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2章10話:どうして優しくしてくれるの?

「あははは! それホント?」

「ホントだってば! 気になるなら琵樹も見にくれば良いじゃない!」

「ぬふふ、夏葉は大袈裟だからなー」


 放課後、月潟、夏葉、ニコラの3人は仲良く談笑していた。月潟は見たところ少し元気になったらしい。顔色も良い。……って何見てるんだ僕。

 その女性陣3名に加え、海知とそれから情報屋を入れた合計5名がクラスの中心の如き振る舞いをしている。まぁ全員顔だけはいいからな。情報屋もまぁ髪の毛ツンツンしてるけど顔は整っている。親友キャラらしく、ヒロインに好かれるほどじゃないけどいい感じに主人公とならんでも遜色ない感じのキャラだ。……我ながら性格悪い解釈してるなという自覚はある。

 ともあれ、その楽しそうなクラスメイトたちの輪の中に僕は強制的にブチこまれているわけだが。


「いやー、最高のクラスだな! これから親睦会でも行くか!」

「けけっ! いいねぇ。カラオケとかどうよ!」

「よし、みんな行くよな?」

「「「「うぇー!!!」」」」


 このクラスの謎の団結力なんなの、この調子なら林間学校余裕そうじゃん。

 しかしカラオケね。もう楽しくないのが目に見えてるけど、これ行かなきゃ駄目かな……。出来ればあんまり遅い時間まで居たいとは思わないんだけど。

 というのも、山の神のお仕事として昨日の水子供養の供養塔清掃をもっとしっかりしてあげたいのだ。もっと木の鳥居とか色々作り直してあげたい。その為には買い出しとかも必要なわけで……徹夜でもして直そうかな。


「ほの囮くんは、来る?」


 相変わらず気配の薄い月潟。あと顔が近い、良い匂いする、肌ツヤツヤ……あぁもうそういうのいいから!


「行かなかったらクラスでハブられそうな程みんな行きそうだしなぁ」

「ほの囮くんは海知くんに好かれてるし、そんなことないでしょうに。自信もとうぜ〜?」

「そのニマニマ顔やめろ……。嫌がらせすぎる。ああもう行くよ行く行く」

「平安京?」

「おもんな」


 1919はベルサイユ条約な。語感だけは完全に泣くよウグイスだったけど。

 などとバッサリ切ったら、月潟はぷくーっと頬を膨らませてこっちを睨んできた。あざとい……。


「……ねぇ、一昨日のことなんだけどさ」

「ん?」


 表情を戻し、聞き辛そうに視線を逸らす月潟。だがそんな彼女の決意をぶち壊すかの如く、乱入者が入ってくる。


「ほら! ほの囮も早く行こうぜ! 久々にほの囮の歌も聴きたいし!」

「この人数でカラオケ行ったら一回も歌う機会回ってこないだろ」

「みんなで歌うんだよー、まぁ陰キャのほの囮には縁遠い話だけどね、ぬふふふっ!」

「そそ。その陰キャなほの囮はお家に帰っていいか?」

「釣れないこと言うなよ! 楽しいと思うぞ?」

「ははっ」


 乾いた笑いのまま彼らに着いていく。月潟も夏葉やニコラ、他の女子たちと同じグループになって着いてきていた。

 月潟とはあまり話さない方がいいとは思ってる。ニコラからすれば、僕に近づく女子は僕と海知のフラグをへし折りに来る邪魔者でしかない。距離感を間違えれば酷い目に、最悪ち囮のような事態に発展しかねない。

 それでも心配は心配だ。あいつは昨日北湊の風習に疑問を持ち、戸惑い、声を上げようとした。それは悪手でしかない。何も見なかったかのように過ごすことがニコラのゲーム盤でやっていくコツだ。だから僕も今回カラオケに参加したわけだし。

 まぁ……早くも帰りたいんですけどね。


「うぇぇぇえい!!! 次おれ次おれぇ!」

「いいねぇ! 歌え歌えぇ!」

「ポテト追加ぁ!」


 僕は本当にこいつらと同じ金額を払わなくてはいけないのだろうか……。

 ドリンクバーを取りに行くふりをして外に出た。マジなんなんだよ。早く計画を遂行しないと心折れるぞ。

 一息ついて部屋に戻ると、ちょうど月潟が歌っているところだった。


「五月雨、降るほど心に桐の花ぁ」


 ……僕の好きなバンドの曲だ。これ知ってるやついたのか。いやというかそんなクソマイナーバンド歌っても誰も盛り上がらない……と思ったけど、あまりにも声が綺麗だからみんな聞き入っていた。うん、こういう時女子だとなんか許される風潮ある。

 でも実際上手い。無理に張り上げずに出る綺麗なハイ、ロングトーンのブレのなさ、音程の変化にも対応している。控えめに言って聞き惚れてしまう。


「うめぇええええ!!! 月潟ちゃんまじうめぇ!」

「はー、天使だわぁ……天使の歌声や……」


 成る程これは人気者になる。かみさまの顔でかみさまから邪悪成分取り除いたらそりゃ天使扱いされるのも納得できるとも。

 歌い終わった彼女は少し照れくさそうに頬をかくと、そのまま何故か僕を見て近くに寄ろうとした。だが、


「おっとぉ!」

「ーーッ! あぶなっ」


 男子が突然僕にグラスの中身を傾け、中のコーラをかけようとしてきた。咄嗟の事だったけど、この程度ならうまく躱せる。コーラは虚空を彷徨い、壁にぶちまけられた。

 しかし直後、それを拭く動作をして立ち上がったニコラが手にもったグラスを僕の頭からぶちまけた。これは流石に避けきれず、頭部への直撃は避けたものの制服に烏龍茶がかかってしまった。ぽたぽたと滴る液体が、部屋に水溜りを作る。


「…………………」

「ぬふふ、拭こうとしたら間違えちゃったよ、ごめんごめん」

「……いいよ。タオルあるし」

「いやいや、着替えあるよ? ほら! じゃじゃじゃじゃーん!」


 彼女が取り出したのは、チアガールの衣装だった。この衣装、見覚えがある。確かこれは入り口のハンガーに掛けられていた……。

 あぁ、そういうことか。


「ほの囮、これに着替えてもいいよー? ぬふふっ!」

「お、ほの囮ちゃんチアやんの? みてぇなぁ!」

「勿論下着は女の子のだよなぁ! 女子誰か貸してやれよー!」

「あ、おれドンキで買ってこようか?」


 カラオケにはコスプレグッズが置かれているところもある。初めからニコラはこの展開を狙っていたのだろう。

 ため息も吐きたくなる。こんな二番煎じの戦法を使って何が面白いんだ? 


「おい、なんでコーラかけようとしたの? 明らかにわざとだったけど」

「は? ちげーよ、事故だって。な、なぁ、ニコラちゃん、そうだよな?」

「そーだよアタシもみてたもん。なに犀潟、あんたグラスの空気悪くさせるつもり?」

「せっかく楽しんでるんだから水を刺すなよなー」


 この空気感は、まずいな。クラス会に参加しなくても多分空気読めない奴扱いされてただろうけど、参加しても地雷が埋まっているとは。


「みんなしてどうしたの? なんでほの囮くんを責める流れになってるの?」


 月潟は本気で困惑していた。こっちを見る目が少し潤んでいる。

 数日間見てきたけど、この子はいい子だとは思う。だけど、こっちはこっちで空気が読めていない。今ここで僕の擁護をするってことはニコラの、クラスメイトの攻撃対象になるんだぞ。お前に何のメリットもないだろうが。


「用事思い出したから帰る」

「へ?」

「夏葉、金ここにおいてくからあとよろしく」

「ちょ、ほの囮!?」

「あれ? 帰るのー? ぬふふ、ほの囮ー、恥ずかしがらなくてもいいんだよー?」

「そうそう、僕恥ずかしがり屋だからチアは無理。夏葉に着させといて。で、あとで写真ちょうだい」

「ほの囮!?」


 なんとなく夏葉を弄っておこう。ニコラも、夏葉への恋愛感情がホンモノならチアガールは見たいだろうし。


「ふーん、まぁ良いけど。ばいばい、また明日、ほの囮。明日楽しみだねぇ」

「……? ああ、ニコラも楽しんでいきなよ」


 戦略的に負けた感はあるけど背に腹はかえられない。ここでチア衣装を着ることは、ニコラに屈服したことと同義だ。着たが最後、僕はニコラの奴隷に転落する。向こうもそれはわかってるだろうし、おそらく明日何か仕掛けてくる。


「待って!」


 カラオケ店から外に出て伸びをした僕を引き止める声がする。

 月潟は、少し息を切らしながらこっちを見ていた。体力はあんまりないらしい。


「ぜぇ、ぜぇっ」

「……めちゃめちゃ体力ないじゃん。ほら、ハンカチ」

「あり、がと……わっ、何この可愛いハンカチ」

「嫌ならやらん」

「意地悪……うん、ありがたく使わせてもらうね」


 僕の愛用ハンカチ。1990年頃の漫画のキャラが描かれている。あのゆるゆるしつつも哲学的な思考を持つ動物たちを描いた漫画が僕は大好きで、一応全巻持っている。


「って、そうじゃなくて! あの、さ!」

「戻りなよ。少なくとも、ここは僕を追いかけて良い場面じゃない」

「……………どういう意味?」


 月潟は優しい。まだ彼女について全然わからないけど、それでもそこらへんの連中より遥かに優しい。

 だからこそやはり、僕は彼女には優しい心根のままでいて欲しいと思った。


「だから、嫌いなんだよ……」

「……へ?」


 かみさまの顔でかみさまとは別人。何か悪意があってそうしているなら僕は彼女を心の底から敵認定することが出来た。

 けれど……。


「僕は……お前が嫌いだ。だから早く戻ってくれない? 正直うざい」

「ーーーーッ!?」


 彼女の傷ついた顔を見ると心がズキズキと痛む。僕はかみさまを幸せにするためにかみさまをやっているのに、彼女に酷い言葉をぶつけるとその真逆を行くような感覚になる。

 だめだ。

 1秒でも早くこの場から立ち去りたい。

 

「……だったら」


 苦しそうな顔で、

 悲しそうな表情で、

 月潟は言った。



「だったら、どうして優しくしてくれるの?」



 彼女の泣きそうな顔を見たとき、もう僕はそこに立っていられなかった。何も答えずにその場から走り出す。

 心が苦しい。痛い。違う、僕はこんなことのために戦ってるんじゃない。僕は、私は、


「痛い、痛い、痛い、かみさま、どうしてですか、かみさま……」


 樹海にたどり着いた時、僕は何も考えずにその場で倒れ込み、気づいたらベッドの上だった。幽霊たちがまだ運んでくれたのだろうか。

 今日は襲撃事件を起こす気力すら湧かない。そのまま眠りに落ちてしまったのだった。

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