか! おっ! 犀潟っちに琵樹ちゃんもいるじゃん!」

「小滝、遅くなってごめんな。それで、部長はいるか?」


 情報屋と海知が話してる間、部屋をチラリと見た。そこそこ普通そうなサークルだったが、一点、謎のものを見た。

 石、だろうか? 何やら小洒落た祭壇のようなものに、きのこのような形の石が祀られている。なんだあれ……。


「部長はこっちだってさ! 行こうみんな」


 ひとまず海知についていくとするか。

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